「大学生支援論」の構築に向けて

著者
大正大学 地域創生学部 地域創生学科 助教
天野 浩史

著者
大正大学地域創生学部 地域創生学科 助教
天野 浩史

本稿では、筆者が立ち上げ・運営に関わっているみんなのチャレンジ基地ICLa(イクラ)(以下、ICLa)のご紹介、そして、ICLaに身を置き、大学生の声に耳を傾け、言葉を交わすなかで感じた、筆者ら「大人」と大学生との関わりについて、お伝えします。
ICLaは、2022年10月に静岡市駿河区小鹿にオープンした拠点です。静岡大学、アイザワ証券株式会社、静岡鉄道株式会社、NPO法人ESUNEの連携によって立ち上がりました。筆者はセンター長を仰せつかりながら、アクションリサーチという形で研究者の立場でも、運営に関わっています。開設準備期から運営スタッフの学生たちと試行錯誤をしながら場づくりを進めてきました。今では様々な学生がやってきては、何か新しいこと(プロジェクト)を始めたり、誰かと交流をしたり、相談をしたり、時には遊んだりと、豊かな場に育ってきました。

みんなのチャレンジ基地ICLaでのイベント(オンライン配信)の様子

※みんなのチャレンジ基地ICLaについて
https://www.esune-social.jp/pages/6527600/page_202210101143

2023年2月8日時点では、学生発のプロジェクトが26件生まれました。社会的な課題に関連したプロジェクト、趣味を起点にしたプロジェクトなど、バラエティに富んだテーマばかりです。どのプロジェクトも、それぞれの学生が「やってみたいこと」を形にしている点が特徴です。
日々の活動をスタッフがインスタグラム「みんなのチャレンジ基地ICLa」などで発信していますので、ぜひご覧ください。また、まもなく発刊予定の紀要『地域構想vol.5』にて、ICLaに関するアクションリサーチ論文を掲載予定ですので、そちらもご覧いただけますと幸いです。

さて、本稿をご覧いただいているみなさんは、どのような大学生活を送られてきましたか?
筆者自身、2010年から2014年の4年間、大学生として静岡で暮らしていました。はじめての一人暮らしで見知らぬ町にきて、不安もありながらも友人もできて、アルバイトをしたり、サークル活動をしたり、レポートや課題に追われたりと、大変なことも多かったですが、今振り返れば充実した日々だったと感じています。
2023年、現代の大学生はどうでしょう。「コロナ禍で大学生は大変だ(大変だった)」という認識を持たれている方もいらっしゃると思います。筆者がICLaで出会う学生たちからは、「不安」という言葉をよく聴きます。漠然とした不安、未来が見えない不安、社会に自分は飛び込んでいけるのか、やっていけるのかという不安など、様々な不安が語られていますが、じっくり聴いていくと、「コロナだから」「コロナが理由で」というわけではないことも見えてきました。

筆者が聴いて印象的だったエピソードを紹介します。

“大人が活動を辞めさせてくれない。ある活動に取り組んでいて、メンターと呼ばれる大人から様々な提案をもらい、形にした。しかし、進めていく中で自分のキャパシティを超えて、続けることが苦しくなってきたけれど、一緒に関わっている大人の方たちに相談できず、辞めることができない。”

このような学生支援・プロジェクト支援においては、「継続・発展することで成長する」という前提で、メンタリングや支援が行われていると考えられます。続けることで新たに見えることがあり、想像もしなかった領域に進むことができ、大きく成長するという考えはあるかと思いますが、紹介したエピソードからは考えさせられることが多いです。
学生にとっては「キャパシティを超えたことで自身の能力の限界が分かった」という学びがあったとも考えられるでしょうし、「今回経験したことで、彼(学生)はこれから成長する」という評価ができる可能性もあります。しかし、学生にとって、本当にこれでよかったのだろうか?と感じます。マッチングの問題として片付けてしまう、挑戦と成長の物語として回収してしまうには、見落としてしまうことが多く、同じ痛み・苦しみに出会う学生の再生産に繋がっていきます。
現代の学生支援、学生発プロジェクト支援に関わる人間の姿勢や倫理観は、どのようにあるべきか?どのようなプロセスで学生支援を進められるか?マッチングの問題、一般論で片付けず、そういった倫理や手法に関する探究が求められているのかもしれません。

ICLaでの研究はアクションリサーチですので、設定した望ましい状況に向けた課題解決を志向する研究です。今回のエピソードにあるような状況が起きない、起きづらい地域社会をつくるにはどうしたらいいか。筆者も答えがまだありませんが、今後アクションリサーチを通じた知見から、大学生支援論の構築を進めていきたいと思います。
本稿でお示ししたような大学生を巡る社会的問題、支援方法など関心がある方は、共にアクションリサーチを進めてまいりましょう、ぜひお声がけください。

2023.06.01