インターンによるまちづくりで地域のアップデートを

著者
大正大学地域構想研究所 特命講師
齋藤知明

挫折と光明

以前、「地域回帰しやすい町の条件とは何か」というテーマで、筆者の経験からその要因を紹介しました。

地域回帰しやすい町の条件とは何か(前編)
地域回帰しやすい町の条件とは何か(後編)

そこで挙げた「学生と大人がフラットな関係性で対話がおこなわれている」、つまり世代間交流の機会の多さと地域回帰の相関関係に着目し、筆者は自身の生活拠点である山形県酒田市でインターン事業を実施してきました。2020年の春休みと夏休みを活用して地元企業でインターンを展開し、地元出身学生が地元をあらためて知る機会、そして地元就職をリアルに考えられる機会として一定の成果を得ることができました。また、夏でのインターン事業では新型コロナの影響により帰省できない学生がオンラインで参加し、オンラインを活用することによって県外に進学しても地元企業と関われる可能性も実感しました。

一方で、課題も見つかりました。運営が筆者一人であったため、活動が質量ともに限定的となり、それがゆえに地域に対してのインパクトに欠けました。さらには、山形県は新型コロナの影響が比較的少ないがために、オンラインでのインターンやテレワークの定着に時間がかかることもわかりました。

昨年、大学生の多くは大学に行くことができず、オンラインでの授業受講を強いられました。しかし、結果的にオンラインツールを非常に効果的に使いこなす学生が増えたのも事実です。大学生が習得したこの「インフラ」を、今後地方が活用しない手はないのではとも考えるようになります。

オンラインとオンサイトを混合した昨夏のインターン

既存のネットワークが躍動

そこで、まずは体制を立て直すべく、筆者が所属する一般社団法人酒田青年会議所での事業化を図りました。青年会議所は長年、地域に根づいてまちづくりやひとづくりを展開してきた実績があります。また、構成メンバーは企業の代表や役員であることも多いため地域での人脈を豊富に持っています。さらに、構成メンバーが青年(20代30代)であり、企業と学生とを結ぶ存在として活躍できる世代である点も事業化が可能と考えた理由です。

昨年末から実践型インターンを展開する「KAERUインターン」の準備を始めました。2月には世代間交流とまちづくりの重要性に関する研究と実践の第一人者である、大正大学地域創生学部教授の浦崎太郎先生をお呼びして講演と討論会を開催。これによって、インターンの目的である「世代間における探究コミュニティの形成」の重要性について市民と共有でき、事業の進捗が加速していきました。

次に受け入れ企業の発掘です。今回は受け入れ企業5社、インターン期間は8月の2週間、プログラムはオンラインでも可能と設定し、学生と一緒に本気になって自社の課題解決を実践できる企業を募集しました。青年会議所の強みである人脈を活かしたところ、あっという間に5社が決定。5社のなかには、酒田市役所も含まれ(便宜的に企業とします)、行政と民間、そして青年会議所というネットワークが連携する構図ができました。これも長年地域のために活動してきた青年会議所の信頼と実績があったからだと考えます。

浦崎先生(右下)と酒田青年会議所会員とのオンライン討論会(筆者は右上)

人口減少が止まらない地方都市の挑戦

8月のインターン事業実施に向け、6月から本格的に活動が稼働してきました。6月10日には企業向けの説明会をオンラインで実施。KAERUインターンの理念やスケジュールの説明に加えて、過去に長期インターンを経験した学生の事例報告もおこない全体の理解を図りました。

また、今回展開する実践型インターンの肝となる点は、企業と学生の間に入るコーディネーターです。就労体験や作業補助などが中心となる通常のインターンであれば企業と学生の二者間のみで十分ですが、企業の課題解決に取り組む実践型インターンでは事務的な運用はもちろんのこと、企業の課題を引き出し、学生の状況を把握するコーディネーターの存在が欠かせません。今回は筆者以外にも青年会議所の会員有志がコーディネーターを務めるため、複数のプログラムが可能となりました。課題解決活動の円滑化と、世代間の活発的な交流に務めます。

説明会では企業の方々から、まだ実践型インターンがイメージできないとのコメントや、BtoB企業の仕事が学生の就職につながるのかといった疑問もあがりました。当然の反応だと思います。一方で学生から、実践型インターンによって酒田での暮らし方や働き方がリアルになったという報告に、企業側も関心を示します。おそらくすでに世代間交流、そして企業と学生の属性間交流が始まっていると感じました。このような出会いと対話を通じて、まちがアップデートしていく嚆矢とも言えるでしょう。

酒田市は年初に人口が10万人を割りました。ここから減少が増加に転じることは考えにくいです。しかし、人口の増減に一喜一憂せず、大人たちが日頃から活気に満ちて仕事・生活をすることが地域の将来にとって重要と考えます。インターンは多様な人・価値と出会い対話するツールの一つにすぎません。他方で、日常の仕事のなかでも可能な取り組みであることが持続可能性を高めます。だからこそ、大人と若者が一緒に仕事をするインターンを展開していきます。この夏、地方都市の挑戦にご期待ください!

KAERUインターン特設サイト

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2021.06.15