インタビュー取材で自分たちのロールモデルを発見

著者
大正大学地域構想研究所 地域支局研究員(徳島県阿南市)
鈴江 省吾

コロナ禍で見合わせていた現地実習がようやく3年ぶりに復活、・・・とはいえ、大人数での長期滞在を避けて感染対策に留意しながらの実施です。阿南市では18人が前半(9人)と後半(9人)に分かれてそれぞれ2週間のプログラムに取り組みました。10月3日、入学して初めてリアル実習に臨む2年生9人(前半組)が阿南駅に降り立ちます。実習生を待ち受けるこの瞬間は格別です。

到着後、生活指導員と共に1人ずつ面談し、健康チェックや個人テーマのヒアリング等を行い、実習がスタートしました。
大学から示された今回の実習基本方針は、①チーム全体での地域人探求・体験、②3年生でのゼミを見据えた自主活動、の二つが軸となります。これを受けて阿南班では、
①市内の9事業者をインタビュー取材、バスでの市内視察、S U Pや農業体験、イベントでの交流
②それぞれの個人テーマの取材や調査研究のサポート
と、二つを複合したプログラムを組みました。学生にとってはハードな12日間でしたが、チーム力でモチベーションを高めながら、最後の発表会まで元気に駆け抜けてくれたというのが実感です。特に、インタビューがとてもいい経験だったという声が多く、緊張しながらも、事業内容や課題、SDGsへの取組など、しっかりと質問や意見交換ができていたようです。苦労して会社を立ち上げたOさんからは、起業するまでの歩みや地域貢献、人生観まで熱心に語っていただき、「自分の将来のロールモデルに出会えた」と意気投合する学生もいました。実習終了後も、地元の18事業者(前半9、後半9)の魅力を紹介した冊子「阿南人Vol.2」の作成に向けて、記事の校正・レイアウト編集などの作業を学生と一緒に進めており、それがまもなく完成する予定です。

さて、体験交流ですが、これがしたくて阿南を選んだという声も上がったSUP。山に囲まれた那賀川で全員がスタンドアップして悠々と漕ぎ進んでいました。さらに、農家民泊で関係人口を呼び込むプロジェクトを立ち上げた井出農園での「すだち・ゆずの収穫体験」、子どもたちと生物多様性やSDGsを学びながら海岸を歩くイベント、新野町の秋祭り、ハロウイン・・・などにも参加して、地元の人たちと交流を深めました。

自主活動の研究テーマ(例:前半)
・自治体の公式インスタ・阿南市の財政、企業との連携・役割・竹の活用、子どもたちの体験・地域資源を活用した商品開発・子どものサードプレイス・歴史建造物、遍路道・自然を生かしたアクティビティ・人口問題、地元の魅力発信・SUPなどのスポーツツーリズム

そして、自主活動は1年生の頃から温めてきた自分の興味関心から個人テーマを定め、現地だからこそできる調査や体験を自分たちで考えて実施しました。

Y君は1年生のリモート実習(阿南)で企画した「竹炭入りのバスボム」商品開発にチャレンジ。竹酢液をベースに竹炭とすだち果汁を混ぜた試作品を完成させて、宿泊先の湯船で実験。仲間から「シュワっと気持ちいいが、炭の粒々が体につく」とダメ出しをもらいながらも、さらに改良中です。竹といえばもう1人・・・Ⅰさんは地域資源を使った化粧品の開発に興味があり、竹パウダーや竹水の活用に取組む竹林再生会議のN理事長に現地でインタビュー・・・大きなヒントを得たようです。
このように、全員が個人テーマに関するヒアリングや施設訪問などを行い、3年次でのゼミや将来のキャリア造成に向けて貴重な経験を重ねました。そして最終日には、市役所職員、地域おこし協力隊を招いて成果発表会を実施しました(徳島県職員や実習で講演いただいた方々もZoomで参加)。

今回、特に強く感じたのが学生たちの積極的な姿勢です。「ようやく実現した現地実習への期待がそうさせたのか、12日間の短い期間が集中力を高めたのか・・・いや違う」。これまで接してきた実習生約100人を思い浮かべながら、「地域創生学部の歩みがしっかりと新たな伝統を生んでいる・・・」そんな期待を抱かせる18人でした。
今年の地域実習では、前半と後半とで二地域(一ヶ所の学生もいます)を経験でき、贅沢すぎるほど多くの出会いがあったことでしょう。東京近郊出身の学生にとっては「第二のふるさと」が二つもできました。ぜひ、この出会いを大切にして3年次になってからも実習地との関係性を深めてください。究極は「移住して起業」です!
最後に、お世話になった阿南市の皆さんに、学生Wさんが最後に駅でつぶやいた一言を贈ります。「帰りたくない、このまま阿南にずっといたい」・・・ありがとうございました。

2022.12.15