スマートシュリンクには誤解もある
スマートシュリンク(賢く縮む)について各種報道が盛んに取り上げるようになり、また全国知事会などでもこれをめぐって意見が交わされるようになったことから、これまであまり強い関心を持っていなかった自治体関係者にもこの言葉が知られるようになった。それ自体は好ましいことなのだが、いささか気になることもある。自治体関係者の間で、言葉の真の意味が伝わらず、誤解している人が少なくないのである。
例えば、総務省が進める「公共施設等総合管理計画」の後押しだと受け止めている人がいる。総合管理計画などといういかにもお役所風の施策名をカタカナのスマートな名称に改めただけと勘違いしているのである。これはスマートシュリンクの実践例としてしばしば取り上げられる岡山県美咲町が「ハコモノ」を中心とした公共施設を大幅に減らしているのを、その実相に迫ることなく表層的にしか理解していないことから生じる誤解だと思う。
また、スマートシュリンクという美名のもとにさらなる市町村合併を仕掛けようとしているのではないかと皮肉る人もいる。人口が減ると縮まざるを得ないのだから、人口減少が見込まれる町村は今のうちに賢く合併をめざすべきだというのである。スマートシュリンクとは平成の大合併に続く更なる合併の符牒だと曲解しているようだ。
さらに、自治体の首長からしばしば聞かされるのは、自分はスマートシュリンクに取り組みたいが、それを言い出し難い悩みである。「賢く」であろうとなかろうと、首長が人口減少に応じて「縮む」などというジリ貧的な発想を持ってはダメだ。出生率を上げたり、移住者を増やしたりして人口が減らないように努力するのが首長の務めではないかと、地域の有力者や議会の議員から突き上げられかねないというのである。
首長のこの悩みは、地域の住民や議員たちがスマートシュリンクの意味をよく理解していないことの反映であり、同時にそのよく理解していない人たちに対してスマートシュリンクの真の意味とその必要性を説くだけの勇気と心構えを首長が持ち合わせていないということでもある。
では、そもそも地域政策におけるスマートシュリンクの真の意味は何か。それは地域の人口が減っても、生産性を向上させることによって住民生活に必要な諸機能をできるだけ維持し、住民のウェルビーイングが損なわれないようにすることを目指す考え方である。地域によってはその過程で公共施設の再編などを伴うことは想定されるものの、決してその廃止などを目的とするものではないし、まして市町村合併を志向するものでもない。
そのことは、スマートシュリンクを先駆的に取り上げてきた大正大学地域構想研究所の小峰隆夫客員教授や、筆者などこの課題に深い関心を持つ者が様々な機会や媒体を通して話したり書いたりしているのだが、なかなか自治体のみなさんに真意が伝わらない。それをもどかしく思うとともに、言葉の意味を共有することの難しさやコミュニケーションデザインの重要性を痛感させられているところである。
スマートシュリンクの真意を具体的に示す
去る9月1日、大正大学地域構想研究所は「賢く縮むまちづくり~地域で進むスマートシュリンク~」と題するシンポジウムを朝日新聞社と共同で開催した。このシンポジウムでは、自治体のみなさんにスマートシュリンクの真意を伝えたいとの考えのもとに、それにふさわしい実践をされている方として高知県の濵田省司知事、静岡県南伊豆町の岡部克仁町長及び鳥取県日南町の中村英明町長を招き、それぞれの取り組みを発表して頂いた。
高知県は2024年に策定した人口減少に対応するための県のマスタープランである「元気な未来創造戦略」の中にすでにスマートシュリンクの視点を取り入れている。しかも、これは朝日新聞高知支局に勤務していた記者の方から伺ったことだが、濵田知事はその当時の記者会見において、自らの言葉でスマートシュリンクの必要性を説いたという。人口減少を前提にした地域づくりなど容易に持ち出せる環境になかった高知県にあって、ためらうことなくスマートシュリンクの必要性を訴えた濵田知事の勇気と心構えに記者は驚きを覚えたという。
静岡県南伊豆町は町西部の地区で下水処理場を廃止した。これまで人口が増えることを前提に下水道を整備してきたが、人口は逆に減り続けている。下水道会計は大赤字で、それを町の一般会計からの多額の繰り出しで補填しており、財政に与えるダメージは大きい。
ただ、赤字解消のためとはいえ下水道を廃止しただけでは汚水処理環境は著しく低下する。そこで、町はその地区の汚水処理方式を下水道から各家庭に設置する合併処理浄化槽に切り替えることにした。これによって汚水処理環境を低下させることなく、町の財政を圧迫していた赤字を解消することが可能になったし、今後の更新に要する経費も大幅に減らせる。スマートシュリンクの典型的な事例だと言っていい。
340km2という広大な面積の鳥取県日南町は、コンパクトヴィレッジ構想を推進している。人口は減少し続けていて、このままだと町内各地域で生活機能を維持することが困難になる。そこで行政機能はもとより医療福祉、教育、買い物、金融など住民生活に必要な諸機能を中心地域に集約し、そこと各集落とを交通ネットワークでつなぐこととした。
これによって各集落にそれぞれ立地していては到底成り立たない買い物機能や金融機能も、中心地域への集約を通じてそれなりの顧客規模が確保されることによって持続可能になった。しかも、コンパクトヴィレッジ構想は、住民の集住を前提とするコンパクトシティ構想とは異なり、住民は住み慣れた地域に住み続けることができる。これも優れたスマートシュリンクである。
以上3人の首長の発表はいずれもスマートシュリンクの真意を伝えるにはうってつけの内容だった。しかもそれぞれの発表には、これからスマートシュリンクに取り組もうとする自治体にとって有益なヒントや手がかりになる要素が多く含まれていたこともあり、会場に参加していた自治体のみなさんからとても好評だった。シンポジウムを主催したものとして感慨に堪えない。併せて、これから全国各地で内発的かつ主体的なスマートシュリンクが展開されることを期待している。




