アンケート調査結果を見て考えること

著者
大正大学地域構想研究所教授
小峰隆夫

先日、本研究所で第2期「地方版総合戦略」に関するアンケート調査を実施し、その集計結果をHPで公表している。

今回のアンケート結果は、二つに大別される。一つは、各地域が第2期目の地方版総合戦略にどのように取り組んでいるかということであり、もう一つは、人材育成についての各自治体の取組状況である。人材育成については、4年前に行った調査と全く同じ質問項目を使用しており、ここ4年間の変化を把握できるようにしたことが大きな特徴である。以下私が感じたことを、以下の3点に絞ってまとめておきたい。

第1は、地方版総合戦略についてである。当然ながら、多くの自治体が第2期の総合戦略を策定しており、2020年度から実施段階に入ることとしている。常識的には「長期的な指針を着実に実行していくべきだ」と言いたいところだが、私は、現段階では「決めたことにこだわらずに、事態の推移を見定めて弾力的に対応すべきだ」と思っている。

言うまでもなく、2020年度からのスタート早々で「コロナショック」という大激震に見舞われてしまったからだ。コロナショックは、日本の経済社会全体に大きな影響を及ぼしつつある。成長率は当面マイナスになりそうだし、雇用情勢も悪化しつつある。企業の倒産や廃業の動きも加速しそうだ。長期的に見ても、働き方、医療体制、教育制度などが見直しを迫られつつある。

当然、地域の戦略もコロナ前のままというわけには行かなくなるだろう。例えば、多くの自治体が地方創生の柱と位置付けている観光である。2019年12月に決定された政府の「第2期まち・ひと・しごと総合戦略」では、第1期の地方版総合戦略におけるKPIの進捗状況を整理しているのだが、多くの自治体が「観光」についてはその進捗状況を高く評価していることが示されている。しかしこれはコロナ以前に、日本全体でインバウンド観光が活況を呈したからである。その後、コロナショックでインバウンド観光は壊滅的な打撃を受けている。こうした点については、もう一度コロナ後の情勢を見据えた対応が必要になるだろう。一方、テレワークの普及などによって、東京一極集中が是正されることも考えられる。ただ、コロナショックの影響はまさに現在進行中であり、その帰趨はまだ判然としない。今後の推移を見守りながら、柔軟な発想で戦略を再点検する必要がありそうだ。

第2は、地方自治体における人材の規模間格差である。今回のアンケートでは、「地域の総合戦略策定に際しての必要な人材の確保」に関して、規模が小さい自治体ほど「人材の確保が困難だった」と回答している。これはある程度はやむを得ないことだとも言える。規模の小さな自治体ほど職員の数も少ないから、十分な人材を確保するのが難しいからだ。

これについては、民間の力を借りるのが手っ取り速い解決策だが、あまりにも民間コンサルタントに依存してしまうと、肝心の自治体にノウハウが十分蓄積しないという問題がある。私はこの点では、広域連携が一つの鍵になるのではないかと考えている。政府の第2期総合戦略でも、交通面では「近隣の地方公共団体同士が連携し、‥圏域内交通の統合・最適化を図った結果、利便性が向上し、交通利用率の改善が図られた地域が出てきている」と指摘している。交通で出来るのであれば、戦略作りについても周辺自治体との連携が可能であり、そうすれば人材も効率的に育成・活用できるのではないかと思う。

第3は、政策評価とKPIの設定にかかる点だ。この点について、政府の第2期総合戦略では、「地方公共団体は、それぞれの『地方版総合戦略』に地域の課題や実情に応じたKPIを設定するとともに、‥データによる政策効果検証を行い、効果的かつ効率的に、政策を改善するPDCAサイクルに取り組むことが重要である」と述べている。

まことにもっともであり、正しい指摘なのだが、実務的にはこのKPIのハードルが高く、多くの地方自治体が苦労しているようだ。今回のアンケートでも、総合戦略の策定に当たって困難の多かった業務として「アウトカムの設定」「KPIの策定」を挙げる声が多かった。また、政策立案を担う職員を対象とした研修で受講させたい内容としても「ロジックモデル、PDCAなど政策立案と評価手法」を学ばせたいとする声が多かった。

確かに私がざっと考えても、注文通りのアウトカム指標でKPIを設定せよと言われても、どんな指標を選ぶべきかは非常に難しい問題だ。入手しやすいデータを使おうとすると、政策目標との整合性が取りにくいし、かといって最初からデータを作るのはかなりの資源を投入する必要がある。そんなことを考えているうちに、指標の設定そのものが目的化してしまい、肝心の政策評価にまで到達しないということになりそうだ。こうした点については、原点に戻って、政策の目的とその達成のための手段は何かというロジックモデルをしっかりさせることからスタートし、効率的な運用を謀って行くべきであろう。

我々の地域構想研究所では、地方自治体の職員の若手・中堅職員を対象として「塾」を開設すべく準備を進めている。今回のアンケート結果も、この新しい塾の設計に生かしていくこととしたい。

 

2020.07.01