コロナ禍におけるPBLの展開②

著者
大正大学地域創生学部 専任講師
仲北浦 淳基

本稿では、2022年12月1日公開の記事( https://chikouken.org/report/report_cat02/14057/ )に引き続き、大正大学地域創生学部 仲北浦ゼミナールで実施しているPBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)の試みについて紹介します。この試みはコロナ禍によってフィールドでの活動に強い制約が残されていた2022年2月から始まっており、現在も進行中の活動であることをあらかじめお断りしておきます。そのため、本稿も途中経過としての報告にとどまらざるをえず、この試みの教育的成果や総括については次回以降の記事に譲りたいと思います。
前回の記事では埼玉県の「中山間『ふるさと支援隊』」事業に採択されるまでのプロセスについて、とくに「学生が主体的に活動できる“場”づくり」という観点を強調しました。本稿ではその点に加えて「オンラインツールを活用したPBL指導」について、実際の例を示しながら紹介します。
ある成果目標を設定してその達成を目指すPBLにおいては、目標や方法、スケジュールなどの調整がつねに必要となります。学生たちと時間を作って対面で指導する方法は、指導しやすく効果的でもありますが、やはり時間には制約があり、教員・学生の負担も重くなってしまいます。その克服を目指しつつ、より充実した指導を実現するために本企画ではオンラインツール(Microsoft Teams)を活用した指導を意識的に徹底してきました。以下でその事例と成果の一部を紹介します。
この試みが始まった当初は、筆者が見つけた情報を学生たちに共有し、その資料に目を通しておくように指導しました。こうすることで、学生は時間に縛られず、各人の自由な時間に取り組むことができ、かつ、学生間でのチームとしての知識共有も促すことができます(写真1)。


【写真1:Microsoft Teamsの画面:オンライン上での情報共有(初期)】

ただし、確かにこのころは、筆者が学生に対して一方向的に指示を出しているという側面がありました。しかし、活動が進むにつれ、しだいに学生主導となり、今では、筆者も含めた双方向的なコミュニケーションをオンラインツール上で実現できるようになっています(写真2)。写真2では、秩父市中山間地域の観光面の魅力を探る調査の準備として学生たちがオンライン上でやり取りをしています。訪問すべき調査地や宿泊所などについて、写真やURLを提供しあいながら話を進めています。また、投稿された日時に目を向けると、各人が自由な時間に投稿していることもうかがえます。


【写真2:Microsoft Teamsの画面:オンライン上での双方向的な情報共有】

さらに特筆すべきは、任意の地図を作成できるツール(Google My Maps)を活用した情報共有です(写真2の赤枠部分)。各自があげた調査地などの候補を地図上に落とし込むことで、全員でそれらの立地を把握し、調査地の選定に役立てることができます(写真3)。


【写真3:Google My Mapsの画面:オンライン地図上での情報共有】

また、ゼミナールの時間などに対面で議論や相談をしたときも、その成果を写真やWordなどの資料として保存、共有し、いつでもオンライン上で全員が見られるように工夫をしており、今では学生間のルーティンとなっているようです(写真4)。


【写真4:Microsoft Teamsの画面:対面での活動成果をオンライン上で蓄積】

以上のように、オンライン上の”場”を設定することで、各メンバーが同時刻に同じ場所にいなくとも活発な活動ができるようになりました。さらには、対面でおこなった活動の成果をも資料としてオンライン上に蓄積していくことがルーティン化するようになりました。
本企画の開始当初は、指導者(筆者)が一方向的な情報提供や指示をする形をとっていましたが、今では、求められた提出物の締め切りや期日を提示する“ペースメーカー”としての役割と提出物の“校正役”としての役割に徹し、その準備や活動は学生たちが主体となって計画的に取り組むというPBLの望ましい形を実現できているのではないかと考えております(写真5:赤枠が筆者の投稿)。


【写真5:Microsoft Teamsの画面:ペースメーカー・校正役としての教員】

以上、本稿では、オンラインツールの活用を強調してPBLの試みを紹介しました。その成果については部分的に紹介できましたが、情報としてより重要なのは課題点とその克服だろうと思います。しかし、この試みはいまだ試行錯誤の段階におりますので、それらについては次回以降の記事で最終的な総括ができればと思っております。

2023.01.16