OECDがスマートシュリンクについての報告書をまとめたということを知り、早速目を通してみた。OECD(経済協力開発機構:Organisation for Economic Co-operation and Development)は、1961年に設立された、先進国を中心とする国際的な政策分析機関である。一種のシンクタンクだと言ってもいいだろう。38カ国が加盟しており、パリに本部がある。
私は、経済企画庁で国際経済第一課長という仕事をしていた時に、何度も日本代表としてOECDの会議に出席したものだ。私が出席していた会議のテーマは「マクロ経済情勢」だった。大きな国際会議場で議論するのだが、発言順はGDPの規模順である。まずアメリカ代表がアメリカ経済について現状を説明し、質問を受ける。次が日本だ。この時私は「なるほど日本はアメリカに次ぐ世界第2の経済大国なのだな」と実感したものだ。
このOECDが、2025年に「Shrinking Smartly and Sustainably: Strategies for Action(賢くかつ持続可能な形でシュリンクする:行動のための戦略)」 という報告書を出したのだ。なお、私もやや気になっていたのだが、「スマートシュリンク」という言葉は、英語としては正しくないようだ。「smart」は形容詞で「shrink」は動詞だから、そのままだと「賢い縮む」という変な言葉になってしまうのだ。厳密には「smart shrinkage」または「shrinking smartly」のどちらかが正しいようだ。
OECDの報告書は、一種の公共財なので、オンラインから無料で入手できる。今回、OECDのサイトで該当する報告書を見つけ、ダウンロードして、さて読もうかと思ったら、私は何も頼んでいないのに、AIが自動的に日本語にしたものを出してきてくれた。全く便利な世の中になったものだ。
問題意識は、私が何度も取り上げてきたものと全く同じである。報告書は「スマート縮小と呼ばれるアプローチは、人口減少の現実を認識し、その影響に適応する方法を模索するものである。このアプローチは、ウェルビーイングを最優先事項とし、人口減少が必ずしも生活の質の低下や地域の潜在力の低下につながるわけではないという原則に基づいている」としている。
私が考えているスマートシュリンク論のエッセンスは、①人口減少が不可避だという認識を持つこと、②政策についても、背伸びせず、人口減少に適応したものに改める、③人口が減っても地域住民のウェルビーイングを保つことは可能である、という三つなのだが、報告書には同じような主張が盛り込まれている。
第1の人口減少については、OECD加盟国38カ国のうち7カ国では2001年から2022年の間に人口が減少しており、さらに7カ国が2060年までに人口減少に見舞われると予測されている。なお、これらの国の中には、人口減少率が20%を超える国もあると指摘されており、その例として、日本、ラトビア、リトアニア、ギリシャの名前が上がっている。やはり日本は人口減少の先頭ランナーなのだ。OECD諸国の合計特殊出生率は、1970年の2.84から2020年には1.59人に低下しており、ほぼすべての国が人口置換水準(2.1)を下回っている。同時に、OECD加盟国のほとんどで人口の高齢化が進んでおり、2050年までに、OECD諸国における65歳以上の人口は49%増加する一方、若年人口は5.8%減少すると予測されている。
第2の政策については、OECD加盟国では、こうした人口動態の変化という現実を認識し、それに合わせて、サービス提供、インフラ、地域社会の福祉などを管理しようとする地域が増えている。こうした戦略が、「smart shrinkage」あるいは「shrinking smartly」と呼ばれるものだとしている。
ここで、緩和策(mitigation)と適応策(adaptation)という考え方が登場する。これは我々がスマートシュリンクを議論している時にもしばしば登場する概念である。緩和策は、人口減少そのものを緩和しようという政策であり、適応策は人口減少を受け入れた上で、その悪影響を小さくしていくという政策である。スマートシュリンクは適応策そのものである。
報告書は次のように言う「人口変動への対応として、従来は主に緩和策に焦点を当ててきた。出生率を高めたり、新たな住民を誘致したりするためのインセンティブを通じて、人口減少を逆転または抑制しようと試みてきたのである。しかし、持続的な人口減少に直面している地域では、減少を逆転させるための政策介入は費用がかさむか、あるいは効果が不十分となる可能性が高い。さらに、短期的にも長期的にも、こうした介入は他の脆弱な地域における人口減少を加速させるだけかもしれない。」
ただし報告では、緩和策と適応策は相互に排他的なものではないことも強調している。適応策によって地域の活力が維持されれば、新規移住者にとって魅力的な地域であり続けることができるからだ。これも我々の考えに近い。
第3に、人口が減っても住民のウェルビーイングを保つことは可能だという考え方については、報告は、適切な政策枠組みがあれば、人口動態の変化と高い生活水準は共存できると強調し、「人口減少と高齢化は、必ずしもウェルビーイングの低下を意味するものではない。むしろ、人口構造の変化は新たな機会をもたらす可能性がある。」としている。報告書では、その例として「人口の減少は、環境への負荷を軽減し、生物多様性、気候変動、土地劣化に関する環境目標の達成に貢献すると同時に、地域社会に快適な生活環境と新たな機会をもたらす」ということを指摘している。
以上見てきたように、OECDのスマートシュリンクの議論は、かなり我々がこれまで展開してきたものと似通っている。世界的なシンクタンクでもあるOECDの分析と我々の議論してきたことが共通しているということは、我々にとっての自信となる。しかし、仮に我々が、自分たちのスマートシュリンク論を英語の論文にして欧米の人たちに見せると、彼・彼女らは「ははあ、この論文はOECDの分析を下敷きにしたのだな」と思うかもしれない。それはちょっと悔しい感じがする。
OECDのスマートシュリンク論
2026.06.15


