新しいコミュニティの形を探って

著者
大正大学地域創生学部 地域創生学科 専任講師
米崎克彦

本稿では、同志社大学理工学部の下原勝憲教授と京都産業大学経済学部の塩津ゆりか准教授、そして下原研究室のメンバーと2011年より取り組んできているまちづくりに関係する研究を紹介する。

日本経済の発展に伴い、社会・経済面で大きく変化が起きている。人口の点から見ても、1946年時点で7800万人弱であったが、人口は増加を続け、2008年には、1億2808万人となる。ただし、この年にピークを迎え、現在では減少に転じている。⼈⼝構成の点からも、世界の中でも際⽴って⻑寿の国になっているだけでなく、2020年における⼈⼝に対する65歳以上の割合は28.7%であり、それに対して、15歳未満の割合は11.9%となっており、様々な⾯で少⼦⾼齢化が課題*となっている。その中で地域の関係の希薄化が社会問題(コミュニティ問題)として存在する。日本社会において、地域コミュニティのつながりは非常に重要な役割を果たしてきた。しかし、高度経済成長期におこった地方部から都市部への人口の移動は、1980年代に一度緩やかになるが、2000年代に入り新たに東京首都圏一極集中と変化し、ここに少子高齢化が進むことにより地域の関係の希薄化が進んでいる。特に人口が流入している都市部において顕著な問題が発生している。1970年代を中心に開発が行われた“ニュータウン”と呼ばれる地域でよくみられる現象として、建設された当時は子育て世代が中心であったが、子供たちも成人し街を出ていく傾向もあり、現在では老年の夫婦が中心となっている。また、女性の社会進出も進み、都市近郊のベットタウンにおいては、昼間人口と夜間人口の差がうまれ、地域の関係の希薄化を加速させている。

*総人口に対する65歳以上の割合で区分される高齢化社会(7%以上)、高齢社会(14%以上)、超高齢社会(21%以上)については、1970年、1994年、2007年にそれぞれ達成されている。

このような状況に対して,我々は、これらの問題をどのように捉え、どのような解決策があるのかを探ってきた。経済学的側面から捉えると、一種の地域公共財の問題と考えることができる。公共財とは、経済学において非排除性と非競合性の性質を持つ財と定義される。非排除性とは、消費行動において、だれもその行動を妨げることができない性質である。非競合性とは、その財の消費を望むものは、だれでも同時に等量消費できるという性質である。これらの性質のため、誰かが公共財を供給してくれれば、他のメンバーすべてがその便益を享受できる。その結果、誰も公共財を供給するインセンティブを持たず、供給されない。という問題が発生する(フリーライダー問題、公共財の過少供給問題)。地域の関係性が希薄となっている問題をこのような視点から捉え、解決するためのアプローチとして、コミュニティを一つのシステムとみなし、さらに関係資産及びギフト&サーキュレイションモデルといった概念を提案してきた。理論モデルやシミュレーションによる予測や課題の検討、またその知見を活かしフィールドで実証実験を行っている。

実証実験のフィールドは、京都府宇治市槇島地区である。スマートフォンのアプリを利用して、コミュニティ活動活性化を目的とした仕組みづくりに挑戦をしている。この取り組みの目的は、第1に、地域における活動を可視化することにより、個々のメンバーに地域活動を認識しやすくすること。第2に、ICT(スマートフォンアプリ)によって、コミュニケーションをとりやすくすること、である。ただし、理論・シミュレーションの予想結果より、個々人の利他性を前提とせず、あくまでも個人の利己的な行動の結果が基礎となり、それをもとに関係性を再構築することで、持続可能性を探っている。

現在、宇治市槙島地区のNPOの皆さんに協力をいただき、実証実験を行っている。研究活動の初期では、開発したアプリをインストールしたスマートフォンを貸与し、実際にアプリを利用してもらうことで、メンバー間のコミュニケーションが変化するのか調査をおこった。自分自身の行動(歩数、アプリ使用など)からポイントを獲得し、そのポイントをギフトとして関係性を可視化することを中心に、地域の危険箇所を写真とインターネット上の地図でシェアする安心安全マップなどを導入し、それらの投稿に関しても“いいね!”などを付けられるようにして、コミュニケーションをとれるようにしている。

導入後NPOのメンバーの関係性を実証実験前後で比較してみると、コミュニケーションが密になる傾向が確認され、一定の効果があることは確認されている。ただし、NPOメンバーの利用率を確認すると、極端な個人差が存在することがわかっており、継続的に利用してもらうための仕組みづくりが課題の一つである。この課題に対する取り組みの1つとして、ゲーミフィケーションのアイデアを利用した陣取りゲームの導入など、継続利用に関する仕組みづくりを展開している。また、スマートフォンを持つ人が増えたことやNPOメンバー以外の実験協力者を増やすことを念頭に、アプリの開発を行い、Google Play上で配布することを可能にした。

イメージおよび初期アプリ

 

 

Google Play上での画面

今後の展開として、継続利用に関する課題に関しては、健康のための行動をポイントとして体組成計などのデータの活用を検討している。そして、地域それぞれのニーズの違いもあることを考え、地域性に合わせてアプリをカスタマイズすることによって利便性を上げたいと考えている。

2021.05.26