ウィズコロナのフィールドワーク

著者
大正大学地域構想研究所 専任講師
髙瀨 顕功

公共政策学科の目玉カリキュラム

今年から新たに立ちあがった社会共生学部公共政策学科では、第3クォーターに地方および首都圏の自治体でのフィールドワークをカリキュラムに組み込んでいます。公務員やNPO等、公共性、公益性の高い仕事を目指す学生にとって、自治体職員から政策立案の基本を学ぶだけでなく、地域の声を聞かせていただくことで、地に足の着いた「公共」を学ぶことができるのがこのフィールドワークの魅力です。

しかし、コロナ禍の影響は今秋以降も続き、本年度のフィールドワークは当初の予定をずいぶんと修正しなければなりませんでした。

例えば、地方の自治体へのフィールドワークは感染拡大防止の観点から中止となり、その代替としてPCスキルアップ講座を学生には受講してもらいました。講義やフィールドワークはインプットが中心となるものの、情報を正しくアウトプットできてこそ学びは深まるというもの。そこでアウトプットのツールであるワード、エクセル、パワーポイントなど基本的なソフトをより使いこなすための講座を設けました。

一方、首都圏の自治体フィールドワークは、自治体と学生をオンラインでつなぐという方式をとりました。今年度は、さいたま市、千葉市、川崎市、八王子市、豊島区、三鷹市、狛江市、青梅市という8つの自治体にご協力いただき、自治体職員からの座学講座および、コーディネートいただいた地域の方のインタビューをチームごとに実施しました。

フィールドワークとは、現地へ赴き、対象を直接観察し、アンケートや聞き取りを行うものですので、オンラインフィールドワークという言葉自体にやや自家撞着の感が否めませんが、それでもウィズコロナの新たなフィールドワークの形として、自治体職員から各自治体の特徴と基本計画を座学で学び、地域の方々から直接お話を伺うことができたのは大きな収穫でした。

オンラインでインタビュー

オンラインでインタビューといっても、お話を聞かせていただける地域の方がネットリテラシーに長けているとは限りません。そういう場合は、モバイル wifi ルーターとノートパソコン等の通信機器を用意し、教員が現地へ出向いて、学生たちとつなぐという下準備が欠かせません。また、地域によっては直接対面でのインタビューを望まれる方もおり、その場合は、遠方の学生に対してオンラインでつなぎながら数名の学生が直接インタビューするという、ハイブリッド型でのフィールドワークをセッティングしました。

通信機器を持参して繋いだオンラインインタビューの様子(川崎市)

対面×オンラインのハイブリッド型のインタビューの様子(狛江市)

一方の学生は、人生初のインタビューということで、念入りに準備をして臨んでいました。最初は緊張でうまく質問もままならなかったのが、回数を重ねるなかで上達していく姿が実に頼もしく感じました。何事も習うより慣れろとはよく言いますが、短時間でのこの進歩は若さの賜物です。準備の甲斐もあって機材トラブルもなく、無事、インタビューを終えることができました。

むろんフィールドワークは、聞き取りだけではありません。現場へ直接足を運ぶことで見える風景や街並み、画面越しではなく対面してわかるインタビュイー(話し手)の様子など、五感をフルに活用して得られる言外の情報も大事なデータです。その部分に関しては、オンラインインタビューの限界もありますが、それでも学生たちは普段話を聞くこともない、世代も、経験も違う方の生の声を聞くことができ、大変勉強になったのではないかと思います。

もちろん、協力してくださった自治体、地域の方々の存在なくしてはフィールドワークの成功はあり得ません。ここに、あらためて御礼申し上げます。

アフターコロナからウィズコロナへ

新型コロナウイルスの第一波が押し寄せていた頃、いかにコロナを無くし、日常を取り戻すかが話題の中心でした。したがって、すべての社会活動は自粛という名の下に停止され、コロナを早期に終息させることが目指されていました。ところが、ワクチンの開発・実用化には時間がかかること、感染症封じ込めのための社会活動の停止は諸刃の剣であること等が明らかになってくると、コロナ対策をしながら社会活動を行っていく、ニューノーマルと呼ばれるウィズコロナを想定した日常が模索され始めました。

これは大学でも同様です。授業はオンライン中心でしたが、最近では、感染症対策を取ったうえで対面の講義も行われるようになってきました。来年度は大教室での講義もその形を変更せざるを得なくなるでしょう。少人数制に切り替わることで、学生にとっては教員と意見交換する機会が増えるかもしれません。このように、ウィズコロナに即した大学教育の形が模索されています。

このフィールドワークも然りです。コロナだから止めてしまうのではなく、コロナでもできることを探すことで、今の学生たちは何ものにも代えがたい学びを経験していることでしょう。ウィズコロナの新たな学びを教員として微力ながらサポートしていきたいと思います。

2020.11.02