前回記事でもご紹介した、社会実装すがもプロジェクトで進めているアンテナショップ「座・ガモール」では、昨年の暮れから地方の酒をコンセプトとした新しい取組を始動し、運営している各店では対象地域の地酒を扱うようになった。水と米を原料とする地酒は、日本の気候風土で育まれ、蔵人の技が醸し出す地域の宝だ。一般的な特産品と異なり、神事や伝統行事など地域の歴史や文化とも関わる、貴重な地域資源である。
ここ数年、日本酒をはじめ、焼酎、クラフトビール、地域のワイナリーがにわかに注目されるようになっており、SNSや雑誌の特集にも取り上げられる機会が増えている。また、プロモーション活動の試飲イベントも中年の男性より若い女性の参加が増え、SNSによる情報の拡散につながっている。座・ガモール各店では地酒ファンが好む人気の銘柄などを品揃えすることで、店舗の地域性の強化、店のファン化にもつながってきており、少しずつリピートのお客様も増えてきている。かなりマニアックな特定銘柄を指名してくるお客様もおり、ニーズの掘り起こしや品揃えの参考にもなっている。
3つの座・ガモールが位置する巣鴨地域の各商店街(庚申塚商栄会、地蔵通り商店街、巣鴨駅前商店街)には、昔ながらの酒屋さんは1店舗もなくなり、代わってコンビニやスーパーで酒が売られている。競合店にはなるが、大手流通で扱われる酒類はメジャーな銘柄が主体で、商品のバッテイングはなく、差別化を図ることはできている。今銘柄の充実を図って、地酒を購入する目的で座・ガモールに足を運んでもらえるよう注力していきたい。
一方、昨年の秋にリニューアルした座・ガモール3号店(神の国から)2階の『あちこち庵』では、利き酒会の開催を定例化し、あらたな店舗誘客につなげている。蔵人に店舗に来ていただき、蔵の歴史、付加価値、地域の魅力など語っていただき、酒蔵のある地域の肴を味わってもらうサロンイベントだ。これまで3回開催し、新しい地域情報の発信として、連携自治体からも評価いただいている。これまでの利き酒会の概要をご紹介する。
<第一回 2019年1月30日>
佐渡の地酒「北雪」と新潟の食を味わう
酒蔵:北雪酒造株式会社(新潟県佐渡市)
蔵人:北雪酒造専務取締役 羽豆大氏
銘柄:①YK35 ②純米大吟醸 ③純米生原酒
<第二回 2019年2月14日>
神の国から利き酒会
酒蔵:神楽酒造株式会社(宮崎県高千穂町)
蔵人:神楽酒造 東京支店 谷 一氏
銘柄:①ひむかのくろうま ②くろうま天駆 ③長期貯蔵くろうま ③天照
④天孫降臨 ⑤黒麹天孫降臨
<第三回 2019年3月19日>
山梨のワイン「サントリーの日本ワイン」を味わう
「地域人」第43号・特集「日本ワインの挑戦」とのタイアップ
トークショー:森枝卓士(フォトジャーナリスト)、渡邊直樹編集長
酒蔵:サントリーワインインターナショナル株式会社
蔵人:サントリーワインインターナショナル株式会社 国産ブランド部部長 松尾英理子氏
銘柄:①ジャパンプレミアム甲州2018
②ジャパンプレミアムかみのやま産シャルドネ2017
③塩尻ワイナリー塩尻メルローロゼ2017
④登美の丘ワイナリーブラック・クィーン&マスカット・ベリーA2016
<第四回 2019年4月18日>
(予告) 宮城の地酒「萩野酒造」と宮城の食を味わう
酒蔵:萩野酒造株式会社 (宮城県栗原市)
蔵人:萩野酒造 専務取締役 佐藤曜平氏
銘柄:①純米吟醸 ②極上純米酒 ③手造り純米酒
さて、にわかに地酒が注目され、お酒を飲む層も広がりつつある。雑誌での特集だけでなく、日本酒アプリも20以上もあり、蔵の薀蓄やストーリー、銘柄の特徴までわかりやすく解説されている。手軽に酒蔵情報が入手できることから、消費者の銘柄へのこだわりもますます高まってくる。水、酒米、杜氏、製法、蔵の歴史など地酒は様々な薀蓄要素があることから、店舗はますます情報を集め、適切に商品の説明ができるようにして、お客様のニーズに応えていかなければならない。
学生にとってはハードルは高いかもしれないが、地酒から紐づけられる地域課題とその解決から多くを学ぶことができる。酒蔵の廃業、後継者難、酒米など一次産業の衰退、地域の文化や伝統の継承、自然災害、海外への販路拡大、観光との連携など他分野に及ぶ。地酒の単なる製品として販売するだけでなく、その背景にある地域課題にも目を向けられるように指導していきたい。