第2回地域寺院倶楽部シンポジウム報告

著者
大正大学地域構想研究所研究員
小川 有閑

BSR推進センターでは、3月12日に大正大学大会議室を会場として、第2回地域寺院倶楽部シンポジウムを開催いたしました。今回のテーマは、「まちに開く、まちを拓く —地域をつくる寺院の姿—」。まず、まちづくりの一旦を寺院が担っている事例を、3人の僧侶にお話しいただきました。

人と人とが出会う場

佐々木教道さんが住職をつとめる妙海寺は、千葉県勝浦市の日蓮宗寺院。勝浦市は人口1万8千人、高齢化率は35%に達し、人口減少の波にさらされています。決して楽観できない状況のなか、「まちのお寺の学校」やメディカルカフェ、空き家を活用した民泊など、様々な活動をする佐々木さんは、寺院は人と人のより良い出会いを作る場だといいます。そのためには、「地域の課題・強みを見定め、機能させる」、そして、「地域と協働し、強いコミュニティをつくる」ことが肝要とのこと。過疎化に対して、佐々木さんは「今、過疎は熱い」と力強く語ります。そのわけは、菩薩率という考え方にあります。菩薩の生き方をする人を増やしていくと、減少傾向にある人口に対しての菩薩の割合(菩薩率)は高くなります。それは、小さくても強いコミュニティになるというわけです。多様な活動には、常に「菩薩づくりによるまちづくり」という佐々木さんの思いが込められていることが伝わってくるお話でした。

静岡県掛川市の真宗大谷派蓮福寺の住職、馨敏郎さんは、いかにお寺を地域に開放し、地域社会に貢献できるかと考えながら活動しているといいます。掛川駅至近という立地条件を活かして駅前通りを憩いの場にする試みの「友引ストリートカフェ」や自坊での「ほっこり法話カフェ」など、参加者や来場者同士が出会う場を作り出している馨さん。2012年にスタートした「ほっこり法話カフェ」は76回を数え、今では50名から80名という参加者とのこと。法話だけではなく、プレイバックシアターの上演やトークフォークダンスなど、まさに来場者同士が出会う場を提供しています。馨さんは気づきを大切にした、心地よい対話の場を大事にしたいと話され、それがこの世に浄土を作ることにつながるのではないかと希望を語っていただきました。

まだ32歳と若い筒井章順さんは、北海道函館市の浄土宗湯川寺の副住職。住みたい街にも選ばれる函館だが、現実は、不景気や高齢化が避けられず、市民の幸福度も低いといいます。そこで、街、人、神社仏閣をつなぐ「結-Yui-」という活動を2016年にスタートさせました。元々あった檀信徒の親睦会をほぐすようにして、檀家以外の地域の人も参加できる、町に開かれた活動として、様々な活動に取り組んでいます。4月8日の花まつりの日に「ホットケーキ(ホトケーキ)」を食べてお祝いをするイベントは、子どもたちの参加が年々増え、当初よりも3倍の規模になったといいます。さらに、昨年、隣接の神社の宮司さんとはじめた「なごみフェスタ」には、出店者・スタッフだけで100人が力を合わせ、約1千人もの参加者が。地域を楽しい町にしたいという思いが、着実に広がっている現在の様子に、筒井さんは「寺院ではなく、地域の人が主役になること」、「もう一歩前へ、まちの人に前に進んでもらう場になること」が大切で、寺の収入・利益にならなくても、かけがえのない無形の価値がそこにあると語られました。

寺のためにと欲を出さない

後半のシンポジウムでは、三名の事例報告を受けて、立教大学社会デザイン研究所研究員の星野哲さんがコメントをされました。佐々木さんに対しては、たくさんの活動をされているが、やめた活動もあると思う。それは何故か、そしてそれは失敗ととらえているのかという質問でした。佐々木さんは、お寺がやらなくても誰かがやることはあえてやることはないことを、これまでの経験から学んだ。失敗とはせず、次の取り組みにつなげていると答えられました。寺の外の人たちと関わることに葛藤があると語った馨さんに、星野さんはどのような葛藤なのかと質問。馨さんは、伝統や儀礼が絶対という考え方がある中で新しいことをする不安があると答えられ、また、外の人との対話の最初の一歩は、日常の延長にあるとも話されました。筒井さんには、世代が変わると価値観も変わる中で何をすればよいのかと星野さん。筒井さんは、まずは地域向けのビジョンを決めることから始め、心を開いた文章で伝えることで、読んだ人も心を開いてくれると経験を語られました。そして、欲を出さないことが最も大切で、「お寺のために」と考えるとうまくいかなくなるとポイントを挙げて答えられました。

その後はフロアとの質疑応答の時間に。お三方には、「主な広報手段」、「法要等の依頼は増えているか?」、「檀家の反対は?」、「家族からの反対は?」、「コアメンバーの集め方」、「イベント仏教や消費される仏教との違いは?」、「寺院外での活動に宗教性は必要か?」、「活動によって変わったことは?」など硬軟さまざまな質問に真摯にお答えいただきました。

登壇していただいた佐々木さん、馨さん、筒井さんのお話はいずれも現場での実践に基づいた、非常に説得力のあるもので、このような実践知を広く共有できる場の意義を改めて認識できました。BSR推進センターでは、今後も、シンポジウムや『地域寺院』の編集・発行を通して、寺院活動の実践知を収集・分析し、地域資源としての可能性を社会に発表してまいります。


<左から佐々木教道さん、馨敏郎さん、筒井章順さん>

 


<撮影:島﨑信一>

 

2019.03.29