新年度を迎える前に「達成イメージの事前共有」を

著者
大正大学地域構想研究所 教授
浦崎 太郎

毎年2月は、種々の発表会で講評を求められる機会が多い時期だ。ただ、残念なことに、しばしば「始める前に相談してくれれば、もっと的確な実践をでき、実りのある成果を収められたのに!」という思いをする。そこで、今回は「1年後の達成イメージを事前に関係者間で共有した上で、新年度の実践を始めてほしい」というご提案をさせていただきたい。

筆者は日頃、高校と地域の連携支援を全国各地で務めている。そして、企画や構想の段階から深く参画する機会を頂戴した現場では、「予め多様な関係者間が対話し、ゴールやストーリーのイメージを共有する」手続の導入を勧めている。それは、予めイメージを鮮明に共有すると、省いた場合に比べて圧倒的に到達度が高まることを、経験的に知っているからだ。

お気づきの方も多いと思うが、これも度々お伝えしている、多様な人々が対話を通して一緒に未来を創り出していく「共学共創」の一形態と位置づけられる。

昨年はその延長線上で、あるコンテストにむけて、審査員や挑戦者である高校生も交えて対話を行い、達成目標や審査基準を共有する試みを行った。すると、審査結果に対する納得度が高まり、従来より気づきも豊かになったほか、一体感や次年度への気運が高まるという、期待以上の成果を収めることができた。つまり、事前に達成イメージを共有するステップを導入したことで、連携事業が発展サイクルを形成できる可能性が見えてきたのだ。

ここで、逆に、こうしたステップを省略すると、なぜ十分な成果を収められないのか、理由を確認しておこう。それは端的にいえば、意味不明な言葉が飛び交っているために、イメージを描けないからである。時には、同じ言葉でもセクターによって意味が異なるため、各者の描くイメージにズレが生じ、混乱を引き起こしている場合もある。

一度でもこうした目に遭うと、多くは会議に出席しようとしないだろうし、不安感に陥るリスクを未然に回避するため、連携事業を企画の段階で潰しにかかるに相違ない。

では、「イメージを共有するための会議を設定すれば済むのか?」といえば、それも違う。出席者に安心感を与えるとともに、会議で意思を疎通できる素地を形成するため、事務局(コーディネーター)が出席者を個別に訪問し、想いを傾聴したり、ある程度のイメージを提供する手順を踏むことが期待されるのだ。そのステップを踏んだ上で共学共創の場を設け、関係各者が対話を深めれば、連携事業の達成目標や各者が演じる役割に関するイメージを共有でき、成功する可能性も高まると考えられる。

先ほど「発展サイクル」と述べたが、多くの場合、授業は1年サイクルで展開される。となれば、「達成イメージを共有した上で実践を重ね、最後にイメージ通りに展開したかを検証する」プロセスを年間計画に織り込めば、連携事業が年々発展を遂げる可能性が高まると考えられる。

年度末まで約1ヶ月半。まだ次年度にむけたチャンスは残されている。仮に、今年度内に間に合わなかったとしても、そうした場を次年度早々に設定すれば、1年後を変えることはできる。

今日、教育に限らず、多くの分野で部署の壁を越えた連携が必要とされている。ぜひ、この手続の導入をご検討いただきたい。

2021.02.15