次世代育成の二極分化

著者
大正大学地域構想研究所 教授
浦崎 太郎

日本の高校生は自己肯定感が低い、という国際比較結果がよく話題になるが、それは概ね実感値と一致する。しかし、それは決して全てではなく、対極に位置する高校生は間違いなく一定数いる。いま実感しているのは、状況がどんどん悪化する現場と、どんどん良くなる現場の、二極分化が進行している点だ。

地域との関係性

今日、多くの高校は保護者や地域と良好な関係性を構築できず、厳しい視線を浴びており、混乱を未然に回避するため、管理職は教職員を、教職員は生徒を、徹底的に管理統制せざるをえない状況にある。となれば、教職員も生徒も叱責を恐れて何も挑戦しなくなるのは当然で、教職員は生徒を地域に解き放つ余裕など持ちようもなく、学校で囲い込むこととなる。

すると当然、生徒は自分・学び・社会のつながりを実感できる機会を奪われ、自己肯定感は下がり、種々の問題が発症しやすくなる。結果、教職員は対応に追われ、現状維持さえ困難になる。こうして、保護者や地域との関係性はさらに悪化し、管理に要する労力が増大し、教職員も生徒も自由度を奪われ、という悪循環が進行する。

AOや推薦入試にむけては、生徒は豊富な地域体験を積むことができず、閉鎖的な人間関係に埋没した教職員が面接や小論文の指導を行うがゆえの限界が伴い、合格実績は現状維持が精一杯。地元の専門家や関係者との縁が薄いので、大学卒業後に回帰する率が低くなるのも避けられない。

以上が多くの現場で起こっていることであり、近い将来に起こるであろうことだ。

ところが、それとは対照的な高校が全国各地に現れはじめている。保護者や地域と良好な関係性を構築できているので、苦情が届く心配は少ないし、届いても軽微。だから、高校は安心して生徒を地域に送り出すことができ、生徒は地域で思いきり挑戦でき、ゆえに、生徒は自分らしく社会で生きていく手応えを掴むことができる。自己肯定感や積極性も向上し、学校で種々の問題は発症しにくくなる。すると、教職員の負担は軽減され、創造性は向上する。

AOや推薦入試にむけて、生徒は豊富な地域体験を積むことができ、面接や小論文の指導には教職員のほか地域の専門家や多様な人々の応援も拡大。合格実績は間違いなく増加する。受験の際に地元から応援を受け、絆も深まっていれば、大学卒業後に回帰する率も高くなるであろう。加えて、地元の事情を熟知し、当該分野で人間関係も醸成されていることから、即戦力として期待できる。

後者の実例として、九州南部のある高校におけるエピソードをご紹介しよう。生徒が地域で某かの活動をするため、市役所に許可申請が必要になる場合、通常は生徒が担当の教職員に相談し、教職員が担当申請書を起案して決裁をとり、校長名で申請書を作成し、役所に持参する。

しかし、この高校では、勢い余った生徒が自分の名前で申請書を作成し、自ら市役所に持参してしまう。窓口の職員はとりあえず書類を預かり、高校に連絡を入れ、確認をとる。そして、高校からOKの返事がくると、正式に受理して決裁に上げ、生徒あてに許可証を発行する。

後日、報告会で該当生徒が堂々と発表する。同夜の懇親会では、教職員と市職員が生徒の成長を喜びあい、「あんなこともあったね!」と笑い飛ばす。こうして、両者の絆はさらに深まり、高校生が地域で挑戦する基盤はいっそう強固になる。

当然その分、立派な高校生が続出するようになる。そして、そうした姿に憧れをもち、「自分も先輩たちのようなキラキラした高校生になりたい」と、その高校を受験する中学生が増え、高校はさらに活況を呈するようになる。

二極分化から見えてくるもの

ここで、大学入学者選抜の今後について確認しておこう。高大接続システム改革、すなわち文部科学省の強力な意向により、大学は今後、活動実績書・志望理由書・学修計画書等の配点比率や、これを重視する定員枠を高めることになっている。

となれば、前者のような高校に学んだ生徒は合格しにくくなっていき、逆に、後者のような高校に学んだ生徒は大学等にも合格しやすくなっていくのは明らかだ。

それだけでは済まない。双方の出身者は大学で席を並べ、当然、高校生活の話題になる。その時、そして後年「地元に帰って就職を」という案内が届いた時、各々の出身者は何を想うだろうか。

前者の出身者は、若者の未来よりも自分たちの都合を優先した大人に悲しい思いをするであろうし、地元就職の案内を見たら冷たい気分になるのは不可避だろう。逆に、後者の出身者は、若者の未来のために真心を尽くしてくれた大人に感謝の念を抱くであろうし、地元就職の案内を見たら温かい気分になることは間違いないだろう。

このような二極分化は、決して空想ではなく、静かに‥しかし確実に‥進行している。では、今後それはどのように推移するであろうか。この先、高校側では、現・高2生から新制度による大学入学者選抜、令和4年度には新教育課程が始まり、自治体側では、令和2年度から(人材育成の優先順位が高くなった)地方創生第Ⅱ期が始まる。

それは「今後3~5年」の間に、現時点で着実に準備を進めている高校や自治体は浮上するチャンスが大きく、この期に及んで軽視している高校や自治体は沈没する危険性が高いことを意味する。

高校や自治体等が良好な関係性を醸成するには丁寧な対話が必要であり、それには当然、相応の時間が必要である。つまり、上記のような変化が顕在化する頃には、若者の流れは確定しており、その段階でこれを覆すのは余程の覚悟が必要になる。

高校生の自己肯定感が低いのは、決して教職員や自治体職員をはじめとする大人が「細分化された目前の業務に対する意欲や能力」が低いからではない。「立場を超えて信頼関係を醸成すべき重要性に対する理解や、実際に関係性を醸成する態度や能力」が低いからである。間違っても、その責を高校生が持って生まれた能力に帰すべきではない。

一人でも多くの高校生が自信と誇りをもって社会に出ていけるよう、一日も早く大人が変わることを願ってやまない。

2020.02.17