管理から経営へ

著者
地域構想研究所 副所長
中村 健

東京都内にいると都知事選挙のポスター掲示板が街中に設置されている。このポスター掲示板を見ると、いつも思い出す出来事がある。
今から20年ほど前、当時政権を担っていた自由民主党の党首(総理大臣)が毎年のように交代し、その度に自民党総裁選がおこなわれていた。私は「コロコロと総理大臣が変わるが国民に次の総理候補者の主張をもっと届ける方法は無いのか?」と考え、総裁選候補者が揃って演説するキャラバンを追いかけ、ビデオカメラで候補者ごとに演説の様子を撮影しインターネット上で動画配信をした。これが結構な閲覧数を数えた。この経験にヒントを得、その後に実施された東京都知事選の際「ポスター掲示板だけでは面白くない。このポスターが喋りだせば良いのに」と考え、都知事選の候補者の街頭演説を動画撮影し、web上に「喋る掲示板」を作成した。
まもなくして東京都の選挙管理委員会から電話がかかってきた。「この動画は公職選挙法に抵触する可能性があるので削除してください」というものだった。詳しく聴くと同法第142条に引っかかるというのだ(選挙運動用通常ハガキ、選挙運動用ビラ、選挙運動用広告を掲載した新聞紙、選挙公報以外は頒布できない)。私は困惑した。当時の公職選挙法はインターネットを活用した選挙を想定したものではなく、インターネット関連は非常に不透明、言い換えればグレーゾーンだった。しかし、念のために総務省選挙部へ連絡して確認してみた。回答は東京都選管と同じだった。
しかし、どう考えても有権者にとってweb上で一律に動画を視聴できたほうが便利である。また、公職選挙法がインターネット社会に追い付いていないため、このweb掲載が抵触するとは言い切れないのではないか?という解釈を私は持った。そこで、早稲田大学マニフェスト研究所の所長でありマニフェストの提唱者である北川正恭教授に相談してみた。「公選法に抵触すると言われています。しかし、私の解釈ではそこまで言い切れないと考えます。公選法が時代に追い付いていないためグレーゾーンになっています。どう思われますか?」と。
北川教授から返ってきた答えは「君、逮捕されてきたらいい。捕まって牢屋から『公選法が旧い』と訴えたほうが世間の注目を集め法律改正が早く進むのではないか」というものだった。冗談で言われたのだろうが、当時の私には冗談には聞こえなかった。その後、掲載を続けたが特に何も起こらなかった。動画の再生回数は驚くほど多かった。それから数年し、公職選挙法が改正され、選挙でインターネットが活用されるようになった。
今でも選挙のたびにポスター掲示板を見ると思いだす出来事である。しかし、私は「このAI時代、未だにポスター掲示板なのか?」と疑問を持っている。当時、調べたところ、ポスター掲示板を設置するのにかかる費用は1セット1万7千円~2万5千円程度だった。全国で数万か所設置されるため選挙の度に多額の税金が使用されている。私は、ポスター掲示板は「選挙やっているんだ」と広報効果の意味はあると思っているが、これで投票先を選択する人は少数ではないかと考えている。ならば、そろそろ旧来型の公職選挙法の見直しをしませんか?先進国で唯一、電子投票を実施していない日本。つくば市がインターネット投票にチャレンジしているが国会議論は全く進まない国。民主主義の根幹ともいえる選挙もドミナントロジックの塊であるように私には映っているため、そこを変えていく運動をしている。

2024.07.01