地方圏の大学生の約8割がリモートワーク正社員採用に関心

著者
大正大学 地域構想研究所/社会共生学部 教授
塚崎 裕子

大正大学地域構想研究所は、地方圏に住む大学生を対象に、「リモートワーク正社員」として首都圏の企業に採用されることについてどのように考えるかを把握するため、インターネット調査を2022年と2018年に実施した。これらの調査では、地方圏は、3大都市圏(首都圏、大阪圏、名古屋圏)に属する県及び政令都市がある県以外とした。2022年調査は806人から、2018年調査は833人から有効回答をいただいた。ここでは、2時点の調査結果の比較等について紹介したい。
なお、これらの調査の詳しい結果については、地域構想研究所のホームページに掲載しているので(https://chikouken.org/activity/activity_cat01/14066/)、ご参照いただきたい。

主な調査結果

1 リモートワーク正社員としての採用への関心

首都圏企業にリモートワーク正社員として採用されることについて関心があるかを尋ねたところ、2022年調査では「少し関心がある」が49.1%と最多で、「非常に関心がある」(28.4%)、「関心がない」(13.5%)、「わからない」(8.9%)、が続いた 。「非常に関心がある」と「少し関心がある」を加えた割合は約8割となり、コロナ禍前に実施した2018年調査と比べ、18%ポイント増えた。
コロナ禍前は地方にいたいという願いと首都圏の企業で働きたいという願いは二者択一であったため、リモートワーク正社員に関心がなかった人も多かった。しかし、コロナ禍の影響を受けて、リモートワークが急速に普及すると、リモートワーク正社員が現実的なものとなった。地方圏に暮らしながら、就業機会が豊富な首都圏においてキャリアを築いていくことも夢物語ではなくなったことが両調査の結果の違いをもたらしたと考える (図1)。

図1 リモートワーク正社員としての採用への関心

2 リモートワーク正社員としての採用に関心がある理由

リモートワーク正社員に関心がある者(「非常に関心がある」と「少し関心がある」。以下同じ。)に、関心があるとする理由を複数回答で聞いたところ、2022年調査では、「現居住地に住み続けたいと思うから」(35.4%)が最も多く、「出身地に住みたいと思うから」(33.1%)、「リモートワークにチャレンジしてみたいから」(29.8%)との回答が続いた。2018年調査と比べ、「出身地に住みたいと思うから」が14.6%ポイント減り、「現居住地に住み続けたいと思うから」が6.9%ポイント増えている。現居住地は地方圏の中でも大学が所在する人口規模が一定程度以上の地方都市と推測できる。2022年調査では、2018年調査に比べ、そうした地方圏に属しながら都市の要素も兼ね備えた場所に住み続けたいと望む人が増え、出身地に住みたいと思う人は減ったことがわかった(図2)。

図2 リモートワーク正社員としての採用に関心がある理由(複数回答)

3 リモートワークをする場合心配なこと

リモートワーク正社員に関心がある者に、リモートワークをする場合に心配なことを尋ねたところ(複数回答)、2022年調査では、「仕事で困ったことがあったとき相談できないのではないか」が68.8%で最多となり、次いで「職場で仲間を作ることができないのではないか」(56.5%)、「研修や教育訓練を受けられないのではないか」(41.0%)、「仕事の内容がはっきりしないのではないか」(34.4%)、「公正な評価を受けられないのではないか」(32.6%)が多かった。心配なことの中で特に「職場で仲間を作ることができないのではないか」が、2018年調査に比べて10.6%ポイント伸びている。彼らの世代は、コロナ禍により大部分の授業がオンライン授業となり、学生同士知り合える機会が限られた時期を経験したので、実体験に基づいた切実な心配事となっていると考えられる(図3)。

図3 リモートワークをする場合心配なこと(複数回答)

4 インターネットの活用等と「リモートワーク正社員」としての採用への関心

地方圏に住む大学生に、インターネットの活用等に関して「頻繁に行っていて慣れているもの」を聞いたところ(複数回答)、「GoogleやYahoo等によるWeb上の情報の検索」が最も多く(83.5%)、次いで「Lineやショートメッセージ等を使った知人等との連絡」(79.7%)、「Twitter、Instagram等による情報の発信」(49.1%)、「ZoomやMicrosoft Teams等を使った授業やセミナーの聴講」(40.8%)が続いた(図4)。なお、この項目は2022年のみ調査を行ったので、2018年との比較はできない。

図4 インターネットの活用等(複数回答)

「頻繁に行っていて慣れている」インターネット活用等の項目の数と「リモートワーク正社員」としての採用についての関心の関係をみると、「頻繁に行っていて慣れている」項目の数が多ければ多いほど、「リモートワーク正社員」としての採用に「非常に関心がある」者の割合が多かった。インターネットの活用等に習熟している学生ほどリモートワーク正社員への関心が強い傾向があることがわかった(図5)。

図5 インターネットの活用等とリモートワーク正社員としての採用への関心

5 まとめ

コロナ禍は私たちの生活や社会に甚大な影響を及ぼした。リモートワークもコロナ禍がなければこれほど急速には広まらなかったであろう。リモートワークという手段が普及したことによって働き方に変化が生じ、地方圏に住みながら都市圏の企業で働くという選択肢が現実のものとなった。オンライン授業を経験した大学生達はそうしたリモートワーク正社員という働き方を身近に感じ、関心を高めた。地方に住み続けたい大学生、優秀な人材を確保したい企業、人口流出を防ぎたい地域いずれにとってもメリットのある、いわば三方良しの選択肢ともいえるリモートワーク正社員は、働き方の選択肢の一つとしてこれから広がっていくものと考える。

2023.12.01