持続可能なまちづくりを体験的に学ぶ(後編)

著者
大正大学 地域構想研究所/社会共生学部 教授
塚崎 裕子

大正大学社会共生学部公共政策学科の2年生は、第3クォーターに10人~20人のグループに分かれ、地方の自治体に赴き、フィールドワークを体験します。学生達は各自のフィールドワーク先となった自治体について事前に調査を行い、実際にその自治体に行き、様々な方々からお話を伺ったり、様々な場所を見学したりすることを通じて学びを深めます。フィールドワークによって、各自の問題意識に基づき、社会の課題を見出す視点や粘り強く解決策を考え続ける思考力を身につけることを目指しています。本稿では、公共政策学科の本田裕子先生と共に担当した長井市と飯豊町でのフィールドワークについてご紹介したいと思います。前編では長井市でのフィールドワークについて取り上げましたが、後編では、飯豊町でのフィールドワークの様子についてお伝え致します。

飯豊町役場で

長井市を後にし、向かった飯豊町役場では、後藤幸平町長から歓迎のご挨拶をいただきました。その後、飯豊町企画課の高橋弘之課長に「人口減少時代における持続可能なまちづくりについて」と題して、ご講義いただきました。飯豊町の美しい景観の写真とともに飯豊町の概要について説明があった後、既に気候変動による大災害の多発などの事態が生じており、自分事として皆が今SDGsの達成に向けて取り組まないと取り返しの付かないことになってしまうという現実があること、他の自治体と同様飯豊町も人口減少に直面しており、人口減少が地域社会にもたらす様々な悪影響が負のスパイラルを生じさせ、地域社会を急速に縮小させるおそれがあること、飯豊町は、バイオマス産業都市、SDGs未来都市、気候非常事態宣言、ゼロ・カーボンシティ宣言を旗印に掲げ、住民参加の下、先人たちから受け継いできた文化や伝統を大事にしながら持続可能な地域循環型社会を目指して、新たな農山村のロールモデルを創り上げようと様々な取り組みを行っていること等についてお話がありました。学生達は、高橋課長のご講義に多くの刺激を受けたようで、飯豊町の取り組みや「日本で最も美しい村」連合への加盟に関して積極的に質問を行っていました。

 

田園散居集落景観展望台から

持続可能なまちづくりに向けて

飯豊町役場から出発し、飯豊電池バレー構想の拠点に伺いました。飯豊電池バレーでは、xEV飯豊研究センターを核として、リチウムイオン電池を軸とした、蓄電デバイス関連産業の集積や専門職大学の開学を予定しているということです。雇用創出、人材育成、町内外企業との企業間連携、勤務者の町内居住等の効果を見込んでいるということでした。私たちが宿泊した、ホテル・スロー・ビレッジ(2017年オープン)もこの構想の一環として散居集落の中に建設されたということです。

その後、田園散居集落景観展望台に登りました。展望台からは、家々が散居している広々とした田園風景を一望の下に見渡すことができました。家屋の北西側には風から家を守る杉の屋敷林が植えられていること、屋敷林は、枝を切り落とし燃料として使用したり、秋に収穫されるカヤの束をかけ、そのカヤの束で冬を暖かく過ごし、春が来たら屋根に用いたり、肥料に使ったりするということを高橋課長がお話しして下さいました。ここにも循環型の生活の知恵が豊かに息づいていると感じました。

次に、飯豊町が整備・推進している、エコタウン椿の住宅団地を見学させていただきました。飯豊型エコハウスは、山形県産木材を75%以上使用し、素材や気候を熟知した地元工務店が施工にあたる地産地消の家であり、一定の水準以上の気密性・断熱性能を備えていて、冷暖房のエネルギー消費量も節約でき、ヒートショックなどの危険も防ぐということです。木の良い香りがして、ぬくもりが感じられ、かつ、機能性と快適性を兼ね備えたエコハウスはとても魅力的でした。

翌20日はあいにくの天気で時折強い雨に見舞われましたが、予定通り様々な場所を見学させていただきした。まず、ながめやまバイオガス発電所を訪れ、東北おひさま発電(株)の後藤博信社長からお話を伺いました。米沢牛の4割を生産するという飯豊町の特性を活かし、ながめやま地内の畜産施設から出る家畜排せつ物を加温し発酵させることでバイオガスを発生させ、生じたメタンガスをガスエンジン発電機に送り、電気を発生させ、また、発酵残渣物は液肥として農作物の栽培に再利用しているという循環のしくみについてお話を伺いました。生活環境にマイナスの要素となる牛糞を、逆にプラスに変換し、環境保全や地域資源の活用に役立てているということに学生達は感銘を受けていました。

