新型コロナによって変わる葬送儀礼

著者
大正大学 地域構想研究所/社会共生学部 専任講師
髙瀨 顕功

寺院調査の意味

BSR推進センターでは、昨年2回にわたって新型コロナウイルスの影響に関する寺院向けウェブ調査を行いました。調査項目は、葬儀での変化、年回法要での変化、寺院で行われる諸活動の変化(定例行事、定期法要、年中行事など)、寺院でとっている対応、檀信徒からの相談事、檀信徒へのメッセージなど多岐にわたりましたが、全国各地の寺院関係者に協力いただき、1回目調査(2020年5月実施)では517名、2回目調査(2020年12月実施)では304名もの回答をお寄せいただきました。

これまで、こういった儀礼や寺院活動の在り方についての全国調査はなされてきませんでした。とくに葬送儀礼に関しては、地域の習俗との結びつきが強く、豊かな地域性を持つものが多いため、一律の調査になじまないということもあったかと思います。

しかし、新型コロナは、私たちの今後の生活様式を大きく変えるほどの影響力を持つものです。これらの調査結果は、今後の葬送儀礼の変化を知る上でも重要な基礎データとなるはずです。また、各寺院がどのように乗り越えようとしたのかを記録しておく意味でも重要なものになるでしょう。

これまで、集計結果に分析を加えたものを論文として発表したり、『地域寺院』にも掲載させていただいたりしましたが、ここでもその要点をご紹介させていただきたいと思います。今回は、時間経過の中で、新型コロナによる影響がどのように波及したか、とくに葬送儀礼の変化とそこから予測される私たちへの影響についてお示ししたいと思います。

小規模化する葬送儀礼

葬儀における変化では、1回目より、2回目の方が「会葬者の人数が減った」と答える寺院関係者が増えています。一方、年回法要では「参列者数が減少している」「法要後の会食が減少した」という回答は増加しているものの、1回目の調査時よりも、法事は営まれる傾向にあります。1回目の調査では「法事の中止・延期がある」という回答は9割近くにものぼりますが、2回目の調査では、申し込みの減少を加えても5割程度に落ちついています。したがって、葬送儀礼は執り行われてはいるものの、小規模化が進んでいるといってよいでしょう。

これら、小規模化の背景には、密集に関するリスクだけでなく、移動よる感染リスクも影響していると考えられます。大都市においては、不特定多数の人と密になりやすい公共交通機関を利用することへの不安、地方においては、移動は自家用車であることが多いとはいえ、地域間の移動への懸念もあるでしょう。こういったリスクを避けるため全国的に小規模化が進んだものと考えられます。

一日葬が浸透する首都

さて、「一日葬などの簡素化がみられる」という回答は1回目、2回目でさほど大きな変化がないように思えるかもしれません。しかし、地域別にみてみると、首都圏(東京、千葉、埼玉、神奈川)で極めて顕著にみられる現象であることがわかりました。大都市を抱え、感染者数も比較的多い京阪神(京都、大阪、兵庫)と比較しても一目瞭然です。

全国値では4割程度だった回答が、首都圏では1回目で既に7割を超え、2回目では8割に達しています。一方、京阪神は、1回目は2割強程度、2回目は上昇したとはいえ3割に満たない回答です。しかし、感染状況だけをみれば、首都圏も京阪神も予断を許さない状況が続いていることに変わりありません。

ではなぜ、首都圏は一日葬が多くみられるのでしょうか。一つの可能性として、首都圏では、コロナ禍前より「一日葬」が選択肢の中にあったと考えることができます。つまり、これまで積極的に選択されてはいなったが、選択肢にあったため、コロナ禍にあって「密を避ける」という理由で選択されるケースが増えたということです。

大切な人の死をどう受け止めるのか

葬儀、年回法要の小規模化、そして、首都圏に顕著な葬儀の簡素化は、グリーフケア(喪失の悲嘆からの回復)の面で負の影響をもたらす可能性があります。

葬送儀礼は、故人の遺族だけで行うものではなく、故人と生前付き合いのあった方、故人とは直接関係はなくとも遺族と付き合いがある方が弔問に訪れる場でもあります。故人を取り巻く多様な人が弔問に訪れ、故人の思い出を語ったり、感謝の意を遺族に伝えたり、励ましの言葉をかけたり、共同体として悲しみを分かち合うことで、遺族の悲嘆が緩和される機能もあったはずです(一方で、大勢の人の接待に気を遣うという話もありますが)。

しかし、コロナ禍によってもたらされた葬儀の小規模化、簡素化は、参列者の数を大きく減らしました。必然、そこに集う人は、故人と極めて近い関係にある家族に限定されることになります。グリーフケアの面からみれば、葬送儀礼を限られた近親者のみで行うことは、弔問による外部からの「支援」が得難くなることを意味します。

それだけではありません。生前、故人に世話になった方や仲の良い友達は、葬儀に参列できず、お別れを言う機会すら与えられないことになります。そういう場合は、どうやって親しい人の死を受け止めたらよいのでしょうか。

今後、葬送儀礼の小規模化、簡素化が進めば進むほど、グリーフケアに関して、このような問題が生じることが予想されます。長引くコロナ禍の中で、葬送儀礼がどのように変化していくのか、今後も注視していきたいと思います。

 

2021.10.01