著者
大正大学 地域構想研究所/社会共生学部 専任講師
髙瀨 顕功
コロナ禍がもたらした影響
BSR推進センターでは、コロナ禍の中、これまで3回にわたるオンラインアンケート「「寺院における新型コロナウイルスによる影響とその対応に関する調査」」を行ってきました(第1回報告、第2回報告、第3回報告)。そこでは、葬儀のかたちの変化が首都圏を中心にみられるほか、寺院の活動自体も大きく影響を受けていることがあきらかになりました。
一方、新たな挑戦を始めた寺院もあります。では、移動や対面での交流に制限がある中で、どのように仏教を伝えるのか、どうやって寺院とつながりを持ってもらうのか。2回に分けて、興味深い事例をご紹介いたします(本記事は『月刊住職』Vol.278に掲載された記事を一部修正したものです)。
オンライン座禅会
神奈川県横浜市の臨済宗建長寺派・東光禅寺(小澤大吾住職)は、緊急事態宣言の発出後、毎月第2第4火曜の夜9時からZoomを使ってオンライン坐禅会を始めました(現在は人数制限を設けた中で対面でも実施)。
東光禅寺では、それ以前より本堂で坐禅会を行っており、毎回50名ほどの参加者がいたそうです。しかし、2020年3月、感染拡大防止の観点から対面の開催が難しくなった時、これまで参加されていた方から「なんとか違う形でもできないか」という声を受け、オンライン坐禅会の開催に踏み切りました。
オンラインで坐禅指導する小澤住職(提供:東光禅寺)
オンラインへの懐疑
しかし、住職の小澤さんは、当初、坐禅会をオンラインで行うことに乗り気ではありませんでした。というのも、坐禅では、同じ空間で同じ時間をともにし、互いに切磋琢磨している姿や息遣いを共有することが大事だと考えていたからです。
オンラインでは、そういった姿を共有することが難しいのではという気持ちもあったようですが、いつ終わるともわからない自粛期間の中、何かできることないかという思いが、新たな挑戦の決め手になったようです。開催にあたっては、すでにオンライン坐禅会を行っていた先輩僧侶の「リアルに会えない中で、毎日どこかのお寺の坐禅会に参加できるような環境ができれば、多くの人の助けになるのではないか」という声も後押しとなったといいます。
増える参加者
開催してみれば、初回から50人を超える参加者が集まりました。オンラインという特性もあり、北海道や九州、さらには海外に在住の方など、遠方の方も参加するようになりました。回を重ねるごとに参加者が増え、現在では毎回120、30人ほどが参加しています。こう考えると、多くの人にとって求められていた活動だったのかもしれません。
時間的、心理的な参加しやすさはオンラインならではの利点だといいます。「一般の方にとっては、どこのお寺がいいのか、どの住職がいいのか調べるのも大変ですし、ましてや足を運んで参加しようとなると勇気がいる。そういう意味では自宅にいながら、大勢の中の一人として参加できるのはハードルが下がったのでは」と小澤さんは言います。
バーチャルからリアルへ
オンライン坐禅会に参加した人が住職を訪ねてきたり、法事の際に「実はオンライン坐禅会に参加しています」「海外に住んでいる兄弟が参加させていただいています」と声をかける檀家さんもいたりと、新たなご縁だけでなく、これまでのご縁の紡ぎ直しもあるようです。
また、国内の複数の大学でも留学生向けの坐禅体験プログラムをすでに何度か行っています。さらには、海外の大学や企業から坐禅を研修プログラムとして行ってほしいという依頼も入るようになったとのこと。積極的に活動を発信してきたからこそご縁の広がりであるように思います。
若手僧侶の勉強会などでは、「オンライン対応をするとお寺に足を運んでもらえなくなるのでは」と心配する声もしばしば聞かれます。しかし、実際の事例をみるとどうでしょうか。教えや実践を伝えるのが寺院の役目だとしたら、オンラインを「手段」として活用する東光禅寺の挑戦は多くの示唆を与えるものではないでしょうか。