仏教界の今を知る

著者
大正大学地域構想研究所研究員
小川 有閑

宗派を超えたつながり

2000年を過ぎたころからでしょうか、仏教界では「若手僧侶」、「超宗派」というワードがセットになり、耳にされるようになってきました。それまでは、宗派でのつながり以外に、寺院、僧侶がつながることは、地域の仏教会くらいだったように思いますが、仏教界で若手といわれる、20代から40代が中心となって、宗派を超えてつながり、社会の課題に取り組むようになってきたのです。

仏教界側の要因としては、若い世代の危機感があげられます。檀家制度や世襲制度に守られて堕落しているのではないか、日本の仏教は葬式仏教で死者としか関わらないのではないかといった批判を直接受けたことのある僧侶は少なくありません。そのような僧侶たちが、仏教、寺院や僧侶は生きている人に関わるものなのだ、社会の苦しみの解決に取り組むべきなのだと動き出したということが一つ上げられるでしょう。また、現代人の宗教離れ、「イエ」が変容し、檀家制度が立ち行かなくなることへの危機感から、仏教や寺院の存在価値を行動によって高めていこうという機運もあるでしょう。

一方、社会の側でも2011年の東日本大震災で、寺院が避難所になり、宗教者が被災者のケアにあたったことが好意的に報道されるなど、宗教者が社会課題に取り組むことを歓迎する風潮にもなってきています。社会福祉が行政主導から民主導に移行していることも、追い風になっていると言えるかもしれません。

仏教界の新しいうねりを、筆者は「発信系」と「実践系」として分類をしてみました。(詳しくは、拙稿「僧侶による“脱”社会活動―自死対策の現場から」(西村明編『いま宗教に向き合う2 隠される宗教、顕れる宗教』岩波書店2018)を参照ください。)「発信系」はネットやフリーペーパー、フェスなどを通じて、これまで寺院が対象としてこなかったような若年層や寺院と縁のなかった人たちに仏教を発信しようとする動き、「実践系」は貧困や自死、終末期ケアなどの社会課題の解決に具体的に取り組もうとする動きです。

シンポジウムの開催

そして、今回お知らせする3月13日に開催する地域寺院倶楽部シンポジウム「寺院のつながり、その新たな形」は、まさに、この仏教界の最新の動向をテーマにしたものです。

シンポジウムでは第一部として、「おてらおやつクラブ」と「SOCIAL TEMPLE」の2つの事例報告を行っていただきます。「NPO法人おてらおやつクラブ」からは理事の福井良應さんに登壇をいただき、「一般社団法人SOCIAL TEMPLE」からは代表理事を務める近藤玄純さんからお話をいただきます。

おてらおやつクラブは、お寺にお供えされるさまざまな「おそなえ」を、仏さまからの「おさがり」として頂戴し、子どもをサポートする支援団体の協力の下、経済的に困難な状況にあるご家庭へ「おすそわけ」する活動。全国のお寺の「ある」と社会の「ない」をつなげ、貧困問題の解消に寄与することを目的としています。この仕組みが評価され、2018年度グッドデザイン賞大賞を受賞しています。

SOCIAL TEMPLEは、「一人では小さい力でも〝集まり持ち寄る〟ことによってその力を大きくすることは出来るのではないだろうか」という思いのもと、同じ問題意識を共有する〝人〟(僧侶も一般社会人も)が集まり、社会課題に仏教でアプローチし、解決に寄与していくことを仏道修行と捉え活動する団体で、“建物なき寺院”がキャッチフレーズ。2018 年に設立されたばかりですが、お寺版⼦ども⾷堂、HP 制作を通した寺院活性化⽀援、⾏政書⼠との連携による終活支援プログラム、仏教・お寺メディア「お寺のじかん」の運営など、精力的に活動をしています。

どちらの活動からも、新しい寺院同士のつながりというものを見ることができることでしょう。

また第二部では、事例報告のお二人に加えて二人のコメンテーターをお招きして、パネルディスカッションを行います。コメンテーターは浄土宗宗議会議員であり、WFB(世界仏教徒連盟)副事務総長も務める東海林良昌さんと、一般社団法人未来の住職塾理事、第 33 期全日本仏教会広報委員会委員などを務められる松崎香織さん。事例報告に対してのお二人のコメントを起点として、フロアの参加者とともに、これからの寺院同士のつながりについて考えていきたいと思います。

皆様のご参加をお待ちしております。

2020.02.17