2025年12月8日23時15分頃青森県沖を震源とするM7.5の地震が発生し、青森県内で最大震度6強を記録した。この地震は太平洋プレートが日本列島の下に潜り込むプレート境界面で発生したいわゆるプレート境界型地震である。この地震を契機として、気象庁は「北海道・三陸沖後発地震注意情報」を発表した(文献1)。この地震情報は1週間を目途として継続され、12月16日0時に解除された。この情報は2022年12月に運用が開始されてはじめてのケースであるため、その意味内容はまだよく知られているとは言い難い。これとよく似た事例としては昨年8月に発生した日向灘地震の後に発令された南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)がある。今回の注意情報はこの北日本版とも言えるものである。
本稿ではこの情報発表の背景にあるものを解説する。
まず、「後発地震」とは何か、ということであるが、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震では、その2日前にM7.3の地震が宮城県沖で発生していた。これはM9の地震の前にM7クラスの前震があったことを示している。また、2016年の熊本地震でも似た事例があった。一般的には、M7程度の大きな地震が発生すると、その後には最初の地震よりも小さな地震が多数発生することがほとんどであり、それらを“余震”と呼んでいた。しかしながら、上に挙げた事例では、このことがあてはまらず、M7クラスの大きな地震が発生した後にも、それと同等か、あるいはさらに大きな地震が発生する可能性があることが知られることになった。このようになる確率は必ずしも高くはないが、防災上の観点からは同等もしくはそれよりも大きな地震が来る可能性があることを周知する必要があるとのことから、2016年以後、気象庁は、大きな地震のあとには“今後は余震に注意”と言わず、“今後は後発地震が発生する可能性があることに注意”というような表現を使うようになった。このような経緯なので「後発地震」という時には最初の大きな地震と同等かそれより大きな地震のことを言う、ということに注意しておかなくてはならない。実際、今回の青森県沖地震の4日後にM6.5の地震が本震のすぐ近くで発生し、東北地方に津波注意報が発令されたが、気象庁は「これは後発地震ではない」とわざわざ説明したことからもわかる。
今回の注意情報は“北海道・三陸沖”に対して発せられたものであるが、今回の地震の発生場所との関係は図1に示したようになる(文献1)。

図1:・赤色領域は、日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の想定震源域。
・青色領域は、今回の地震(星印が震央)が影響を与える領域。
M、Mwは異なる方式で求めたマグニチュード。地震の大きさから経験式を用いて影響を与える領域が計算できる。(文献1の図に加筆)
図1には今回の地震が影響を及ぼす領域を円で示しているが、この円が想定震源域に一部でも含まれれば、仮に震央が想定震源域の外側でも、後発地震の発生に影響を与えるとして後発地震注意情報が発表される。ここで想定されるM9クラスの地震は日本海溝沿いの三陸・日高沖または、千島海溝沿いの十勝・根室沖の地域のどちらかの領域であり、発生すると津波警報の出る領域は広範囲にわたる(文献2)。このため、注意情報で防災対応をとるべき領域は図2に示す北海道北部の枝幸町から千葉県南部の館山市までの182市町村となる(図2)。

図2:後発地震注意情報の発表に伴い防災対応をとるべき地域(文献1)。
南海トラフ沿いは日本書紀にはじめての巨大地震の記述があることからわかるように古代からその発生の繰り返しが比較的よくわかってきた。それに比べ、東北から北海道にかけての地域は古来の地震活動の履歴はほとんど知られていなかったが、最近の津波堆積物の調査など地質学的な手法の研究の発展により、これらの領域で過去数千年から数百年前までに幾度かの巨大地震が発生してきたことがわかってきた。直近では千島海溝沿いに17世紀頃に巨大な地震があったことが知られているが、それ以後は知られていない。このことから、近い将来巨大地震の発生が想定されるに至った。想定された巨大地震が発生すると、三陸から北海道の沿岸地域で震度が6強から7となり、津波も25m~30m程度の高い津波が想定される。また人的被害も最大で20万人近くに達することが想定されている(文献3)。こうしたことから、この震源域内でM7クラス程度の大きな地震が発生した場合には、その後にM9クラスの地震が発生する可能性を示して防災対応をとることとしたわけである。
このような前震的な地震が発生することなく突然M9クラスの地震が発生する確率は根室沖で30年以内に約80%とされているが、これを1週間に換算すると約千分の1くらいである。一方、M7クラスの地震が発生した後の一週間以内程度にM8以上の巨大地震が発生する確率は世界の事例から百回に一回程度とされている(図3)。

図3:Mw7.0以上の地震発生後にその震央から500㎞以内で発生した Mw8クラス以上(Mw7.8以上)の大規模地震。7日以内に発生するのは、百回に一回程度(文献1)。
従って、震源領域内にM7クラスの地震が発生すると、平時よりも10倍程度後発地震の発生確率が高まるとした。1週間を過ぎると確率は次第に低下するが、直ちにゼロになるわけではない。後発地震注意情報は1週間をめどに解除されるが、これは南海トラフ地震の注意情報と同様、防災対応をとる期間が長くなると社会的な影響も大きくなるためにいったん区切るということであり、その後も注意は怠らずに社会活動を元に戻していくことが望まれる。三陸沖から北海道沖にかけては今回のようなM7クラスの地震は比較的頻繁に発生しており、2年に1回程度は今回のような注情報が出る可能性があると言われているので、これをよい機会ととらえて地域の防災力を高める努力を重ねていくことが必要である。
文献1) 内閣府(防災担当)・気象庁、2025、報道発表資料「北海道・三陸沖後発地震注意情報について https://www.bousai.go.jp/pdf/25120901_siryo.pdf2) 内閣府・防災情報のページ:日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の解説ページ https://www.bousai.go.jp/jishin/nihonkaiko_chishima/kaisetsu/index1.html3) 内閣府(防災担当)、2021、報道発表資料「日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震の被害想定について https://www.bousai.go.jp/jishin/nihonkaiko_chishima/WG/pdf/211221/shiryo01.pdf


