持続可能なまちづくりを体験的に学ぶ(前編)

著者
大正大学 地域構想研究所/社会共生学部 教授
塚崎 裕子

大正大学社会共生学部公共政策学科の2年生は、第3クォーターに10人~20人のグループに分かれ、地方の自治体に赴き、フィールドワークを体験します。学生達は各自のフィールドワーク先となった自治体について事前に調査を行い、実際にその自治体に行き、様々な方々からお話を伺ったり、様々な場所を見学したりすることを通じて学びを深めます。フィールドワークによって、各自の問題意識に基づき、社会の課題を見出す視点や粘り強く解決策を考え続ける思考力を身につけることを目指しています。本稿では、公共政策学科の本田裕子先生と共に担当した長井市と飯豊町でのフィールドワークについてご紹介したいと思います。前編では、長井市でのフィールドワークの様子についてお伝え致します。

事前の学習

長井市・飯豊町チームの10人の学生は、長井市、飯豊町に実際に赴く前に、次のような事前学習を行いました。まず、今回のフィールドワークで準備段階からお世話になった菅野芳秀先生のご著作である『玉子と土といのちと』及び『生ゴミはよみがえる』、大正大学地域構想研究所が編集している『地域人』の菅野先生の連載記事や長井市長のインタビュー記事等を読みました。菅野先生は、農を基礎とする循環型社会づくりに取り組まれ、置賜自給圏推進機構共同代表でもあり、大正大学の客員教授も勤めておられます。飯豊町については、飯豊町で見学等をする予定の施設や場所について、ネット等で調べ、調べたことをまとめました。また、明治時代に日本を旅した英国人女性イザベラ・バードが著した『日本奥地紀行』のうち、飯豊町に関する部分について予め読みました。そして、読んだものや調べたものを踏まえて、長井市や飯豊町の方々にお聞きしたい事項、長井市や飯豊町で特に問題意識を持って各自が調査したい事項等をまとめました。

地域に向き合う上で踏まえるべき観点

11月17日、長井市・飯豊町チームのメンバーは、東京駅に集合し、長井市に向けて出発しました。山形新幹線の赤湯駅を降りた後、映画スウィング・ガールズの舞台となった山形鉄道のフラワー長井線に乗り継ぎました。フラワー長井線の名称は沿線に花の名所が多いことから来ています。車両も沿線の花をモチーフにしたラッピング車両になっています。ちなみに、私たちは、行きは川西町のダリア、帰りは南陽市の桜の車両に乗車しました。

長井駅では、菅野先生に出迎えていただきました。当初の予定では、田んぼの中で座談会を開くことになっていましたが、天候が悪く、急遽大正大学セミナーハウスにおいて菅野先生のお話を伺うことになりました。菅野先生からは、これからの5日間のフィールドワーク中、地域と向き合う上で踏まえるべき観点を教えていただきました。「地域に分け入り踏み込んでいくこと」、「地域のありのままを受け入れ、肯定し、感謝すること」、「地域の歴史や文化を踏まえ、地域を縦軸で見ること」、「全ての地域は先人の体温を伴った願いの総和であることを理解すること」という4つの観点です。学生達からの自己紹介と菅野先生のお話の後、まさに長井市の縦軸の1つといえる、卯の花姫伝説などの紙芝居を菅野先生に上演していただきました。

フラワー長井線

レインボープラン(台所と農業をつなぐながい計画)

翌朝、菅野先生が中心となって取り組まれてきた、レインボープランに関わる施設であるコンポストセンターを訪れました。コンポストセンターでは、長井市の市民の台所から出る生ごみから、堆肥を作っています。コンポストセンターで作られた、堆肥は、市内の農家や市民に販売され、その堆肥を活用して豊かな土で育てられた野菜や米は、学校給食に活用され、レインボープラン認証農産物として販売され、地域の自給率向上にも役立っています。

コンポストセンター見学の後、菅野先生からレインボープラン創設の経緯、現状・課題等についてお話を伺いました。「レインボープランは、単なるゴミの減量化ではなく、その真髄は、台所からの健康な作物作りの現場への参加であり、台所と農業をつなぐ循環の構築である」との菅野先生の言葉が印象的でした。レインボープランは、教科書や白書等にも取り上げられ、地域循環型社会のモデル事業の先駆けとして全国から多くの視察者が訪れるなど注目されてきたこと、稼働してから24年経ち、センターの老朽化や小規模農家の離農による堆肥へのニーズの低下等、様々な課題が生じており、今後の在り方について現在検討が行われていること等についてお話がありました。学生達からは、「どのようにして官民を越えた協力体制を構築できたのか」、「リーダーとして地域づくりを担うために大事なことは何か」といった質問がありました。

その後、悪天候のため昨日伺えなかった、菅野先生のご自宅に伺いました。菅野先生のご自宅に着くと、美しく艶やかな羽を伸ばしてのびのびと元気よく歩き回っている鶏たちが迎えてくれました。その日の朝、菅野先生が差し入れて下さった卵を宿泊したとらや旅館の朝食でいただいたのですが、その卵の味わいがすっきりとしてとても美味しかったのも健康で元気な鶏から生まれたものだからと納得がいきました。

菅野先生のご自宅を辞して長井市役所に向かい、長井市地域づくり推進課の遠藤慎さんより、長井市の概要や、フラワー長井線や長井市営バス等の公共交通に係る政策についてお話を伺いました。

水路を巡る街歩き

フィールドワーク3日目の午前中は、最上川に沿うように市街地が広がり、豊かな水に恵まれた、長井市の水路や小川を中心に、黒獅子ガイドさんに解説をしていただきながら街歩きをしました。アヤメ公園から出発し、北参道、遍照寺、丸大扇屋の入れかわど、白山神社、甦る水百選にも選ばれた撞木川(しゅもくがわ)のせせらぎ水路、木蓮川、木揚場、薬師寺、あら町分水、花作り川、旧淀川、立体水路、平野川等を、水路を青々と彩る梅花藻の美しさにみとれながら学生達とめぐり歩きました。とりわけ学生達は、水路の水を家の中の台所に引き入れて作った「入れかわど」と呼ばれる水場のしくみに感心していました。「入れかわど」では、野菜や食器を洗い、その水を屋敷内の池に流し、鯉が食器洗いで出た残飯を食べて水をきれいにした後、再び外の水路へ流して循環させたということです。環境に優しく自然の循環を活用した生活の知恵は、現在のレインボープランにも相通じるものがあると感じました。(後編に続く)

長井市をめぐる水路に茂る青々とした梅花藻

⇒後編記事はコチラから

 

2021.11.15