著者
大正大学地域構想研究所 研究員/防災科学技術研究所 客員研究員
佐藤 和彦
東日本大震災から10年を経過した今年、大正大学地域構想研究所では「防災・減災プロジェクト」を本格的に始動させました。
本稿では、防災・減災プロジェクトの一環として、5月に実施した被災者生活再建支援業務に関するアンケートと10月に開催した第1回防災セミナーについて報告します。
1 被災者生活再建支援業務とは
市区町村の防災担当者の皆さんにとって「被災者生活再建支援業務」という用語は、まだ耳慣れない言葉であるかもしれません。
本稿では、被災者生活再建支援業務を「避難生活の解消から生活復興を実現するまでの道のりを直接的・間接的に支える業務」[1]と定義します。
[1] 「災害発生時における被災者生活再建支援業務の実施体制整備に関するガイドライン」(平成29年5月、東京都被災者生活再建支援システム利用協議会)
より具体的には、1)被災した住家の被害程度を調べる「住家被害認定調査」を行い、2)調査結果に基づいて「罹災証明書」を発行し、3)「被災者台帳」を整備してすべての被災者が生活再建を成し遂げるまで、“漏れなく、重複なく、継続的に”支援を行うプロセスの全体を指します。
被災者生活再建支援業務は、大規模災害時において「避難所運営」と並ぶ自治体の二大業務の一つとされていますが、自治体における取り組みは十分とは言えない状況が続いています。
2 基礎自治体における被災者生活再建支援業務の取り組み状況
(1) 全国的な取り組み状況
まず、全国的な取り組み状況を見てみましょう。
総務省による「地方自治情報管理概要(地方公共団体における行政情報化の推進状況調査結果)」に基づいて、被災者情報管理業務システム(以下「システム」と略)の整備状況について、最新の令和2年と平成27年のデータを比較して取り組みの進み具合を確認してみました。
平成27年調査では35.1%に過ぎなかったシステム整備済み自治体の割合は、令和2年調査では51.3%へと大きく増えています。
反対に、システム整備の予定なしと回答した自治体の割合は、47.7%から34.8%に下がりました。
5年の間にシステム整備が着実に進み、整備済みと予定なしの割合が逆転したことがわかります。
ただし、必ずしも手放しで喜べる状況ではなく、市(特別区・政令都市含む)と町村との間で、進捗の差が顕著になっていることに注意が必要です。
令和2年調査では、市(特別区・政令都市含む)の66%がシステム整備済みであるのに対して、町村は37%にとどまりました。
自然災害は自治体の種類や規模を問わず襲い掛かってきますので、こうした差が生じていることは問題で、早急に解決されるべき課題です。
(2) 連携自治体における取組状況
全国的な傾向は上記のとおりですが、連携自治体の取り組み状況はどうでしょうか。
大正大学が連携している全国95自治体(調査時点)に対して、令和3年5月から6月にかけてアンケート調査を行いました。
以下のグラフは、有効回答を得た市区町村60自治体での被災者台帳(システム)整備状況の集計結果です。総務省の調査と調査項目が完全に一致してはいませんが、傾向を比較してみました。
全体としての傾向は、総務省の調査と同様です。市(特別区・政令都市を含む)では被災者台帳(システム)整備済みが61%、町村では整備済みが24%となっています。連携自治体での取り組みはやや立ち遅れていると言えるかもしれません。
3 第1回防災セミナーの開催結果
上記の結果を踏まえ、自治体の被災者生活再建支援業務の充実を支援する一助として、防災セミナーを開催することとしました。
令和3年10月18日、初めて開催した防災セミナーは、Zoomによる完全オンライン方式で実施し、7つの連携自体(18アカウント)をはじめ、連携自治体以外の4自治体(4アカウント)、その他17アカウント、合計39アカウントの参加を得ました。1アカウントで複数人が視聴したケースを含めて、延べ参加者は70人から80人程度と推計しています。
連携自治体以外の自治体や防災に関心を抱く幅広い方々にもご参加いただけたことは、意義深い成果だったと捉えています。
当日は、まず基調講義1として、内閣府の辻野参事官補佐(被災者生活再建担当)から住家被害認定基準の運用指針改定、罹災証明書の様式統一、基盤的クラウドシステム整備などの最新動向を解説していただきました。次に、基調講義2として、長年にわたって被災地支援の最前線で研究活動に取り組んでこられた防災科学技術研究所の林理事長による被災者生活再建支援業務の全体像の講義を拝聴し、基調講義3として、地震研究の第一人者である本研究所の加藤特命教授による地震発生のメカニズムと長期評価に関する講義が行われました。
その後、事例紹介として、熊本地震の事例を紹介した後に、令和元年山形県沖地震で円滑に被災者生活再建支援業務を遂行した新潟県村上市の渡辺主査による被災災自治体からの事例報告、新潟県の小島主任から応援側からの事例報告が行われました。
おかげさまで、セミナーは全体として高い評価をいただきましたが、中でも村上市と新潟県の事例紹介に対する満足度は100%と非常に高い結果となりました。経験上、防災対策を考える際には、危機感の共有が重要であり、そのためには実例から学ぶことが何よりも重要であると考えていますが、アンケート結果からもそのことが伺えると考えています。
アンケート結果(マウスオンで拡大します)
大変ありがたいことに、アンケートではセミナーの継続を求める声も寄せられました。
今後、自治体の皆さんにヒアリングを行うなど丁寧なニーズ把握に務めながら、皆様のお役に立つセミナーを継続していきたいと思います。
皆さん、今後とも大正大学地域構想研究所の防災・減災プロジェクトにご期待ください。