新型コロナ後の人口変化について

著者
大正大学地域構想研究所 客員教授
小峰 隆夫

公益財団法人中曽根康弘世界平和研究所では、筆者が座長となって研究会を組織し、3月に「新型コロナウイルス感染症が経済社会に与える影響とその課題 ――人・都市と地域・経済の観点から―― 」という報告書を発表した。
そこでは、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の影響について、「人への影響」「都市・地域レベルでの影響」「マクロ経済のレベルでの影響」の3つの観点から検討している。
筆者は、今回の研究会で日本や世界の出生率(以下、出生率は合計特殊出生率を指す)について、知らなかったデータがあることがわかった。
一般的に出生率というと、厚生労働省の「人口動態統計」に登場する出生率を指すことが多い。これは年1回発表され、2022年(令和4)で、出生率は1.30だった。
ところが、出生率の月次データがあることを知った。これは、この研究会に参加していた駒澤大学の増田幹人准教授に教えていただいたものだ。この月次の出生率は、増田准教授が15~49歳における5歳階級別の日本人女性人口に対する出生数から、全体としての出生率を推計したものだ。
増田准教授はこれを季節調整し、月次データを計算している。月ベースの生のデータには、「〇月は赤ちゃんが生まれやすい」といった季節性があるので、統計的な手法でこれを除去した。

月次データから読み解く新型コロナ前後の出生率変化

日本で新型コロナ患者が確認されたのは、2020年1月、そして同年4月には第1回緊急事態宣言が発出された。このころから広く社会的に認識されるようになったとすると、そのショックによる出生率への影響は2021年以降、より明確に表れるはずである。そこで、月次の出生率の変化から次のようなことがわかる。
第1に新型コロナ前には日本の出生率は、トレンドとして徐々に低下していた。第2に2021年1月に出生率が、大きく低下している。2月の水準もまだ低い。これは、明らかに新型コロナの影響で出産が控えられたからだろう。
第3に2021年4月ころまでには、反動的に出生率が上昇している。これは新型コロナで控えられた出産が反動的に増加したからだ。第4に同年5月以降は再び出生率が低下し、新型コロナ前のトレンドとしての低下傾向に戻ったようだ(以下のグラフ参照)。

通常、年ベースの出生率を見ると、2021年には新型コロナの影響で出生率は下がったが、2022年以降、その反動で出生率が上昇するか、もしくは、このまま出生率の低下傾向が続くのかもしれない―― と考える人が多いのではないか。
ところが、月ベースの出生率を見ると、この問題にはすでに結論が出ている。すなわち、反動増はあり、それはすでに終わっている。そして、その後の出生率は、新型コロナ前の低下傾向に戻っているということなのである。

新型コロナで出生率上昇国も!?  国別に見た出生率の推移

もう一つ筆者があまり知らなかったデータがある。それは、国別に見た出生率の推移だ。
前述の月ベースの出生率は、日本だけではなく、主要先進諸国についてもデータが存在する。そこで、新型コロナ後の出生率の変化をたどってみると、次のような三つに分けることができる。
第1は、新型コロナを契機に出生率が低下し、その後反動増が生じた後、再び元のように出生率が低下している国(日本、イタリア、スペイン、ポルトガル)。
第2は、新型コロナを契機に一旦出生率が低下した後、反動増が生じ、それ以降も出生率が高止まりしている国(アメリカ、フランス、ベルギー)。
第3は、新型コロナ後に出生率が低下するどころか、逆に上昇している国(フィンランド、スウェーデン、デンマークなどの北欧諸国や、オランダ、ドイツ、オーストリア)。
われわれは、コロナが出生率に与えた影響というと、もっぱら「コロナで出生率が低下する」ことを考える。ところがそれは国際的には当然だとは言えないのだ。では、なぜ新型コロナを契機に出生率が上昇するのか。
先日、アメリカのニュース番組でこのことを取り上げていた。それによれば、アメリカでは新型コロナでテレワークが一気に進み、家族が一緒にいる時間が増え、それが理由で子どもをもっと早めに持つことになったのだという。
なるほど。テレワークが、勤労者の家庭生活をより豊かにするような方向で定着していけば、それもありうる話だ。だとすると、日本の出生率が上昇しない理由は、デジタル化の成果を家庭生活の豊かさにつなげられていないことにあるのかもしれない。

(『地域人』第89号掲載)

2023.07.18