100年受け継がれる地域とのつながり
2026年7月10日・11日の2日間、第16回鴨台盆踊り(後援:豊島区・北区・高知県)を開催した。来場者数は、初日5,869人、2日目8,028人、合計13,897人(過去最多)を記録し、創立100周年を象徴する、地域・大学・多世代が集い、新たなつながりを育む場となった。

学長・副学長、学生、地域住民がともに踊る盆踊りの輪。立場を超えて同じ場を共有する姿が、創立100周年の節目にふさわしい大学と地域のつながりを象徴している。
大正大学の盆踊りの原点は、1919(大正8)年に宗教大学の学生が始めた魂祭にある(資料1)。「地域のために学生が行動する」という理念は、1970年代以降の中断や東日本大震災後の再開を経て、2013年から鴨台盆踊りへと受け継がれてきた(齋藤,2025)。創立100周年を迎えた今年も、その理念を基盤として、学生主体による地域・大学・多世代が共創する教育実践が展開された。

資料1 『読売新聞』1919年7月14日付全国版朝刊、4面
今年度は、近隣高校やスターダスト河内に加え、東京大学・お茶の水女子大学の盆踊りサークル、南三陸町、高知県との連携を拡充した(工藤,2026)。高知県と連携した「正調よさこい」のレクチャーには、滝野川など周辺地域の子ども等105人が参加した。滝野川は、よさこい節のモデルとなった実在人物「お馬さん」が晩年を過ごした地であり、現在も供養塔が残るなど「よさこい」とゆかりの深い地域である(東京都北区,2026)。南三陸ゆかりのゲストとの「とこやっさい」や「あっぱれ音頭」の共演とともに、地域の歴史的な縁を生かした交流が実現した。

南三陸、高知県、大学間連携など、多様な主体との協働が創立100周年のコンセプト「〇をかけろ」を具体化した。
また、「盆踊りサークル踊月」が創立100周年記念「大正大学音頭」の制作を主導するなど、学生が主体となってモニュメント、記念てぬぐい、光る腕輪などを企画・制作し、来場者自身がイベントづくりに参加できる仕掛けを取り入れた。その結果、学生や地域住民、子ども、高齢者が同じ輪の中で踊り、世代や立場を超えた交流が会場全体に広がった。

学生が企画・制作した記念モニュメントや光る腕輪。100周年を彩る仕掛けとして機能した。
アコースティック・コミュニティをデザインする
本実践を特徴づけるのは、イベントの運営ではなく、人々が自然に関わり合う場をデザインした点にある。近年、盆踊りは地域コミュニティ形成の観点から再評価されている。岡本・金谷(2025)は地域住民のネットワーク形成への効果を示し、鉄口(2020)は教育実践としての可能性を論じている。齋藤(2025)は、鴨台盆踊りを地域課題と向き合うPBLとして位置付け、その実践知がTA・SAによって継承される点を特徴としている(長谷川,2025)。
シェーファー(2006)は、共通の音環境を共有する集団を「アコースティック・コミュニティ」と呼んだ。太鼓や音頭、掛け声、拍手が重なり合う盆踊りは、人々を同じ場へ引き寄せ、共通の時間と空間を共有させる。子どもから高齢者までが同じ輪で踊る姿は、世代を超えた交流や一体感を生み出しており、アコースティック・コミュニティの実践例として捉えることができる(映像資料1)。

映像資料1 第16回鴨台盆踊りダイジェスト@Tokyo Lonely Walker
(リンクを押すとYouTubeが開きます)
しかし、そのような場は偶然生まれるものではない。学生たちは「地域社会にどのような価値を生み出すか」という問いから、創立100周年のコンセプト「〇をかけろ」を考案した。この理念を軸に、櫓演出、大学間連携、地域連携、広報、モニュメント制作など、多様な企画を一つのコンセプトのもとに統合した。一般的なPBLが課題解決を重視するのに対し、本実践では共有されたコンセプトを起点として地域に新たな価値を構想する点に特徴がある。学生は課題解決を模索するだけではなく、地域・大学・多世代が共に価値を創るための関係性そのものをデザインしたのである。
さらに、高校生や「すがもプロジェクト」に携わる学生、地域団体によるワークショップや体験企画、模擬店などが加わったことで、「踊る」だけではなく、「遊ぶ」「体験する」「交流する」といった多様な参加の入口が設計された。山崎(2012)のいうコミュニティデザインの視点から見れば、学生が大学周辺約100か所の自治会や学校、商店を訪ねた広報活動も、人と地域をつなぐ「きっかけ」と「仕組み」をつくる実践であった。学生がデザインしたのはイベントではなく、人々が共通の音環境を共有し、多様な主体が自然に関わり合うアコースティック・コミュニティであった。

盆踊りに加え、ワークショップや体験企画など、多様な参加の入口が人と人との新たなつながりを生み出した。
AI時代に継承する大学文化
当日の様子はSNSでも広く共有され、「学生の熱意が伝わった」、「また来年も参加したい」といった反響が寄せられた。豊島区長も、学生主体で地域とともにつくる夏の風物詩として、その価値を発信している。
AIの発展によって知識の獲得や情報処理はますます容易になった。一方、人と向き合い、地域を歩き、多様な主体との対話から社会的価値を構想し、それを実践へ結び付ける営みは、人間だからこそ担える学びである。学生たちは「〇をかけろ」というコンセプトを共有し、盆踊りを媒介として地域・大学・多世代をつなぐアコースティック・コミュニティをデザインした。それはイベント運営ではなく、コンセプト・ドリブンなPBLを通じて新たな関係性を創出する教育実践である。
100年前に始まった「地域のために学生が行動する」という理念は、今日では学生が地域とともにアコースティック・コミュニティをデザインする教育実践として継承されている。創立100周年はその歩みをふり返る節目であると同時に、新たな100年へ向けた出発点でもある。

「〇をかける」第16回鴨台盆踊り実行委員
参考文献
・鈴木積善『児童宗教々育の理論と実際』宗教大学社会事業研究室、1921年
・R.マリー・シェーファー、鳥越けい子 (翻訳)『世界の調律 サウンドスケープとはなにか』平凡社、2006年
・山崎亮『コミュニティデザイン―人がつながるしくみをつくる』学芸出版社、2012年
・岡本結菜、金谷信子「盆踊りと地域コミュニティの活性化 : 広島市の盆踊りとコミュニティ政策の軌跡」『広島国際研究』31巻(2025年)
・鉄口真理子「音楽授業における盆踊りづくりにみる共同体形成の可能性 : 共同行為成立に着目して」『鳴門教育大学研究紀要』35巻(2020年)
・齋藤知明「『フィランソロフィー』としての仏教理念の表現―社会活動と盆踊り―」『国際地域学研究』第28号(2025年)
・長谷川隼人「盆踊りでつながる地域と大学の夏」『大正大学地域構想研究所研究レポート』(2025年)
・工藤量導「第16回鴨台盆踊り『〇をかけろ』」『大正大学地域構想研究所研究レポート』(2026年)
・北区地域振興部観光振興担当「西福寺」『東京都北区観光ホームページ』https://kanko.city.kita.lg.jp/spot/358-2(閲覧日:2026年7月20日)


