サードプレイスが示す新しい地域づくりのかたち

著者
大正大学地域創生学部地域創生学科 教授
北條 規

近年、「サードプレイス」という言葉が注目されている。サードプレイスとは、家庭(ファーストプレイス)や学校・職場(セカンドプレイス)とは異なる「第三の居場所」のことである。その背景には、子どもや若者を取り巻く社会環境の変化がある。少子化や核家族化、地域コミュニティの希薄化に加え、デジタル化やSNSの普及によって人とつながる手段は飛躍的に広がった。しかしその一方で、安心して悩みを打ち明けられる相手や、ありのままの自分を受け入れてくれる居場所は減少している。人との接点は増えているにもかかわらず、孤独や孤立を感じる若者は少なくない。このことは、現代社会が抱える大きな矛盾の一つと言える。
その象徴が、不登校の増加である。文部科学省によれば、令和6年度の小・中学校の不登校児童生徒数は35万3,970人と過去最多を更新し、約13万6千人は学校内外の専門的な支援を受けていない。不登校によって失われるのは学習機会だけではなく、友人との交流や「自分は必要とされている」という実感など、人とのつながりそのものである。
こうした状況の中、地域では新たな居場所づくりが広がっている。2025年度には全国のこども食堂が12,602か所となり、公立小学校数の約7割に迫った。さらに、フリースペースやプレーパーク、ブックカフェ、地域交流拠点など、多様なサードプレイスも各地で生まれている。そこでは成果や評価ではなく、何気ない会話や食事、共に過ごす時間が大切にされている。安心して過ごせる環境と人とのつながりは、自己肯定感を育み、新たな一歩を踏み出す力となる。
サードプレイスの価値は、子どもだけにとどまらない。高齢者の孤立、子育て世代の不安、移住者や外国人の地域への定着など、現代社会が抱えるさまざまな課題とも深く関わっている。異なる世代や立場の人々が自然につながることで、地域コミュニティは再び息を吹き返す。また、「また会いたい人がいる」「自分を覚えてくれている場所がある」という関係性は、関係人口を育み、地域との継続的な関わりを生み出す原動力にもなる。
私が担当している学融合ゼミナールⅠの授業で、「居場所をデザインする―サードプレイスから考える新しいつながり」をテーマに、学生一人ひとりが社会課題と向き合いながらサードプレイスの企画立案に取り組んでみた。不登校の子どもの居場所、高齢者と学生が交流するコミュニティカフェ、自然の中で心を整えるリトリート空間、趣味や文化を通じて若者同士が緩やかにつながる交流拠点など多様な企画が提案された。
印象的だったのは、多くの学生が「どのような施設をつくるか」ではなく、「誰の孤独や不安を和らげ、どのようなつながりを生み出すのか」という視点で企画を考えていたことである。授業を通して学生たちは、「居場所とは建物ではなく、人との関係性によって生まれるもの」であることに気づき、「安心して過ごせる居場所があることは、人が自分らしく生き、未来へ踏み出すための大きな支えになる」という認識へと変化していった。
この気づきは、学生だけでなく地域づくりに携わる私たち大人にとっても、大きな示唆を与えてくれる視点である。これまで地域づくりは施設や制度を整えることに重点が置かれてきた。しかし、人口減少社会において本当に求められるのは、人と人とがゆるやかにつながり、誰もが安心して過ごせる関係性を育むことである。サードプレイスとは単なる「第三の場所」ではない。人の孤独を和らげ、挑戦を後押しし、地域に新たなつながりを育む場である。これからの地域づくりに必要なのは、建物をつくることではなく、一人ひとりが 「安心して自分らしくいられる」と感じられる居場所を地域の中に育んでいくことである。その積み重ねこそが、人を支え、地域を支え、未来を支える力になるのではないだろうか。

2026.08.03