地域ブランディングと関係人口(室蘭市における調査報告)

著者
大正大学地域構想研究所 主任研究員
中島 ゆき

当研究所の連携自治体の一つである北海道の室蘭市は、令和4年度に室蘭港開港150年・市制施行100年の節目を迎えます。この周年記念事業を契機に、市内外に対して魅力発信をしていくため今後の中長期的な視点での地域ブランディング・プロモーションの戦略を検討していくことの必要性が求められていました。

そのため、令和2年度に室蘭市と一般財団法人 地方自治研究機構との共同調査が行われることとなり、その調査機関として当シティプロモーションプロジェクトチームが受託し共同調査研究を支援しました。

先日、その報告書が公開されています。

本記事では、同調査の内容を一部ご紹介したいと思います。

⇒「地域ブランディング・プロモーションに関する調査研究」(一般財団法人 地方自治研究機構HP内)

→概要版はこちら

地域ブランディングの中長期戦略を立案するために

室蘭市においては日本各地の自治体と同様に深刻な人口減少が進行しており、昭和40年代の人口16万人をピークに直近の国勢調査では88,564人と半減している現状です。

ここ数年、交流人口に対しては観光施策を、定住人口に対しては移住施策の中でと、それぞれ増加のための取組みを行っているところでありました。

しかし、それぞれの取組みで独立した施策を展開するという段階から、地域ブランディングの視点で全体を一つの軸で通した中長期の戦略の立案へと、考え方を切り替える必要があるという議論も高まっていました。

本報告書では主に以下の3点の調査結果を示し、最終的に室蘭市が今後取り組むべき施策について、中長期的視点から検討を加えています(※1)。

①移住予備軍としての関係人口の行動・意識調査

②室蘭市の地域資源調査(何を)

③室蘭市の来訪者と関係人口分類(誰に)

大変ボリュームのある報告書になりますが、ご興味のある方は是非ご一読いただけたら幸いです。

以下、報告書の中から移住促進としての「関係人口」の取組みについて整理した部分を一部ご紹介します。
 

※1)本報告書は室蘭市における地域ブランディング戦略の方向性について、多様な市民、関係団体が意見交換し合意しながら進めていくための土台となる資料を提供しているものになります。そのため、本報告書で最終的な結論を提示するものではなく、令和3年は本報告書を土台とした市民参加の取組みが計画されています。

移住意向からみた「関係人口」の位置付け

政府が「地方版総合戦略」の中で当初掲げた「関係人口」は、あくまで最終的に「移住につながらなくともよい」という考え方が主流でスタートし議論されてきました。(最新の調査・議論の方向性はややこの色合いが薄まってきていますが)

とはいえ、室蘭市の関係人口のアウトカムは「移住促進」であります。その中で「関係人口の創出・拡大政策」と「移住政策」との線引き、違いが曖昧であることなども課題としてあがっており、政策的な位置付けを明確にする必要があります。

そこで、一般的な移住意向からみた移住先決定ツリーを描き整理しました。そしてそのツリーのどこに「関係人口」が位置付けられるのかを色付けしたものが(図1)になります。

※出所:「地域ブランディング・プロモーションに関する調査研究」(一般財団法人 地方自治研究機構)より抜粋

 

ここで整理したいのは、自治体が取り組むべき政策的位置付けです。(図1)をふまえると関係人口創出政策は、ゼロから関係人口を創出する「関係人口創出」政策と、現在の関係人口の地域との関係性を変容させ、より関係を強めることを促進する「関係人口深化」政策の2種類に区分できます。
 

「関係人口深化」政策

図1の①:移住を考えていて関係人口である層が、最終的な移住地として自地域を選んでもらうことを目的とした取組

図1の②:現在、移住は考えていなくて関係人口である層が、将来的に移住を考えた際に自地域を選んでもらうような関係性を深めることを目的とした取組

図1の③:現在、移住は考えていなくて関係人口である層が、継続的・定期的に自地域と関わりを持って地域活動に参加してくれるような関係性を深めることを目的とした取組

 

「関係人口創出」政策

図1の④:移住を考えていて関係人口ではない層に、移住地として自地域を選んでもらうことを目的とした取組

図1の⑤:現在、移住は考えていなくて関係人口でもない層に対して、将来的に関係人口になってもらうことを目的とした取組

これまでは、例えば、移住につながるから移住政策の一環、移住につながらないなら交流推進政策、などといった線引きも見られました。しかし、この線引き方法だと最終的には関係人口である相手方の移住意向で政策が変わってしまうことになります。それ故に、取組み現場での混乱もあったのではないでしょうか。

移住意向と地域との関係性については人の気持ちが大きく関連する「質」的な要素が強く作用すると考えられるため、くっきりと線引きができない部分もあるでしょう。しかしながら、「関係人口創出」か「関係人口深化」か、上記の政策的位置付けの中のどの部分に重きを置いた政策であるのかを明確にし、関係者の認識を統一して進めることで取組みがわかりやすくなるのではないかと考えられます。

移住意向からみた「関係人口」の市場性

また、前述の移住先決定ツリーをもとに、どの関係人口がどの程度の割合でいるのかを確認するために、首都圏に居住する18歳以上の男女を対象にインターネットアンケート調査を実施しました。

その結果が(図2)です。

※出所:「地域ブランディング・プロモーションに関する調査研究」(一般財団法人 地方自治研究機構)より抜粋

 

①移住を考えていて、関係人口は7.8%、②および③移住を考えていなくて、現在関係人口は18.5%、④移住を考えていて、現在非関係人口は10%、⑤移住を考えていなくて、非関係人口は63.6%という結果でありました。

すなわち、首都圏における「関係人口深化促進」の市場性は、①では7.8%、②③では18.5%で合計26.3%程度と考えられます。また、新たに「関係人口創出」の市場性は④⑤を合わせて73.3%程度と考えられます。

その他、詳しい調査とその分析については、本報告書をご確認ください。

地方自治体の皆様の「関係人口政策」の参考になれば幸いです。

 

<インターネット調査の実施概要は以下になります>
調査対象:東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県に居住する18歳以上の男女
調査方法:インターネット調査
調査実施時期:2020/8/24~26
調査結果:701名が回答、回答者の内訳は以下のとおり

2021.04.15