公共投資の歩みとスマートシュリンク

著者
大正大学地域構想研究所 客員教授
小峰 隆夫

本欄ではしばしばスマートシュリンク(賢く縮む)という考え方を取り上げてきた。人口減少を受け入れて、人口減少下でも地域住民のウェルビーイングを高めていこうというのがスマートシュリンクの考え方である。このスマートシュリンクは既に多くの地域で実践されている。その典型が、公共施設や社会資本設備を人口減少に合わせて整理・統合していくことだ。これは、公共投資と地域の関係が大きく転換していることを示しているように思われる。私はかなり長い間、マクロ経済の観測、経済政策の評価・提言などを中心にエコノミスト生活を送ってきた。その経験を踏まえて改めて公共投資と地域との関係について考えてみよう。
なお、マクロ経済を議論する際には、公共投資は「公的固定資本形成」と呼ばれることが多いのだが、本稿では読者になじみ深いと思われる「公共投資」という言葉を使うことにする。
公共投資にはいくつかの側面があるのだが、最も重要なのは「需要面」と「供給面」という二つの側面である。公共投資はGDP(国内総生産)の支出項目の一つである。公共投資を実行すると資金が支出され、それを誰かが所得として受け取るという流れが生まれる。これが需要面から見た公共投資である。一方、公共投資を行った結果、例えば、新しい橋や道路が建設されると、交通の利便性が高まるし、上下水道が整備されると生活水準が向上する。これが供給面から見た公共投資である。
さて、これまでの日本の公共投資には「経済活動に占める比率が高い」という大きな特徴があった。その指標として、名目GDPに占める公的固定資本の割合を見ると、1970~2000年で、日本が5~6%だったのに対して、先進主要国(米英独仏)は1.5~3.5%程度であった。簡単に言えば、日本は土建国家だったのである。
なぜそうなったのかについてはいくつかの理由が考えられる。まず、高度成長期には、民間の経済活動が活発だったため、道路、橋などの社会資本の立ち遅れが目立った。また、先進国の仲間入りをした日本としては、下水道、高速道路などの整備が求められていた。経済が拡大していったため、税収の伸びも高く、財源もあった。
90年頃からは、経済対策としての側面がこれに加わった。90年以降の日本経済は、バブルが崩壊し、経済が低迷したため、毎年のように経済対策が策定されたのだが、その対策の大きな柱の一つが公共投資の拡大であった。公共投資が増えれば、その分日本のどこかで所得が生まれ、雇用も増えるはずだからである。これは前述の需要としての公共投資の効果に期待したものである。
ここで地域が関係してくる。私は当時、人口一人当たりの公共投資額を都道府県別に計算してみたことがあるのだが、分析してみると、一人当たり所得水準の低い地域ほど一人当たりの公共投資額が大きいという関係が読み取ることができた。これは、地域振興、所得再分配の手段としても公共投資を活用してきたということである。どうせ公共投資を増やすのであれば、産業基盤が弱く、雇用機会も乏しい地方部で増やそうと考えたからである。
なお、ハンディキャップ地域の振興という課題に対しても、公共投資が使われてきた。例えば、過疎地、離島、山村、豪雪地帯などのハンディキャップ地域については、それぞれ振興法が定められているのだが、その中では公共投資の補助率のかさ上げが重要な政策手段として位置づけられている。
さて、この公共投資の水準が高いという日本的特徴は、2000年頃から次第に薄れていくのだが、これは財政事情が厳しくなったので、高水準の公共投資を実行していくことができなくなってきたこと、公共投資を増やし続けてきたため、社会資本の整備水準が国際的に見てもかなりのレベルに到達したことなどによる。
これに代わって登場してきたのが、維持補修費増大の懸念だった。例えば、国土交通省が作成した「国土交通白書(2012年版)」では、道路・港湾・下水道などの主要社会資本について将来の維持管理・更新費を試算し、従来と同じ維持管理を続けた場合、2037年度には維持管理・更新費が投資可能総額を上回るとしている。つまり、既に作ってしまったストックとしての社会資本を維持するだけで財源を使い切ってしまい、新しい社会資本整備は全くできなくなるということである。
ここまでが私が経験してきた社会資本についての議論の振り返りである。ところがスマートシュリンク論の視点から考えると、日本の社会資本整備はそれでは済まない状況になっている。それは次のようなことになる。経済にはフロー(流れている部分)とストック(溜まっている部分)がある。例えば、毎月貯金をするのはフローであり、溜まった貯金の残高がストックである。同じように、人口はフローであり存在する社会資本はストックである。さて、人口が増えている時には、増えた人口にふさわしい社会資本を整備する。ところが、人口が減り始めると、フローの人口とストックの社会資本がフィットしなくなる。人口は減っても、一たび整備してしまった社会資本は減らないからである。すると、既存の社会資本や社会施設を整理・統合していく必要が出てくる。これが既に多くの自治体で苦労しているところである。
この社会資本の整理・統合は、これまでのように新しい社会資本を増やすわけではない。今までの社会資本の機能を維持するわけでもない。社会資本のストックを減らそうというのである。いわば「負の社会資本投資」である。社会資本を増やしたり、現状を維持することについては、住民の合意を得やすい。政治家も自分の政治力を誇示することになるので熱心である。しかし、社会資本を整理・統合することは、どうしても住民の利便性を損なうことになるので、合意を取り付けるのが難しい。政治的な支援も得にくい。地域住民のウェルビーイングを損なわずに、いかにして社会資本や社会施設の整理・統合を進めるのか。難問ではあるが、多くの地域で工夫が積み重ねられているようなので、私もさらに考えてみたい。

2026.09.15