次いで、飯豊町の面積の84%を占める森林を訪れ、飯豊町中津川の森人会代表の加藤雅史さんにお話を伺いました。加藤さんは、勤めていた報道機関を去り、飯豊町に移住し、森人会を発足させたということです。30代の加藤さんが森人会を立ち上げたのは、山林を整備する担い手が高齢化している中、技術の継承と実践の場を作り、森と暮らす体験をしてもらう場を提供したいという思いからでした。「地元の人が地元の森林を整備することで責任と雇用が生まれる」、「小規模林業の利点を活かし、山を多角的に活用し、人が集い、楽しめるような取り組み等を進めたい」という加藤さんの言葉に学生達は聞き入っていました。

白川荘において昼食をとった後、雪室施設を訪ねました。雪室は、豪雪地帯である飯豊町ならではの雪という自然エネルギーを活用した低温貯蔵施設です。実際に施設の中に入らせていただき、ラ・フランス等の果物、米、野菜、酒等を保存している様子を見学させていただきました。

雪室施設見学の後、中津川バイオマス(株)に伺い、木材がおが粉になり、小さな円筒状のペレットになるまでの過程を見学させていただきました。飯豊町の豊かな森林資源を活用し、バイオマス資源にして供給することで、町内の森林整備に寄与しつつ、 エネルギーの自給率を向上させることを目指しているということです。再生可能なバイオマス資源が持続性のある地域循環の中で活きていることがわかりました。

続いて、宇津峠の登り口まで行きました。明治時代に日本を旅した英国人女性イザベラ・バードは、宇津峠から見た田園風景を東洋のアルカディア(桃源郷)と賞賛しました。雨が強まり、残念ながら峠には登ることができませんでしたが、イザベラ・バードの記念碑を目に収めて宇津峠を後にしました。つかの間の晴れ間に鮮やかな虹がバスの車窓から見えました。

フィールドワークの最後に見学させていただいたのが、シェアハウスRE:BAUMです。飯豊町の工務店である(株)ホリエが空き家を2020年にリノベーションしたものです。RE:BAUMという名称の由来は、REは賑わいや建物の機能再生を意味し、BAUMはドイツ語の「木」、新しい交流の「場を生む」にもかけた言葉ということです。見学させていただいた、1階の共有スペースは、スタイリッシュで居心地の良い空間となっていました。

その日の最後に、飯豊町役場において、ながめやまバイオガス発電所をご案内いただいた、東北おひさま発電(株)の後藤社長から、東京で携わられた仕事や飯豊町に戻ってこられた背景等についてお話を伺いました。野村證券副社長、野村総合研究所副会長などを歴任された後、自分たちの資源を自分たちで活用する自立的で持続可能な社会を創り出せるのは地域しかないと考え、故郷に戻られたという後藤社長に対して、学生達は様々な観点からの質問を行っていました。

 

イザベラ・バード日本奥地紀行記念碑

振り返りの会

東京に戻る日の21日の午前中に振り返りの会を開きました。振り返りの会には、菅野先生と高橋課長にもご参加いただきました。フィールドワークにおいて、学生達は、長井市と飯豊町の様々な取り組みを自分の目で見て、様々な方々から直接お話を伺い、多くを学び、考えさせられたようです。振り返りの会やフィールドワークノートのまとめでは、「実際に見てみないとわからないことがたくさんあった」、「地域社会の課題解決には先人の思いや歴史・伝統を知ることが大事だということがわかった」、「自分の地元の歴史や文化について今後深く調べていきたい」、「持続可能な地域づくりにおいて、人と人とのつながりを活かし、連携・共働していくことが重要だということがわかった」、「事前に長井市や飯豊町について調べたことにより、フィールドワーク中の理解の度合いが深まり、突っ込んだ質問ができた」、「フィールドワークで得た経験を今後に活かしたい」といった発言や記述がみられました。今後、学生達は、フィールドワークで学んだことを踏まえ、第4クォーターの課題研究ゼミナールにおいて、持続可能な社会づくりに資する環境政策等についての学習を深めていく方針となりました。

フィールドワークが充実した実り多い学びの機会となったのは、ご協力いただいた方々のお陰です。とりわけ菅野先生と高橋課長には、フィールドワークの準備の段階から見学の予定の調整やスケジュール等に関するアドバイスをしていただいたり、フィールドワーク中も、お忙しい中、学生達と各所を一緒に回っていただいたり、差し入れをしていただいたり、大変温かいお心遣いを賜りました。心より感謝申し上げます。

最終日、菅野先生、高橋課長とホテル・スロー・ビレッジの近くで

⇒前編記事はコチラから

 

2021.12.01