出生動向基本調査を見る

著者
大正大学地域構想研究所 客員教授
小峰 隆夫

国立社会保障・人口問題研究所が5年に一度行っている「出生動向基本調査」というものがある。本年9月に2025年の調査結果が発表された。これは、結婚や出産についての人々の意識を調べるもので、人口の将来を考える上で重要な資料である。
今回の調査結果はかなり衝撃的である。人口減少がさらに加速しつつあることが示されているからだ。そもそも日本では、出産の大部分は結婚したカップルによるものである。OECDのデータによると、結婚していない男女から生まれた子ども(婚外出生)の割合は約2%(2023年)である。すると、人口変化の鍵を握る合計特殊出生率(女性が一生の間に産む子供の数、以下出生率)が今後どうなるかは、「結婚する女性の割合(有配偶率)がどう変化するか」と、「結婚した後産まれる子供の数(有配偶出生率)がどうなるか」という二つの要因によって決まることになる。今回の調査で、その二つの要因がどう変化しているかが分かるのだ。
まず有配偶率の今後については、「いずれ結婚するつもりか」を調査している。その結果では、18~34歳の未婚女性で、「いずれ結婚するつもり」と答えたのは77.8%で、前回調査(2021年)の84.3%をかなり下回っている。その中で、「一生結婚するつもりはない」と答えたのは21.5%で、前回(14.6%)をかなり上回っている。結婚しないという選択をする人が増えているのである。
有配偶出生率についてはどうか。「いずれ結婚するつもり」と答えた女性未婚者の希望子ども数は1.70人で、前回(1.79人)より減っている。「一生結婚するつもりはない」人を含めた全ての女性未婚者の希望子ども数は、1.36 人(前回1.56人)となっている。
もう一つ、すでに結婚している人の子供数はどうか。これにはいくつかの調べ方があるが、「結婚15~19 年の夫婦の最終的な出生子ども数」は、平均1.86 人であり、これは前回(1.90 人)とあまり変わらない。なお、3 組に1 組の夫婦が結婚時の予定子ども数を下回っているという状況がある。
結婚する人が減り、結婚した後の子供の数も減るのだから、今後の出生率はさらに低下する可能性が高いということになる。人口の将来展望は、これまで考えられていた以上に厳しいのだ。
さて、前述のように、出生率は、有配偶率と有配偶出生率で決まる。しかし、世の中には、結婚したいのだが結婚できない人や、もっと子供が欲しいのだが我慢している人がいるはずだ。そこで、結婚したい人は全て結婚し、産みたいと思っている子供は全て産まれるという仮定を置いてみる。その時現われる出生率が「希望出生率」というものである。すなわち、全ての人々の希望が叶えられた場合に実現する出生率である。現状で望みうる最も高い出生率だと言ってもいい。
私はかなり前から、この希望出生率という考え方に関心を持っていた。政府が少子化対策の目標にしていたからである。まず、2014年に決定した「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」では、若い世代の結婚・子育ての希望が実現すれば、出生率は1.8程度まで改善するという考え方が示された。また、2015年に安倍政権が掲げた「新・三本の矢」では、「名目GDP 600兆円」「介護離職ゼロ」と並んで「希望出生率1.8」が三つの大きな目標として位置付けられている。さらに、2020年5月に決まった「第4次少子化社会対策大綱」でも、希望出生率1.8の実現が基本的な目標とされている。
この希望出生率は次のようにして計算される。
①既婚者から産まれる子供の数は、「既婚者の割合」×「夫婦の予定子ども数」
②未婚者から産まれる子供の数は、「未婚者の割合」×「未婚者の結婚希望割合」×「未婚者の理想子ども数」
で計算できる。両者の合計に調整係数(離別などによる結婚カップルの減少)を乗じたのが希望出生率となる。政府が使っていた1.8という希望出生率は、2010年の出生動向基本調査などによって計算されたものであった。
しかし、前述のように、2025年の調査結果では、この式に含まれる「未婚者の結婚希望割合」や「未婚者の理想子ども数」が低下しているので、希望出生率も低下しているはずだ。ではどの程度低下したのか。私は、出生動向基本調査が出た後すぐに計算してみようとしたのだが、最新の変数を揃えるのが難しい。そこでAIに計算を命じてみた。すると、不明の変数についてはいくつかの前提を置いた上で、1.44になるという結果が得られた。
その後、日本経済新聞に「希望出生率が1.46に低下している」という記事が出た(2026年9月12日付)。これは、日本経済新聞が京都大学の柴田悠教授の協力を得て試算したものである。私がAIに計算してもらった結果とほぼ同じである。やはり希望出生率はかなり下がっているのである。
この希望出生率の低下は、これまで以上に、日本の人口減少の勢いが強いことを示している。政府がこども手当や保育園の整備などにいくらお金を使っても、できることは希望出生率を実現することまでである。その出生率の実現可能な最大値が1.46だとすれば、少子化の勢いは止まりそうにない(人口減少をストップさせるためには、出生率を2.07まで高める必要がある)。また、政府の施策のほとんどは「結婚した後に子供を産み・育てやすくする」ための施策なのだから、結婚しない人が増えてしまったら、政策の及ばない範囲が拡大していくことになる。
ただし、希望もある。今回の調査では、「一生結婚する可能性はない」と答えた女性に「いずれ結婚するつもり」に変わる可能性があるかを尋ねているのだが、「あると思う」「あるかもしれない」を足すと47.0%となる。日本がこれから頑張って、結婚や子育てにやさしい経済社会を築いていけば、「結婚するのも悪くない」「もっと子供を持ってもいい」という人たちが増えて、希望出生率そのものが上昇する可能性があるのだ。まずは1.46という希望出生率の実現をめざし、更にはその希望出生率を高めていくような経済社会を目指したいものだ。

2026.10.15