大正大学地域創生学部 教授
浦崎 太郎
2022年度、高等学校には新学習指導要領が導入される。とかく「探究」等の表面に注目が集まりがちだが、そもそも文部科学省はどのような若者の育成をめざしているのか、深く理解することが重要だと思う。
新学習指導要領が描いているのは、①~③のような学習経験を通して、一人ひとりに、よりよい社会を実現しようとする力や態度を育成することだ。
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① 実社会や実生活と自己の関わりから問いを見いだし、課題を設定し、
② 教科の学びを通して見方考え方を深め、
③ 身につけた力を、互いのよさを生かしながら、価値の創造に活かす
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このうち ①と③は、地域に当事者性が期待される部分だ。それはなぜか。
「大人が子供・若者に無関心な地域」では、子供・若者に居場所は乏しく、生きづらさは緩和されにくく、心は閉ざされ、大人・地域に対して無関心となって「問いも浮かばない」傾向が表れるのは必定。となれば、②の主体性が損なわれるのも不可避。そしてその先、③ 子供・若者が「自分らしく社会で挑戦・成長・表現し、社会に受け入れられ、社会と関わりを持って生きる意味を実感できる」ことも難しくなる、という構図があるからだ。
このような形で、日頃から「誰もが十全に成長できる基盤とは?」を考えている自分に「これも根っこは同じだ」と映ったのが、先日のテレビ番組だった。
■ NHKスペシャル「若者たちに死を選ばせない」 (2021年6月13日)
「自分らしく社会で挑戦・成長・表現し、社会に受け入れられ、社会と関わりを持って生きる意味を実感できる」経験を積み重ねてきた子供・若者と、そうした経験に乏しい子供・若者。死を選ぶ恐れが大きいのは何方だろうか。
関連して、最近、次のような新聞報道もあった。
■ 居場所多いほど前向きさ増す傾向子や若者、内閣府調査 (朝日新聞2021年6月11日・朝刊)
ここ数ヶ月間、就職活動で精神的に病みそうな学生に胸を痛める場面が多かった。それは「社会に温かく迎えられるイメージが全く浮かんでいないんだろうな」と、内面が見えるからだ。これは要するに「関心を寄せてもらえた経験を十分に持っているか否か」の問題といえる。
また、少し別の角度から見れば、「地元から関心を寄せてもらえなかった若者」のうち、飛び出すパワーのある者は地元を去り、ない者は地元で孤独感に陥って追い込まれている、という様子が浮かぶ。少子化問題も同様。子供に関心を寄せる大人が多い地域と少ない地域。安心して子供を産み育てることができるのが何方で、出産を思いとどまるのは何方か。少し考えれば明らかだろう。若者の地元定住や出産にも関わるとなれば、それは地方創生の問題でもある訳だ。
以上より、様々な方面で「次世代の未来を奪うのは大人の無関心」だという構図の存在をご理解いただけようかと思う。
さらに、重要なのは、子供・若者との関わりを自助や共助に委ねる(=保護者や住民に丸投げする)と、教育格差の拡大につながることだ。よって「誰ひとり取り残さない」を前提とする限り、自助や共助の力を高めることも含めて、これは公助の問題(すなわち、自治体マター)といえる。
最後に、人や社会の未来に関わる広い範囲の諸問題を解決する鍵は「子供・若者に対する関心度の向上」や「大人の子供観・教育観を転換できるか否か」にかかっている点を重ねて強調し、然るべき立場にある大人たちの自覚と責任を問いたいと思う。