日本全体のスマートシュリンクを考える

著者
大正大学地域構想研究所 客員教授
小峰 隆夫

信じる人は少ないかもしれないが、私の趣味は本を書くことである。本を書くことは、時間つぶしになるし、頭を適当に使うし、社会とつながっていることを実感できるし、なによりも完成した本を手にした時の喜びはとても大きい。登山が趣味の人が、準備を尽くして、時間をかけ、山頂に立った時はこんな感じなのだと思う。
その私が、「スマートシュリンクへの道」(中央経済社)という新しい本を出した。本欄では、地域のスマートシュリンクについて何度も論じてきたが、この本は、日本全体(全国)のスマートシュリンクについて論じたものである。この機会に、全国のスマートシュリンクと地域のスマートシュリンクの関係について考えてみよう。
本欄でも何度も取り上げてきた「地域のスマートシュリンク」は、地域の人口減少をストップさせることは難しいので、人口減少の下でも住民一人ひとりのウェルビーイングが高まるような地域を目指そうという考え方である。全国のスマートシュリンクも同じである。日本の人口減少をストップさせることは難しいので、人口が減っても、国民一人ひとりのウェルビーイングが高まるような経済社会を目指そうということである。
基本的な柱も同じである。私が考える地域のスマートシュリンクの柱は、「地域を昔のような人口の多い時代に戻すことは不可能だということを認識すること」「地域振興策は背伸びをせず、身の丈に合ったものにすること」「人口減少下でも、住民一人ひとりのウェルビーイングを高めて行くことは可能だと考えること」という三つである。
全国のスマートシュリンクも同じである。第1に、日本全体の人口減少をストップさせることはもはや不可能であることを認識する必要がある。これは合計特殊出生率(女性が生涯で産む子供数の平均、以下出生率)を見れば良く分かる。人口を維持するための出生率(置換水準)は2.07なのだが、最新の2024年の出生率は1.15である。この差は大きすぎる。まずは、人口減少を前提とせざるを得ない状況なのだということを理解しておく必要がある。
第2に、背伸びした少子化対策は再吟味すべきだ。政府は今後、少子化対策のために毎年2.6兆円もの巨額の予算を投入することにしている。しかし、それがどの程度有効であって、それによって出生率がどの程度上昇するかは不透明である。経済学者の分析では、少子化対策でお金をかけても、出生率を引き上げる効果はそれほど大きくないという結果が多い。そもそも、日本の出生率の低下は、結婚する人が減り、結婚年齢が遅くなっていることが大きく影響している(未婚化、晩婚化)のだが、今考えられている少子化対策は、結婚後のカップルのためのものなので、その効果は限定的なものとならざるを得ないのである。
第3に、人口が減っても、国民のウェルビーイングを高めて行くことは可能である。日本は2010年頃から人口減少が続いているのだが、経済は拡大を続けている。全体としての経済が拡大して、人口は減っているのだから、一人当たりの所得は着実に増えている。人口減少を経済的に乗り越えることは十分可能なのである。
では、全国のスマートシュリンクと地域のスマートシュリンクは中身も同じなのかというと、そうではない。全国ならではのスマートシュリンクとしては次のようなことがある。その多くは、「全国でうまくやってもらわなければ地方もうまく行かない」というものばかりだ。
第1は、成長戦略である。人口が減っていくことは、経済成長にマイナスである。需要面では人々の購買力の総量が減り、供給面では人手不足になるからだ。そこで、人口が減ってもできるだけ高い経済成長を目指すことが必要だ。これが成長戦略である。民間活力の発揮を妨げている規制をなくし、生産資源を成長分野に柔軟に移行させ、技術革新を進め、企業の投資を活発化し、働く人の学び直し(リスキリング)を進めなければならない。これは国が率先して実行すべきことだ。政府はこれまで何度も成長戦略を打ち出してきたのだが、なかなか成果が出ていない。しかし、国全体の経済が活性化しなければ、地域経済の活性化も難しいだろう。
第2は、社会保障制度の持続可能性を強化することだ。人口が減っていくと、高齢者に対する働く人の比率が低下していく(人口オーナス現象)。日本の社会保障制度は、基本的には、現時点で働いている人が、現時点の高齢者を支えるという仕組み(賦課方式)になっているので、人口減少が進むと、働く人の負担がどんどん大きくなってしまう。給付の合理化、負担の適正化、新技術の導入などにより、年金、医療、介護などの機能を維持していくことが必要だ。これは国にしかできないことだ。社会保障について人々が不安に思うようなことがあれば、地域の住民のウェルビーイングを維持することは難しいだろう。
第3は、人手不足への対応だ。人口が減ると当然ながら、働く人も減り、経済を回していくことが難しくなる。その影響は既に生産の現場、地域の現場で起きている。これに対しては、女性や高齢者の能力を生かしていくこと、省力化技術を普及さていくこと、外国人労働者を適切に受け入れていくことなどの多面的な対応が求められる。これも国が主導すべきことである。全国レベルでの人手不足が続けば、地域での人手不足も深刻化せざるを得ない。
全国レベルでのスマートシュリンクを進めていくことは、地域のスマートシュリンクを進める基盤を整備することになるのである。

2026.04.15