著者
大正大学 地域構想研究所 研究員
小川 有閑
2020年初頭からの新型コロナウイルス感染症の流行は、全国の寺院に大きな影響を与え続けています。葬送儀礼や寺院の行事では人々が集うことが基本にあり、多くの寺院関係者は対応に苦慮されたことでしょうし、これからの寺院運営に不安を抱かれてもいるでしょう。
大正大学地域構想研究所・BSR推進センターでは、その実態を把握するために2020年5月7日~24日と12月7日~28日の2回、「寺院における新型コロナウイルスによる影響とその対応に関する調査」と題したウェブ調査を実施しました。その詳細はこちらをご覧いただきたいと思いますが、第1回は517件、第2回は304件の回答を全国の寺院関係者から得ることができました。
本稿では、その調査結果から、寺院・僧侶のあり方について考えてみたいと思います。
檀信徒からの法要に関する相談
第2回調査では、寺院が檀信徒から年回法要に関してどのような相談を受けたのか選択肢で尋ねました。選択項目は、第1回調査の自由記述回答から抽出したものです。その結果からは、檀信徒が法要を施主として計画する際に、参列者の人数や延期について悩んでいることが見受けられました。東京は、どの内容でも相談を受ける割合が他の地域に比べて高いのですが、特に無参列での法要実施についての相談はとびぬけていました。感染状況とともに檀信徒側の簡素化への抵抗の薄さなど、東京と他地域の法要意識の違いが影響しているとも考えられます。
図1 法要についての檀信徒からの相談(全国/東京/首都圏/関西)
檀信徒からの生活に関する相談
第2回では、法要以外の生活上の相談についても尋ねていました。第1回調査で、法要とその他の相談を区別せずに、檀信徒からの相談の有無について尋ねたところ、247件の回答があり、193件は法要に関する相談、22件が生活の不安やストレスの相談でした。そこで、第2回調査では生活上の相談に絞った質問をした結果、83件の回答があり、内容は経済的困窮や他者との交流が絶たれたことのストレスなどでした。第1回が517人中の22件の回答であったのが、第2回では304人中の83件ですから、自粛生活が長引く中で檀信徒の生活上の問題が増えていったとも考えられます。特に経済的問題が多く見られ、新型コロナウイルス感染拡大の経済への影響が垣間見られるようです。以下にいくつかの回答例を紹介しましょう。
■経済的困窮・経営不振(31件)
・収入が少なくなり 葬式の布施が出せない。
・仕事をなくし生活困窮されている方もおられます。生活保護でのご葬儀が増えた。
・電話で会社を解雇され、法要を勤められないとの相談。
・観光業で生活が苦しく墓地管理費の納入が遅れて申し訳ないなど。
・護持費の減免、一時中断の申し入れ。
・飲食業の方が、お客さんの数が減り、経営が厳しいことを聞いた。
■自粛生活、会えない・話せないストレス(22件)
・人と話す事が減った、公民館などでしていたサークル活動が無くなった等、楽しみがないと聞いた。
・出かけることがほとんどなくなり、足腰が弱ってきていることへの不安の相談をうけた。
・嫁に外出をきつく止められる。
・人との関わりがすくなることでの寂しさと孤独感。
・家から出ることが少なくなり家族同士で言葉が荒くなった等のストレス性の相談が多い。
■施設での面会禁止(20件)
・入院などの面会に行けなくなり、母親から見捨てられたと言われ、言葉のやり取りに悩まれていると相談を受けた。
・病院に見舞いに行けず家族の顔を見られないのが辛い。亡くなられた場合は、直前まで面会できずお別れもゆっくりできなかったとのお話をよく聞きます。
■感染の不安、ストレス(12件)
・自分たちが感染したらこの街に住めなくなるのではないかという不安を語っておられた。
・感染拡大地域の人と接すると不安があるが、それは差別になるのではないか、と気持ちが揺れ動く。
寺院側からのコミュニケーションの重要性
第2回調査では、少し視点を変えて、新型コロナウイルス感染拡大をどのように前向きにとらえるかを尋ねてみたのですが、「仏教の教えが必要とされる」、「僧侶としての心構えを見直すことができる」など、仏教や僧侶・儀礼・寺院の役割・意義の再確認をする回答者が多いなかで、唯一、過半数に達していない項目は「檀信徒と密な関係を築くことができる」でした。多くの寺院関係者は、対面がかなわない状況では、密な関係を築くことは困難と思慮しているようです。
図2 前向きにとらえる
ここで第1回調査に話を戻してみます。第1回調査では「新型コロナウイルスに関して、檀家・門徒・信徒を問わず、人々にすでに伝えていることはありますか。あれば、どのような方法でどのようなことを伝えているか教えてください」という項目を設けました。これは、不安にある人々へのメッセージ発信こそ仏教者の社会的責任であろうという考えのもと、地味で地道な活動を収集しようという目的で設問したのですが、想定以上に多くの回答が寄せられました。
メッセージの内容は「コロナ禍のなかでの寺院の方針」、「手を合わせること、祈ることの大切さ」、「仏教の教えにもとづく心の持ち方」、「仏様の尊さ」、「日常のありがたさ」、「歴史上の疫病と仏教の関わり」、「情報に踊らされ、いたずらに差別や不安を持たないこと」、「利他精神の大切さ」など多岐にわたります。1回目の緊急事態宣言下でのアンケート調査であり、寺院側にも不安や戸惑いが湧き起こる最中でしたが、多くの寺院が檀信徒に寄り添うように、心を込めたメッセージを発信していることが分かりました。
本調査とは別の調査になりますが、全日本仏教会と大和証券が実施した「仏教に関する実態把握調査報告書」( 2020年10月)では、「コロナ禍において、菩提寺から連絡があった人ほど菩提寺への満足度が高い」という調査結果が出ており、直接対面がかなわない状況であっても、積極的にメッセージを発信することで、寺院と檀信徒の関係性は向上する可能性があることが示唆されています。上述の第1回調査の直接結果と合わせて、対面がかなわない状況であっても、積極的に寺院からコミュニケーションをとることによって、結果として檀信徒からの信頼度・満足度が向上する可能性があることを是非お伝えしたいと思います。
どんな状況であっても、檀信徒一軒ずつ、一人ずつと丁寧なコミュニケーションをとることがまず必須なのではないでしょうか。コロナ禍のなかで、法要を行うにしても、日々の生活にしても、檀信徒は多くの不安を抱えています。その不安に寺院・僧侶はしっかりと耳を傾けているでしょうか。相手の心情を思いやった言動ができているでしょうか。「あなたのことを気にかけていますよ」という姿勢を示せているでしょうか。何もしなければ、檀信徒には伝わらないでしょう。寺院・僧侶が檀信徒にとってどういう存在でありたいのか、コロナ禍は寺院・僧侶のあり方を各自に問いかけているように思います。