変わりゆくお墓のスタイル

著者
大正大学地域構想研究所 客員講師
小川 有閑

祭祀財産としてのお墓

まもなく日本のほとんどの地域でお盆を迎えます。(お盆の時期が地域によって違う経緯についてはこちらを参照)お墓参りに行かれる方も多いことでしょう。
お墓というと「〇〇家先祖代々」「〇〇家之墓」などと彫られた墓石がメディアにはよく映し出されます。近代以降、跡継ぎによる連続性を前提とした「〇〇家」、つまりイエ制度と結びついたお墓が当たり前とされてきました。それは法律にも明示されていて、民法においてお墓は分割して相続できない「祭祀財産」とされます。

民法第897条

1.系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。

2.前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。

「祖先の祭祀を主宰するべき者」、それはその家の長男がつとめるものという観念が根強くありました。家父長制を背景として、長男が祭祀主宰の権利と祭祀財産を継承することが当たり前とされていたのです。戦後、日本国憲法発布によって家父長制は法的根拠を失いますが、それでも、お墓に関しては、長男による継承が当然のこととして維持されてきたように思われます。

少子高齢化により祭祀継承が困難に

しかし、20世紀の終わり頃から、祭祀主宰権や祭祀財産の継承が難しくなっていくであろうことが意識されるようになります。少子高齢化がその大きな要因といえるでしょう。祭祀主宰者が高齢化してきたが継承する跡継ぎがいない、子どもは女性のみで他家に嫁いでしまった、子どもが未婚で将来的に跡継ぎが不在となることが予測できる。これらの事情から、「もう、家族の連続性を維持する必要を多くの人々が感じなくなった※」のです。
実際、筆者が住職をつとめる寺の信徒でも、すでに結婚をして実家を出られた女性が、やむをえず実家の墓(都営霊園)を継承したが、我が子にはその負担を負わせたくないので、元気なうちに墓じまいをしたという事例が2年間で2件、その他にも、未婚の女性やお子さんのいないご夫婦がやはり元気なうちにと墓じまいをして、合葬墓や永代供養墓の契約をした事例もあります。2,30年前にはまだ切迫した問題として感じられなかったことが、いよいよ現実のものとなってきたという感があります。
現在、先に挙げた合葬墓や永代供養墓のほかにも、樹木葬や海洋散骨など継承者を必要としない、言ってみれば〇〇家に縛られない埋葬方法が出現しています。墓じまいの増加、遺骨処理の多様化はイエ意識の変容を受けてのものと考えてよいでしょう。継承者不要のお墓を求めるニーズは高まる一方です。

死後の無縁化

少子高齢化により祭祀継承者がいない家が増えてきたと述べてきましたが、これは、現祭祀主宰者にとっては、自分の死後に自分が誰からも弔ってもらえないということでもあります。
総務省の調査によれば、全国で引き取り手のいない遺骨が増加傾向にあります。それらは決して身元不明なわけではありません。身元が分かっていながらも、誰も遺骨を引き取らない、葬儀を執り行う人がいないのです。これも少子高齢化の影響といえるでしょうし、親族間のつながりの希薄化でもあるでしょう。地域社会での人と人のつながりの希薄化も少なからず影響をしているかもしれません。
継承不要のお墓を求める人の中には、自分が亡き後に誰かの手で埋葬され、何らかの弔いの儀式が行われることが契約により約束される点にメリットを感じる人もいるでしょう。死後に無縁化してしまうことへの不安が見え隠れするようです。
こうしたお墓を取り巻く社会の変容が加速する中で、寺院がなすべきことがあるのではないかという視点から「少子高齢社会の遺骨の行方―死後の無縁化に関する一考察―」を池邊文香氏と執筆いたしました。本レポートを読まれて興味を持たれた方は、是非ご笑読ください。

※森謙二「『イエ亡き』時代の墓地埋葬の再構築のために」170頁(『現代日本の葬送と墓制 イエ亡き時代の死者のゆくえ』169-191頁,吉川弘文館,2018年)

2024.08.01