地域を学習すると、地域が嫌いになるのは、なぜか?

著者
大正大学地域構想研究所 教授
浦崎 太郎

この春から高校に導入される新学習指導要領には、「実社会や実生活と自己との関わりから問いを見いだし、自分で課題を立て、解決」できる「主体的・探究的な」生徒の育成が謳われている。他方、地方の自治体にとって、若者の地元定着をはかる上で、地域に対する高校生の当事者意識を高める手立ては欠かせない。

このように、高校生と地域の関わりを深めることは、高校にとっても自治体にとっても、何より高校生自身にとっても、重要性が高い。しかし、高校と地域の連携はなかなか進まない。それどころか、コロナ禍によって時代に逆行している現場も少なからず見受けられる。では、なぜ連携は進まないのか。それは多くの場合、進め方が粗雑だからだ。

実はこの問題、高校生と地域との関わりを「恋」に置き換えると容易に理解できる。ここで、具体的なシーンを一つ例示してみよう。関係人口が気になり、いつの間にか関係人口に恋していた高校生は、誰から命令されなくても、関係人口について勝手に調べ始める。これが「主体的な学び」だ。やがて「私が関係人口と結ばれるにはどうすればよいか?」という想いが募り、関係人口を創出するために尽くせることは何かと徹底的に考え抜き、制止されても、意を決してアクションに移す。不本意な結果に終われば、創意工夫を重ね、何度もアタックする。これが「探究的な学び」だ。この想いが関係人口の創出に努める団体に響けば、この高校生を大切に思い、仲間に迎え、チャンスを与えるに違いない。こうして両者は結ばれ、相思相愛の関係が実現する。なお、団体の側から高校生にアプローチをかける場合も考えられるだろう。

この視点を持てば「探究とはデート」だと分かる。高校や地域が探究を疎んじることが高校生や地域の未来にどんな影響をもたらすか、また、これまでの試みがうまくいかなかった理由について、容易に想像できるであろう。一点、強調しておくべきことがあるとすれば、それは「キュンと来る対象は一人ひとり異なり、しかも非常に狭い」ということだ。例えば、「関係人口」に興味を示す高校生に「特産品開発」を持ち出しても響くとは限らない。ましてや、地域にある「あれもこれも」をてんこ盛りにして出したら、退屈なだけだ。少なくとも、一つのテーマについて生徒全員に一斉講義するアプローチは、慎重になるべきだろう。

以下、念のため「高校生が『総合的な探究の時間』等で地域を学習すると、かえって地域を嫌いになってしまう」流れを解説しておこう。それは、こうだ。

【1時間目:出会い(課題設定)】
突然、役所が連れてきたダメオ1号~5号と対面させられて「ここから相手を選べ」と迫られる。→ “そんなことを唐突に迫られても無理!”、“気になる男性はいない。この中から選べというのは拷問!”

【2時間目:デートの計画(探究計画の立案)】
前時に選ばされた「ダメオ2号」とデートの計画を立てさせられる。→ “え?どうして?‥勘弁してほしい!” → 形だけの計画ができる。

【3時間目:デート(探究の実行)】
ダメオ2号とデートに行かされる。→ “もう止めて!”

【4時間目:将来展望(進路探究)】
「デートで関係が近くなっただろうから、そろそろ二人の将来を考えなさい」と迫られる。→ “え?なんで??‥他に意中の人いるし!”

【課外:(地元定着)】
「オレの子を産んでくれ~!」→ “キャーッ! キモーッ!”

こう置き換えれば瞬時に異常だと分かることを、大人の都合で公然と実施してきたのが、失敗に至った現場の多くに見受けられる実態なのだ。

対照的に、ひとたび「キュン」となりさえすれば、勝手にデートの計画を立てるだろうし、禁じても隠れてデートに出かけるだろう。また、わざわざ時間を用意しなくても、自分たちで二人の将来を語りあっているに相違ない。

つまり、学習が意図通りに成立するかどうかは、「キュン」となるまでのプロセスが機能するかどうかにかかっている。ここで「キュン」となるまでのプロセスを改めて想像してみると、スピードといい、タイミングといい、個人差が極めて大きいことが分かる。それは、全員一律のプロセスでは機能しないことを意味する。では、どうすれば機能するのか。

これもリアルな恋に置き換えて考えれば、出会いの場、マッチングをする(少しおせっかいな?)人の存在が重要だと分かる。そして、出会える相手の多様性は校内よりも地域の方が格段に高いことを思えば、地域は出会いの場やマッチングする人を整えること、すなわち、高校生を地域に迎える土壌づくりが大切だと見えてくる。同時に、学校は生徒を受験勉強や部活動で抱え込まず、地域へ積極的に送り出していくことも大切だ。

地域が高校生で賑わうこと自体、地域活性化の観点から意義があろう。その上、高校生が恋をする、具体的には、地域に居場所ができ、当事者意識を持てる課題に出会うことができれば、地域創生のプレーヤーが増え、いっそうの活性化を期待できる。こうした経験の持ち主は異口同音に「地元で受けた恩は絶対に忘れない」と語っており、地元に回帰する者も増えると期待できよう。

こうした本質を理解し、若者で活気づき、都会へ出て行った若者が回帰する地域づくりに向け、新たなスタートを切る高校や地域が現れることを期待したい。

 

2022.01.17