震災から9年目の南三陸と学生の変化

著者
大正大学地域構想研究所 特命講師
齋藤 知明

著者
大正大学地域構想研究所 特命講師
齋藤知明

震災から9年の展開

「大学、大学生にできる復興支援とはなんだろう」

東北出身の筆者は、東日本大震災以降、常にこの問いが頭の中にありました。大正大学で教鞭を取るようになってからは、大正大学のエリアキャンパスがある宮城県南三陸町に、何度も足を運ぶようになります。2017 年からは南三陸での長期実習も担当することになり、ますます自問自答する日が続きました。

筆者は、まずはなるべく多くの学生を南三陸に連れて行くことを責務と考えています。そして、現地で震災の爪痕や復興の様子を直接感じてもらいながら、この現状を自分ごとにしてもらうことに努めました。この姿勢は震災から9年が経とうとする今も変わりません。

一方で大きく変化したことがあります。学生の関わり方の内容です。この9年の間、復興のフェーズや現地のニーズにともなって活動内容は目まぐるしく変わってきました。これまでの実感として、大きく4つに分けられます。

第1期(震災直後)は「救援活動」。震災直後の 2011 年4 月から1 か月かけて、大正大学は教職員学生合わせて120人を超える人員を南三陸に送りました。そこでの活動は「がれき撤去」「支援物資の仕分け」「炊き出し」「こどもの遊び相手」など、避難所での生活を余儀なくされている方々の支援が中心でした。

第2期(震災から1 年〜3 年)は「ボランティア」。大正大学は、震災被災地での活動がいかに学生を成長させるかを実感し、南三陸で研修を受けるための環境整備に着手しました。2013 年にエリアキャンパスを設置し、教育的視点が含まれる支援活動を本格化させます。この頃の学生たちは「農地整備」「がれき撤去」「こどもの遊び場づくり」「イベント支援」などの活動に従事し、大変重宝がられました。

第3期(震災から4年〜6年)は「スタディ」。復旧に目処が立ち、がれき撤去や環境整備などハード面での需要が減少する一方で、「こころのケア」や「産業支援」などソフト面での支援が必要になってきました。そのような現地のニーズと大学での専門的な学習をマッチさせたプログラムや、復興の過程・地方創生の力学を実感する研修プログラムなど、学びと復興支援が並立する活動へと発展していきます。

第4期(震災から7年〜現在)は「対話と協働」。震災から10年後を見据え、南三陸を学生の学習のみに活用するのではなく、町民と学生がともに新しい価値を創り、その対話と協働の成果を日本全国へと発信する場へと転回させていきます。「南三陸の方とともにつくる企画」「南三陸の現状と魅力を伝えるメディア制作」など、持続可能で多彩な関わりを理念としながら学生の活動が大きな変化を見せました。

そこに行かなくてもできる活動へ

学生たちの意識が「被災地 “に” 私たちができること」から「被災地 “で” 私たちができること」へと変わっているのに気づきます。被災地への視角が「被支援者」から「協働者」に変わったと言い換えることもできるでしょう。学生たちは自分自身が大きく成長できる場として南三陸を捉え、現地の方々も学生のその思いに応えてくれている。それが南三陸の現在地です。

さらに近年は「現地に行かなくてもできる復興支援」もおこなわれるようになりました。「サービスラーニング」という授業を受講している学生を中心に、東京で南三陸の現状や魅力を伝えるワークショップやイベントが開催されています。

先日「第2回 すきだっちゃ南三陸」というイベントがありました。昨年から始まったイベントですが、寺院(足立区・全學寺)を会場とした学生主催のチャリティーイベントであり、南三陸の魅力を写真展、ピアノ公演、演劇、語り部、食事など様々な手段で伝えていることが特徴です(詳しくは、トネリライナーノーツ「お寺と大学のコラボがまたも実現。第2回すきだっちゃ南三陸」 を参照)。

企画、広報、準備、南三陸側との調整、本番の運営すべて学生がおこないました。昨年の第1回は2日間で700人の来場がありましたが、今年の第2回は1日だけの開催で550人の来場となり、着実に地域イベントとして定着している機運を感じます。

このように、学生たちが主体的に南三陸の魅力を伝えたいと思うようになったのも、学生一人ひとりが何度も現地に通い、復興を自分ごととして捉えているからです。東京発の被災地復興イベントが各所で開催されていますが、物販や講演ではなくて、単純に来ている人に楽しんでもらいながら被災地の現状や魅力を知ってもらうという趣旨を掲げたイベントは数少ないでしょう。この展開は、困っている他者を助けたい =「支援」ではなく、復興する南三陸に関わりたい =「応援」の方が、正確に表していると考えます。

「大学、大学生はどのような形でも復興に関われる」
冒頭の問いに対する筆者の一つの答えです。大学、大学生ができることは企業、社会人と比較して数多くはありません。しかし、熱意や行動力は学生の大きな強みでしょう。南三陸の方々は学生の熱意や行動力を受けて優しく色々なことを教えてくれますし、そのために惜しまず時間を割いてくれます。それに対して学生たちは応援で返します。このように考えると、「学生として関わること」がすでに復興活動と言えるかもしれません。

 

2020.03.12