仏様が出向いて新たな縁づくり

著者
大正大学 地域構想研究所/社会共生学部 専任講師
髙瀨 顕功

今こそ仏教を

BSR推進センターでは、コロナ禍の中、これまで3回にわたるオンラインアンケート「「寺院における新型コロナウイルスによる影響とその対応に関する調査」」を行ってきました(第1回報告第2回報告第3回報告)。

コロナ禍で大きく影響を受けている一方、アンケート調査の自由記述欄には「こういう時こそ仏教の教えが求められる」、「寺院の果たす役割が明確になる」といった前向きな意見も少なくありませんでした。

そこで、前回に引き続き、移動や対面での交流に制限がある中で、新たな挑戦を行う寺院の活動をご紹介いたします(本記事は『月刊住職』Vol.570に掲載された記事を加筆修正したものです)。

お不動さんの巡行

関東三十六不動霊場第六番札所である神奈川県川崎市の天台宗・等覚院(中島有淳住職)は、地域ででは護摩供養や祈祷に訪れる信者によって支えられてきた祈願寺院です。また、境内には多種のつつじが植えられており、つつじ寺としても親しまれています。

しかし、2020年4月に緊急事態宣言が出ると、祈願に訪れる人の数は激減。ちょうどつつじの見頃と重なりましたが、一般公開の断念などもあり、寺院に訪れる人は例年の1割程度になってしまったといいます。

等覚院では、毎年4月、5月に、厨子に入った不動明王像を、地域住民で持ちまわる風習があります。お不動さんの出開帳ともいうべきこの風習の歴史は古く、お宿(会場)と世話人(受け入れ人)を記した等覚院所蔵の『不動明王御巡行記』には、江戸時代の巡行の記録も残っています。

世話人としてお不動さんを受けた住民は、自宅に安置し、その間地域の人々が、宿となった方の家へお参りに来る。こうすることで、多くの方が仏縁を結ぶことができるというわけです。

しかし、コロナ禍にあって、お宿となる世話人方の迷惑になってはいけないと、一軒一軒電話で確認をすると、「地域の人を集められないが、自宅でぜひお参りしたい」という声が多く寄せられました。外出自粛が叫ばれる中、行ってお参りするのは難しいが、来てお参りできるのならありがたいと思ったのかもしれません。

 

地域巡行をする不動明王像

お不動さんの出開帳in駿河国

コロナ禍が長期化する中、等覚院ではYouTubeで法話を配信したり、送付する護摩札にQRコードを同封し、法要の様子を視聴できるようにしたりと、縁づくりのためのさまざまな工夫をしていました。その一方で、お不動さん巡行の伝統を活用し、バーチャルではなくリアルに仏像を拝し、ご縁をつなぐという新たな取り組みに挑戦しました。

それは、遠方まで出開帳を行うというものです。出開帳とは、仏教寺院で厨子等に収められている仏像を他の土地に出張し、参詣した人々が神仏と結縁出来るようにすることで、江戸時代には、成田・新勝寺の不動明王、嵯峨・清凉寺の釈迦如来、信州・善光寺の阿弥陀如来などが江戸で人気を博したといわれています。

2022年3月、等覚院のお不動様は、静岡市や富士市でタイプの違う出開帳を行いました。静岡市では、イベント会場で「暗闇で不動明王と出会う」というワークショップ、富士市では寺院を会場に、仏教色豊かなトークショーを交えながらお不動さんを堪能するというものでした。

参加者の層もずいぶん異なりましたが、それぞれの場でお不動さんと、またお不動さんを通じてご縁を結んでいたように思います。「出開帳」は、たんに仏さまとの縁を結ぶだけでなく、きっとその場に居合わせたもの同士をつなげる機能をも有しているのだと思います。

企画した等覚院副住職の中島光信さんは「イエの時代から個の時代になる中で、これから定着するかどうかはさて置き、新たなご縁を持ってもらうことが不動尊巡行の維持発展には必要なこと。その方にとって一生に一回のことであっても、何かインパクトが生まれるかもしれない」とおっしゃっています。その目論見通り、コロナ禍によって、「動く」お不動さんの持つ力があらためて認識され、その縁づくりで活動を展開させた一例といえるでしょう。

なお、新たな「お宿」も随時募集しているとのことです(寺院でなくても可)。お不動様を招いて何かやってみたいという方はぜひ等覚院(info@tougakuin.jp)までお問い合わせください。あなたのアイディアが次のご縁を紡ぐかもしれません。

静岡市でのワークショップ

 

2022.03.15