働き方改革と地方創生

著者
大正大学地域構想研究所教授
小峰隆夫

時代が求める働き方の転換「メンバーシップ型」から「ジョブ型」へ

私が、コロナショックを機に働き方改革が重要だと考えるのは、それが「メンバーシップ型」から「ジョブ型」へという働き方の基本的な変化をもたらす可能性があるからだ。以下で説明しよう。

働き方をタイプ分けするときメンバーシップ型雇用とジョブ型雇用という分け方がある。メンバーシップ型というのは、特定の組織(企業や官庁)に所属し、その中でキャリアを形成していくものだ。いわゆる「終身雇用型」である。日本の雇用システムは典型的なメンバーシップ型である。一方、ジョブ型というのは、特定の「仕事」「専門性」に基づいてキャリアが形成されていくもので、欧米の雇用システムはこのタイプが多い。

メンバーシップ型、ジョブ型にはそれぞれ特徴があり、どちらが望ましいかを先験的に決めることはできない。本当の問題は「どちらがいいか」ではなく、「どちらが時代の流れにフィットしているか」である。その意味から私はかねて、これまでのメンバーシップ型は時代の変化に適合しなくなってきており、日本が直面している諸課題の解決を難しくしているから、ジョブ型への転換を図るべきだと考えてきた。

メンバーシップ型の問題点を具体的に挙げてみると次のようになる。

①雇用の流動性を阻んでいる:衰退産業・企業から発展産業・企業への人材移動が起きず、経済全体の生産性の向上を阻害している。
②女性の経済・社会への参画を阻んでいる:メンバーシップ型の下では男性が優先して採用されやすい。
③少子化をもたらしている:メンバーシップ型から外れることの機会費用が大きくなるため、女性にとっての「就業継続か、子育てで中断か」の選択がより厳しいものとなる。
④長時間労働をもたらしている:労働時間で雇用の調整を行うため、忙しい時にはどうしても長時間労働を強いることになる。
⑤正規・非正規の格差を広げている:メンバーシップに入れた正規と入れなかった非正規の待遇格差が大きくなる。

こうして並べてみると、メンバーシップ型が多くの問題の解決を阻んでいることが分かる。

このようにメンバーシップ型には問題が多いと分かってはいても、これまではなかなかジョブ型への転換は進まなかった。実際のところ、これまでのメンバーシップ型をジョブ型に転換するということについては多くの人が反対している。私も大学の授業でこの点をしばしば取り上げたのだが、「ジョブ型だと雇用が安定しないのではないか」「外資系のような厳しい職場は御免こうむりたい」という反応が結構多く、反対派の方が多い。

しかし、コロナショックの中でテレワークが当たり前のようになったことは、各方面のためらいを押し切ってジョブ型への移行を進めるビッグプッシュ(大きな一押し)になる可能性がある。テレワークがもたらした非対面型の勤務形態は、次のような点でジョブ型との親和性が高いからだ。

まず、ジョブ型では、「上司に言われたことをやる」というあいまいなものではなく、職務内容を文書で明確にしておく必要がある(ジョブ・ディスクリプションという)。これはテレワークを軌道に乗せるためにも必要なことだ。

また、ジョブ型では「何時間働いたか」という勤務時間ではなく、「どういう成果を挙げたか」が問われる。テレワークでも、時間による管理は難しく、「特に仕事はないが机に座っている」という働き方は淘汰されるはずだ。

こうして考えてくると、私などは、テレワークを推し進めていくと、そのままジョブ型に移行してしまうのではないかと思ってしまうほどだ。
企業もジョブ型への移行を真剣に考え始めている。7月に行われた日本経済新聞社の企業の社長へのアンケート調査では、 40.7%がジョブ型を導入または検討していると答えている(下表1)。 また、ジョブ型への移行を阻んでいることとして50.3%が「職務を明確化しづらい」という点を挙げている(下表2)。職務が明確化されていけば、ジョブ型への移行がしやすいということである。

以上のような雇用システムの変化は、地域にとっても重要な意味を持っている。メンバーシップ型からジョブ型への移行という流れは、必然的に進むものであり、それは日本の経済社会にとって望ましい流れでもある。それがコロナショックを経て加速するのだとすれば、地域もできるだけ早くそれに適応した方が良いのではないか。その方向としては次の二つが考えられる。

一つは、地方公共団体で働く人の働き方をジョブ型に変えていくことだ。ここまでの議論を踏まえると、役所の働き方をジョブ型に変えていけば、オフィスワークの生産性は高まり、女性にとって働きやすい職場となり、子育てと就業の両立が図りやすくなり、ワークライフバランスも改善する。そういう職場になっていけば、内外から優秀な人材が集まるようになるだろう。

もう一つは、当該地域にジョブ型の受け皿を整備することにより、定住人口を増やすことだ。テレワークが普及し、ジョブ型雇用が広がって行くと、都市から郊外へ、都市周辺から地方部へという人の流れが生まれる可能性がある。この受け皿を巡って、今後地域間の競争が始まるのではないかと私は考えている。

「地域人」第61号(2020年9月10日発売)掲載

2020.10.01