世界的な視野で見る日本の人口問題

著者
大正大学地域構想研究所教授
小峰隆夫

日本の人口問題は、世界の人口問題でもある。世界も日本と同じような人口変化をたどりつつあり、日本と同じような課題に悩んでおり、その中で日本は圧倒的に最先端を歩んでいるからだ。世界は日本の人口問題に注目している。日本が人口問題の超先進国として、その課題を克服すれば世界はそれを見習うだろう。逆に、日本がそれに失敗すれば、世界は、「日本のようにならないように」と考えるだろう。日本の役割は大きいのだ。

日本と同様に世界が直面する人口減少と少子化

日本と世界の人口の変化は驚くほど似ている。
第一は、人口減少だ。日本の人口は減少し続けており、出生率の動きから見ても、今後かなり長い間人口減少は続くことになる。世界の人口は、現在は増加しているが、その増加率は低下しつつあり、やがてマイナスに転ずると見込まれている。

国連の人口予測では、世界人口は2100年に109億人まで増え続けるとしていた。しかし、この予測は過大と考えられるようになっており、2020年7月に米ワシントン大学は、世界人口は2064年の97億人をピークとして減少局面に入るという予測を発表した。世界全体の人口は、これまで考えられていたよりもずっと早く減り始めるようだ。

第二は、出生率の低下だ。2020年の日本の合計特殊出生率(以下、出生率。女性が一生の間に産む平均的な子供の数)は1.34だった。これは、人口が一定となる出生率2.07(人口の置き換え水準)を大きく下回っているから、人口が減るのは当然なのだ。世界はどうか。国連の推計では、世界全体の出生率は、1950年(50~55年平均、以下同じ)の4.97から、2000年には2.47となっており2060年には2.11と見込まれている(下表参照)。前述のワシントン大学のレポートは、2100年までには1.7を下回るだろうと予測している。

なぜ世界的に出生率が低下するのだろうか。まず、世界を概観すると、所得水準の低い国・地域ほど出生率が高い。例えば、2000年には、先進地域が1.56、開発途上地域2.90である。地域区分で見ると、貧困国が多いアフリカは4.97、高所得国が多いヨーロッパは1.40である。こうした所得と出生率の関係を前提にすると、今後は途上国でも所得水準が高まるにつれて出生率は低下すると考えるのが自然である。もう一つは、先進国でなかなか出生率が高まらないことなのだが、この点は後述する。

第三は、高齢化である。日本は、これまで高齢化率(人口に占める65歳以上の者の割合)が急上昇してきており、2005年には先進国中最高レベルとなっている。

今後は、世界全体でも高齢化が進む。表に見るように、国連の予想では、世界全体の高齢化率は、2020年の9.3%から2060年には17.8%まで上昇する。先進地域だけではなく、開発途上地域においても高齢化が急速に進展することになる。

高齢化の速度も速い。高齢化の速度を測る目安となるのが、高齢化率が7%から14%に達するまでの所要年数(倍加年数)である。主要国の倍加年数を見ると、フランス126年、アメリカ72年、ドイツ40年といった具合だが、日本はわずか24年だった。ところが今後高齢化が進む地域では、その日本よりも倍加年数が短い国が、特にアジア地域で現れており、韓国が18年、シンガポールが17年となっている。今後もこうした急速に高齢化する国が続出するだろう。

第四は、生産年齢人口の減少である。本連載ではこれを「人口オーナス」と呼んできた。日本では今後急速に人口オーナスが進展することは何度も述べてきたのでここでは繰り返さない。

少子化が進めば、いずれは生産年齢人口も減るのだから、今後は世界全体で人口オーナスが進展する。日本経済新聞によると、1980年に世界の国・地域のうち生産年齢人口の伸びがマイナスだったのは全体の6%だったが、2020年には約23%、60年には過半の国が減少局面に入るという(8月23日付朝刊「人類減少、変わる社会」)。

将来の日本を考えるうえで重要な二つの論点とは

以上のような考察から、日本にとっても重要な二つの論点が出てくる。一つは、前述のように、先進諸国においても少子化が止まらないことの意味をどう考えるかだ。これまでは、次のように考えられてきた(私もそう考えていた)。所得水準が上昇すると少子化が進むのは、女性の社会参画とともに、女性の子育ての機会費用が高くなるからである。したがって、スウェーデンやフランスのように、女性の子育てと就業が両立するような環境を整えれば、所得水準が上昇しても出生率の低下には歯止めがかかるはずだ。

ところが、どうもそう簡単ではないようだ。スウェーデンやフランスは一時出生率が2を上回り、私も「おおすごいな」と思っていたのだが、両国とも、その後出生率は再び2を下回り、2019年にはフランスが1.84、スウェーデンが1.70である。改めて考えてみると、子供を持つことの制約が完全になくなった時に、出生率が置き換え水準まで回復するという保証はないのかもしれない。

もう一つは、今後世界的に人口オーナスが進むことの意味をどう考えるかだ。人口オーナスに直面した国は、外国人労働力に頼ろうとする。日本もそうである。ところが世界全体で人口オーナスが進むと、世界全体で働き手が不足するから、簡単に外国人労働力に頼れなくなる。まだだいぶ先の話ではあるが、日本も、人手不足をカバーするために外国人に頼るという作戦は取りにくくなるはずだ。少なくとも「外国人は賃金コストが低い」という理由で頼ることはできなくなるだろう。

(「地域人」第74号掲載)

2022.02.15