コロナ禍におけるPBLの展開①

著者
大正大学地域創生学部 専任講師
仲北浦 淳基

本稿の内容

方々で論じられているとおり、コロナ禍は社会に大きな変化を求めてきましたが、それは教育現場においても同様です。対面での活動が制約され、オンラインで活動せざるをえない場面が一気に増えました。この制約が長期にわたるにつれ、その変化は新たな常識として受け入れられていきます。そこで私たち教員は、従来の方式にしがみつくのではなく、今後の社会情勢や常識を予測しながら学生たちを支援していく必要があります。

本稿では、その試みの1つとして、コロナ禍がこのまま継続するか否かがまだ不透明だった2022年2月ごろから筆者がゼミナールの学生たちと取り組んできた活動について紹介したいと思います。その中で、地域活動における“場”づくりとオンラインも積極的に活用したPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)の指導体制について考えていただく一助になれば幸いです。なお、本活動はまだ途上なので、本稿ではPBLの活動を展開するための前準備を主に紹介いたします。

首都圏内での活動フィールドの模索

まず、コロナ禍で直面した課題は、フィールド活動の制約です。最も厳しいときは外出が一切できませんでした。また、地域創生学部では学生が遠方地域に長期間滞在する「地域実習」という必修科目がありますが、それも2年間、オンラインでの代替措置をとってきました。コロナ禍3年目にあたる2022年度も、活動の制限が緩やかになってきたものの、宿泊をともなう対面でのフィールド活動を実施できるかどうかは2022年2月の段階では不透明な状況でした(結果的には2022年10月から最大4週間に及ぶ現地でのフィールド学修を実現することができました)。

そのような状況下で、筆者は、2022年度が始まる前に、学生たちの活動の“場”を確保しようと、首都圏内でのフィールドを模索し始めました(筆者は関西出身であり首都圏に伝手がありません)。自主的活動への支援制度を活用しようと調べた結果、埼玉県の「中山間『ふるさと支援隊』」という事業があることを知りました(https://www.pref.saitama.lg.jp/a0902/shientai/index.html)。ゼミ内でも当初からグループでの調査活動を望む声が強かったので、「ふるさと支援隊」としての活動を目指すことには戸惑いはなかったようです。2022年度が始まる前の2月のできごとです(春休み期間でしたのですべてオンラインで指導しました)。


【写真:Microsoft Teamsの画面:オンラインでの企画提案の指導】

ふるさと支援隊への応募

応募プロセスには2つの段階があり、第1段階が書類審査でした。それは、埼玉県内の中山間地域の中から主な活動地域を決定した上で、その地域での活動企画を提案するという内容でした。私たちのゼミナールは埼玉県内に伝手は全くありませんから、1から築き上げていく必要がありました。しかし、筆者が学生たちに示したのはその方針だけであり、具体的な企画や活動の内容を考える主体はあくまでも学生たちです。以下の活動もすべてゼミナールの学生たちが主体的に考案し行動した結果です。

主な活動地域は秩父市に決定しましたが、それは大正大学が所在する豊島区が秩父市と姉妹都市の関係にあるからです。2014年にはともに「消滅可能性都市」に指定されたことで、地域創生関連の施策においても連携を深めていることも選定の強い根拠となりました。そこで、その連携をさらに活かし、学生視点から秩父市中山間地域の活性化の助けになれないか、というのが学生たちの案出した企画案でした。

活動主体が学生であるといえど、現地の方々の納得や理解なしに活動をすることは慎まねばなりません。筆者は、学生企画の素案を現地の方々に説明する機会を設けることにしました。もちろん、説明するのは学生たち本人です。赴いたのは、秩父市役所市長室総合政策課および移住相談センター、一般社団法人秩父地域おもてなし観光公社、ゆいま~る花の木です。それぞれご協力いただき、企画の趣旨説明やご支援の依頼を進めました。


【写真:秩父市役所での企画案説明と支援要請】

そこでいただいた助言や秩父市での既存の事業を踏まえ、学生たちの企画案はより具体的になっていきました。最終的には秩父市の「観光面」と「生活面」の両方の魅力を都心の人々に伝える「ちちぶまっぷ」を作製することに決まり、その内容で審査書類を提出しました。第1段階の書類審査はクリアでき、第2段階のプレゼン審査が5月20日に行われました。採択の可否が決まるまでにも学生たちは「秩父ファンクラブ」に入会したり、秩父市の栃本地区や荒川地区に足を運んだりして、現地の方々との交流を深めようと懸命に努力をしていました。


【写真:秩父市栃本地区のボランティア活動に参加】

企画プレゼンを含む2次審査も無事に通過し、本ゼミナールは秩父市の「ふるさと支援隊」として今も継続的に活動しています。2023年2月までの「ちちぶまっぷ」完成を目指し、今日も学生たちは自分たちで考え、自ら計画を立て、行動しています。その活動内容については続編にてレポートいたします。(企画プレゼン資料はこちら

2022.12.01