人口問題の中で、特に少子化は結婚行動との関係が強い。この問題を経済学的な視点から考えてみよう。
まず、少子化そのものを経済学ではどう考えているかを見ておこう。経済学の基本的な枠組みでは、人々はコストとベネフィットを比べた上で、自らの満足度や幸せ(経済学では「効用」という)を最も高めるような行動を合理的に選択していると考える。
出生率は所得水準と関係しているという見方が強い。世界的には、所得水準の高い国ほど出生率が低いという傾向がある。世界銀行のデータ(2024年)で所得カテゴリー別に出生率を見ると、高所得国1.4、中所得国2.3、低所得国4.6となっている。日本の出生率も、戦後所得水準が高まるのと歩調を合わせて低下してきた。ではなぜ所得水準が上昇すると出生率が低下するのか。経済学の標準的な答えは、所得水準が高まると、子供を持つことのコストが高くなり、ベネフィットが小さくなるからだと考える。
すなわち、低所得国では、子供を働かせたり、老後の面倒を見させたりするので、子供を持つことのメリットが大きい。しかし、所得水準が高くなると、子供により高い教育を受けさせるようになり、老後については社会保障が整備されるようになる。また、女性の社会参画が進むと、子育てのためにキャリアを中断することが大きなコストとして認識されるようになる(これを「機会費用」という)。要するに、所得水準が高くなってくると、少数の子供を大切に育てるようになるのである。
経済学では「結婚」についても考えているので、日本での少子化の動きを、結婚という観点から考えてみよう。日本では、非嫡出子(結婚していないカップルの子供)の割合は2.6%(2024年)であり、欧米では40~60%とされているのに比べて非常に低い。この「子供は結婚したカップルから産まれる」ということを前提にすると、日本で少子化が進んでいる理由としては、「結婚する割合が低下した」か「結婚した後産まれる子供の数(完結出生児数)が減ったか」のどちらかしかない。
データを見ると、長期的に一貫して出生率が低下してきたのには、「結婚する割合が低下した」ことが大きく影響している。未婚化の進行である。未婚化のメルクマールとしては、50歳時点での未婚率を見ることが多いのだが、この数字は、1970年には男性1.7%、女性3.3%だったのが、2020年には男性28.3%、女性17.8%とかなり上昇している。一方、完結出生児数は、1970年代~2000年代初頭までは約2.2人で安定していたのだが、その後徐々に低下し、最新の2021年には1.9人となっている。要約すると、「長期的な出生率低下については、未婚化の影響が大きいが、近年、結婚後に生まれる子供の数も減ってきた」ということである。
ではなぜ未婚化が進行してきたのだろうか。経済学では「人はなぜ結婚するのか」という問題について、例によって、コストとベネフィットの関係で説明する。その中で結婚することの経済的メリットとして、①分業のメリット(夫婦が役割を分担することでより効率的に生活を営める)、②規模のメリット(家賃や光熱費をシェアできる)、③リスク分散(病気になったり、失業した時に助け合える)などを挙げている。
このうち、①の分業の利益は薄れている。かつては男性が働き、女性が家事育児という専業主婦型の分業が成立していたが、女性の社会進出が進み、女性も男性と同じような就業能力を身につけ、所得を得るようになると、こうした分業のメリットは小さくなっている。分業するというよりは、夫婦ともに仕事で力を発揮し、家事・育児も分担するというのが当たり前になってきている。「分業しない」夫婦になってきたのである。また、子供の数が少なくなると、親と長期間同居することが可能となり、結婚したのと同じようなメリットを受けることができるようになった(いわゆるパラサイトシングル)。
社会的規範の弱まりも大きな要因であろう。筆者の若いころは、誰もがいずれは結婚すべきものだという社会意識が強く、「結婚しないと肩身が狭い」という気持ちがあった。近年では特に都市部ではこうした社会規範はほとんどなくなっている。
相手を見つけるのが難しくなったこともある。経済学ではこれを「マッチング問題」と呼んでいる。その中に「学歴ミスマッチ」という現象がある。2015年の「出生動向基本調査」によると、大卒女性の結婚相手の77%が大卒男性であるのに対して、大卒男性の場合は結婚相手が大卒女性の割合は44%であり、男性と女性で大きな違いがある。これは、女性は自分より学歴や収入が同じか、より上の男性と結婚するという「上方婚」と呼ばれる現象である。この上方婚志向があると、女性の学歴が高くなるにしたがって、結婚対象男性が少なくなるのでマッチングが難しくなる。
ただしこれは宿命的なものではない。女性は結婚・出産を経てキャリアを中断しなければならないリスクが男性より大きいから、どうしても上方婚を求めることになる。男女共同参画社会への歩みがさらに進み、女性が男性と同じように活動し続けられるようになれば、上方婚の意識も薄れるかもしれない。
以上、述べてきたように、少子化の進展は結婚行動と深く結びついている。しかし、結婚するかどうかはあくまでも本人の価値観によるものなので、結婚そのものを直接的に促進する政策は限られている。仕事だけではなく、家事・育児面での男女共同参画を進め、結婚したカップルにやさしい経済社会を作ることによって、間接的に結婚を後押しするしかないようだ。
結婚行動からみた人口問題
2026.05.15


