コロナ危機下で経済に何が起きたのか

著者
大正大学地域構想研究所教授
小峰隆夫

コロナショックが日本経済に最も大きな打撃を与えたのは、2020年の4-6月期である。この時に経済には何が起きていたのか。データが次々に明らかになるにつれて、これまでに例を見ないような、この期間の日本経済の姿が見えてきた。

2020年の4-6月期の実質GDPは、前期比8.2%の減少、年率では実に28.8%もの減少となった。戦後最大のマイナス成長である。そのマイナス成長の姿を、支出(需要)、生産(供給)、所得(分配)という三つの側面からチェックしてみよう。

支出面では消費と輸出が落ち込んだ財、サービスともに輸出の減少幅大きく

8.2%もの経済の縮小をもたらした支出項目は何だったのか。4-6月期で最もマイナスの寄与度が大きかったのは家計消費で4.4%、次に大きいのが輸出の2.9%だった。この二つの合計でマイナス7.3%だから、4-6月期の落ち込みのほとんどは、消費と輸出だけで説明できてしまう。

消費が落ち込んだのは、緊急事態宣言が発令される中で、多くの人々が外出を控えたため、外食、レジャー等に向けた支出が大幅に減少したからだ。

輸出は「財」と「サービス」に分けられるが、ともに大きく落ち込んだ。財の輸出については、財務省[貿易統計]の輸出数量指数をみると、4-6月期は前年に比べて25.2%も減少した。世界的な供給網がコロナショックによって寸断されたからである。

サービス輸出の大口は、インバウンド観光だが、4-6月期の訪日外国人の数は前年比99.9%の減少という、あまり見たことのないような姿となった。ほとんど消えてしまったという状態である。

次に生産の動きを見よう。GDPと完全に整合的な生産面の影響はまだ明らかになっていないが、生産分野別のデータを見ることによって、特徴をつかむことができる。

今回の生産の動きを、同じように大きなショックだったリーマンショック(2008年9月)と比較してみよう。図は、鉱工業生産指数(主に製造業)と第3次産業活動指数(主にサービスなどの非製造業)について、それぞれリーマンショック時と今回のコロナショック時の動きを比較したものだ。

(上段)図①鉱工業生産指数の推移 (下段)図②第3次産業活動指数の推移

 

鉱工業生産指数については(図①参照)、どちらのショック後も大きく落ち込んでいるが、リーマンショック後の落ち込みのほうがやや大きい。これは、リーマンショックの打撃は、世界貿易の縮小→日本の輸出の減少→製造業生産の減少というルートで進んでいったためである。コロナショック後も同様に財の輸出が落ち込んだため、それが波及し製造業部門が打撃を受けたのである。

特徴的なのは、第3次産業の動きだ(図②参照)。主に非製造業部門の動きを示す第3次産業活動指数は、リーマンショックの時にはそれほど大きな動きを示さなかったが、コロナショック後は製造業と同じような大きな落ち込みを示した。前述のように、消費などの面で対面サービスが手控えられたからである。

これまでは、非製造業は景気が悪化しても比較的安定を保ってきた。それが今回のコロナショックでは大打撃を受けた。旅行業、外食産業など多くのサービス業は、経験したことのない業績の悪化を経験した。これが今回の供給面から見たコロナショック時の経済の大きな特徴である。

消費支出の減少と10万円給付で大幅に上昇した貯蓄率

最後に所得面を見よう。4-6月期の姿を見ると、まず、勤労者の賃金(雇用者報酬)は、11.6兆円の減少となった(季節調整値の前期差年率表示なので、実際の金額の4倍、以下同じ)。こうして賃金はかなり減ったのだが、一律10万円の特別定額給付金があったため、家計の可処分所得は30.8兆円も増えた。

一方で、家計の消費支出は、外出、レジャー活動の自粛などにより、24.9兆円も減った。可処分所得が大幅に増えて、消費支出は大幅に減ったため、家計の貯蓄は55.5兆円も増え、貯蓄率は実に23.1%もの高水準となった(2014~2018年度平均は2.3%)。

こうしてみると、少なくとも4-6月期については、家計は所得面では全く打撃を受けなかった。打撃を受けなかったどころか、逆に所得が大幅に増えたのである。こうしたデータから見る限り、少なくともマクロ的には10万円給付は家計の貯蓄を増やしただけに終わったことになる。

以上、経済の三面から、やや異常とも言うべきコロナショック下の経済の姿を見てきた。今、こうした異常な姿は急速に是正されつつある。それがどのように是正されていくかも、次第に明らかになるはずだ。

「地域人」第64号(2020年12月10日発売)掲載

2021.03.01