本稿の内容
本稿では、大正大学地域創生学部 仲北浦ゼミナールで実施した埼玉県「中山間『ふるさと支援隊』」事業の成果報告とともに、PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)におけるオンラインツール活用の利点について記します。なお、実施したPBLの具体的な内容については、とくに「学生が主体的にできる“場”の探究」と「オンラインツールの活用と指導者の役割」に分けて2つの記事で紹介したのでそちらをご参照ください。
埼玉県「中山間『ふるさと支援隊』」事業の成果報告
埼玉県「中山間『ふるさと支援隊』」事業において仲北浦ゼミナールの学生たちは、埼玉県秩父市の“観光面”と“生活面”の両方の魅力を発信できる情報誌「ちちぶまっぷ」を作成することを目指して1年間取り組みました。“観光面”についてはメンバー全体で行動をともにして秩父市全域の自然豊かな観光スポットを調査し、“生活面”については各メンバーの関心テーマに合わせて秩父市の市役所や事業者様へ取材や視察を行いました。
【写真:秩父市の観光面に関する調査の様子】
【写真:秩父市の生活面に関する取材や視察の様子】
そして、それらの調査をまとめ、2023年3月上旬「ちちぶまっぷ」完成に至ります。全体の構成を決め、各ページの内容とデザインを吟味し、AdobeのIllustratorを使って冊子を完成させましたが、これらは全て学生たちが計画的に役割分担をして完了させたものです。
【写真:「ちちぶまっぷ」のページの一部】
PBLにおけるオンラインツール活用の利点
PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)は、学修者たちが自ら目標を定め、計画を立ててその目標達成(課題解決)に向けて取り組む学修方法です。その際、指導者から学修者への一方向的な指導も必要になりますが、何より学修者本人が自ら考え、行動する時間が最も長くなります。それらの行動ごとに常に指導者がつきそって指導するのが理想ではありますが、時間の面でも労力の面でもその方法には限界があります。
そこで、本活動では、その限界を少しでも乗り越えるためにオンラインツール活用を試みました。学生からの質問や相談、情報共有などは基本的に対面でのやりとりを避け、オンラインツール(ここではMicrosoft Teams)で行うという方法です。これによって、学生も指導者も互いに時間に余裕があるときに質問、回答することで、時間や場所に縛られないコミュニケーションが成立しました。この方法は、さらに以下のような利点をもたらすことが本活動で分かりました。
第一に、学生も指導者もオンラインツール上でのコミュニケーションが習慣化し、オンラインツールを主軸にして活動するようになるということです。そもそも学修者の大半がデジタルネイティブなので、オンラインツールに慣れているのですが、質問や議論という場面においても積極的にオンラインツールを活用する習慣が生まれました。繰り返しになりますが、この習慣によって、時間や場所に縛られず、学生も指導者も互いにコミュニケーションをとることができ、対面のみの場合と比べてより活発な活動ができるようになります。
この利点が活きたのか、本活動の経過を振り返ってみると、次のような過程で学生の主体的な学修が実現していたと思います。すなわち、初期段階では教員から学生たちへの“一方向的”な指導および情報提供だったものが、オンラインツールを主軸に活動することで、教員と学生の“双方向的”なコミュニケーション(質疑応答や相談)が主になっていき、最終的には“学生同士”の“双方向的”なコミュニケーション(議論)が主になりました。つまり、指導者である教員は学生たちの活動の経過を眺め、調整する役に徹し、あくまで学修者である学生が主体的に取り組むという学修体制が自然と築かれていきました。
そして、オンラインツールを活用する第二の利点は、以上のようなやりとりや学修経過を、オンラインツール上に自動的に蓄積していけることです。活動に一生懸命に取り組んでもその過程は当然忘れていきます。しかし、オンラインツール上でのやりとりは全て残っているので、それを見返せば、学修過程をすぐに振り返ることができ、リフレクションも大幅に行いやすくなります。
もちろん、オンライン上での指導だけで上手くいくと言いたいわけではありません。例えば、文面や音声だけでのコミュニケーションでは、学修者の心身の状態や感情を適切に汲みとることは難しく、モチベーション管理については、やはり対面でのコミュニケーションが必須になると思います。しかしながら、以上に挙げた通り、オンラインツール活用の利点は大きいため、PBLの指導においても、オンラインツール上でできることは極力オンラインで行い、対面でしかできないことだけを対面で行うという方針、つまり、オンラインを“主”、対面を“従”として両立するという方針が有効なのではなかろうかと考えております。