「担い手」としての関係人口——地域政策10年目の転換を読む

著者
地域構想研究所 主任研究員
中島 ゆき

「関係人口」という言葉の変化

「関係人口」という言葉が登場したのは、2010年代後半のことだ。総務省は「移住した定住人口でもなく、観光に来た交流人口でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々」と定義し、東京一極集中の是正を旗印にした地方創生の一つの柱に位置づけた。当初、この概念が注目されたのは、人口減少が止まらない地域に「外からの関わり」を増やすという、どこか希望的な文脈においてであった。
しかし今、その意味付けが静かに、しかし確実に変わりつつある。キーワードは「担い手」である。地域に関わる人を増やすことから、地域の課題を実際に担う人をつくることへ。この転換は、単なる政策用語の刷新ではなく、時代そのものの変化を反映している。

「賢く縮む」という発想の転換

背景にあるのは、人口減少に対する認識の根本的な転換だ。かつて地方創生の主眼は「人口減少を止める」ことにあった。移住促進、子育て支援、UIターン誘致——あらゆる施策がその一点に向けられていた。しかし近年、政策論の前提が変わってきた。
「スマートシュリンク(賢く縮む)」という概念がその象徴だ。小峰隆夫教授が10年前から提唱し、当研究所がその頃から注目し続けてきたこの考え方は、「縮小する人口を前提としながら、それでも地域を豊かに機能させる」という発想の転換を促すものである。
(リンク:スマートシュリンク論の変遷 https://chikouken.org/report/report_cat01/17480/
人口が減少しても、経済は必ずしも停滞しない——就業者数は生産年齢人口の減少にもかかわらず増加を続け、一人あたりGDP(名目)は2010年から2024年にかけて約25%成長している。小峰先生の論では、人口が減ると経済が停滞するというのは先入観であり、必ずしも「停滞する訳ではない」ということが、データからみてとれるということだ。論点は、人口がたとえ減ったとしても、いかに幸せに生きるか(ウェルビーイング)であり、それを実現するための地域をつくることである。これがスマートシュリンクの核心である。
2025年初頭、当研究所は全国自治体を対象にアンケート調査(494自治体が回答)を実施した。その結果、スマートシュリンクという言葉を「よく知っている」「ある程度知っている」と回答した自治体は全体の約30.0%にとどまり、人口1万人未満の小規模自治体では「全く知らない」が35.4%を超えた。また「人口減少を前提とした政策立案」に対する姿勢を問うと、積極的に取り入れるべきとする賛成派が37.5%、強調しすぎることへの懸念や必要性は認めつつも強調不要とする慎重派が約40%、人口減少抑制策を優先すべきとする反対派が約20%と、自治体の間でもスタンスが三分している実態が浮かび上がった。転換は始まっているが、まだ途半ばにある。

図 1 スマートシュリンクの認知度(地域構想研究所実施「地方創生2.0に関するアンケート」2025年3月実施)より)

図 2 人口減少を前提とした政策立案についての考え方(地域構想研究所実施「地方創生2.0に関するアンケート」2025年3月実施)より)

地方創生2.0から「地域未来戦略」へ

こうした当研究所の問題意識と社会の動きが交差したのが、2024年末の「地方創生2.0」である。石破政権のもと、令和6年12月24日に閣議決定された「新しい地方経済・生活環境創生本部」の方針には、次のような文言が明記された——「今後、人口減少のペースが緩まるとしても、当面は人口・生産年齢人口が減少するという事態を正面から受け止めた上で、人口規模が縮小しても経済成長し、社会を機能させる適応策を講じていく。」
地方創生元年(2015年)からちょうど10年。地方創生1.0が「人口減少に歯止めをかけ、東京一極集中を是正する」という旗を掲げてきたのに対し、2.0では軸足が大きく変わった。
①生産性向上(DX推進)
②居住者にこだわらない人口(すなわち労働力)の活用(関係人口・二地域居住)
③地域のコンパクト化——この3点が新たな柱として強化された。
翌2025年10月に発足した高市政権は、この方向性を「地域未来戦略」として継承・強化した。経済・雇用強化型の地方創生として、関係人口や副業人材の活用がより明確に位置づけられ、総務省は「ふるさと住民登録制度」の創設に向けた予算措置(令和7年度補正で35.6億円)を講じた。実人数1000万人・延べ人数1億人という目標のもと、制度的基盤の整備が本格化している。
こうして「関係人口」という概念は、地域への関心を持つ存在、いわば地域の応援者という立場への期待から、地域の仕事を実際に担う存在への期待へと、その意味付けを大きく変えようとしている。

現場が示した研究課題

筆者はこれまで、いくつかの地域における関係人口の実践現場に関わり、調査研究を重ねてきた。その過程で共通して浮かび上がってきた課題がある。「人をつなぐだけでは地域価値は生まれない」という現実だ。スキルを持つ外部人材が集まっても、それが地域の成果に結びつくとは限らない——複数の実践を観察する中で、この問いが繰り返し立ち上がってきた。
そこから浮かび上がった仮説が、「コーディネート機能」の重要性である。地域側と外部人材の間を設計し、調整する機能が介在することで初めて、関係人口の力は地域の成果へと転換されるのではないか。この仮説の検証については、次稿(「関係人口に仕事を頼む前に、整えるべきことがある」)で詳しく論じる。

図 3 外部人材が地域でうまく活躍するために必要なコーディネート機能の必要性(仮説概念図/筆者作成)

転換点に立つ今

地域未来戦略のもと、制度は整いつつあり、社会の流れもそちらに向かっている。ただ転換は、まだ途半ばにある。2025年初頭に当研究所が実施した全国自治体アンケートでは、スマートシュリンクという発想が浸透していた自治体は約3割にとどまっていた。
しかしその後、状況は動いた。2026年1月、朝日新聞が全国知事を対象に実施した大規模調査(当研究所も調査設計と結果解釈に参加した)
(リンク:「朝日新聞のアンケート調査から スマートシュリンクを考える https://chikouken.org/report/report_cat01/17906/
では、「賢く縮む」という考え方を施策に取り入れることに肯定的な知事が57%に達し、否定的な知事はゼロだった。小峰隆夫教授が10年以上前にこの言葉を言い始めた頃、「シュリンクでは希望が持てない」と受け入れられなかったことを思うと、ずいぶん遠くまで来たものだと感じる。
「担い手としての関係人口」という新しいフェーズも、きっと同じように、少しずつ現実になっていくことを期待し、実践に力をいれていきたい。

2026.04.15