地震で命を落とさないためには、まず家屋の耐震化を!

著者
大正大学地域構想研究所 客員教授
加藤 照之

本年1月1日に能登半島でM7.6という大きな地震が発生し、大きな被害が生じた。この地震による直接的な影響によって亡くなられた、いわゆる直接死の数は230人に達するが、大半は地震の揺れに伴う家屋の倒壊などによるようである。M7.6という地震の大きさから考えた場合、この230人という数は多いのだろうか。
日本の地震としては、1923年の関東地震(M7.9)による死者約10万人が最大のものである。この死者数のうち火災によって亡くなった方が9割近くに達するが、建物の倒壊による死者も1万人以上であった。近年では1995年の神戸地震(M7.3)が際立って大きく6,500人近い死者が出たが、これも神戸という大都会の直下で起こったことによるものであったためである。その中でも建物の倒壊による死者が9割程度と大変多かった。内陸の地震では人口の密集地かそうでないかで被害の度合いも大きく異なるとはいえ、日本の地震では近年は建物の倒壊に伴う死者は着実に少なくなっているようにも感じられる。2016年熊本地震(M6.5とM7.3)では直接死は50名程度と能登半島地震による死者数よりは少ないものの、割合からするとやはり建物の倒壊による死者が多かったと推定される。
日本の建築物の耐震構造はどうなのであろうか。人が住まう建物の構造は伝統的な木造から、最新の免震構造を含む鉄筋コンクリート造までさまざまであるが、後者のような鉄筋コンクリート造は耐震性が高いことは明らかである一方、日本の住居の8割が木造であるとの指摘もあるので、ここでは木造一戸建ての構造についてのみ考えてみる。
日本の耐震基準は1950年に制定された建築基準法において導入された。耐震基準の変遷については表1に示す。この法律による耐震基準は1968年の十勝沖地震などを経験して1981年に改訂された。このため、1981年以前の建築基準で建てられた建物を「旧耐震」と呼び、1981年以降の建築基準で建てられた建物を「新耐震」などと呼ぶ。この新耐震は1995年の神戸地震でもその有用性は確認された。神戸地震の後、2000年には「住宅性能表示制度」が設けられ、新耐震を基準として、さらに耐震性の高い基準が設けられ等級が導入された(表1)。

表1:木造家屋の耐震基準の変遷

図1は2016年熊本地震における震源近傍の益城町の悉皆調査による木造建築物の被害を示している。一番左が「旧耐震」の場合であり、倒壊・崩壊と大破を合わせるとほぼ半数の建物が重大な破損をしたことになる。これにくらべると新耐震以降の建築物では倒壊や大破は少なく、せいぜい軽微な被害にとどまっていることが分かる。熊本地震による直接死50名のうち37名が家屋の倒壊によるものであり、その大半の建物が旧耐震の建造物であったとのことである。こうしたことからも、家屋の耐震化は地震による直接死を低減するために有効であることが分かる。

図1:熊本地震における木造建築物の建築時期別被害状況(国土交通省, 2016)

さて、近い将来大きな地震の発生が懸念されている首都圏ではどうであろうか。一昨年(2022年)実施された最新の首都直下地震の被害想定では、家屋の建て替えによる被害の低減の推移が評価されている(図2;東京都防災会議、2022)。

図2:首都直下地震(都心南部直下地震を想定)による耐震化の推進に伴う死者数想定の推移の想定(東京都防災会議,2022)

ここでは品川付近を震源とするM7.3の地震(都心南部直下地震)を想定しているが、この場合、約10年前の想定では死者数が約5,100人とされていたものが、この10年間の建物の耐震化の進展により、新耐震基準の家屋が92%になったことから、今回の想定では建物倒壊による推定死者数が約3,200人と低減している。これでも、神戸地震の約半数の死者が想定されるのであるが、今後、耐震化が進んで木造家屋の新耐震基準による耐震化率が100%になると死者数想定は約1,200人となり、さらに2000年基準の耐震化により想定死者数は約500人にまで減少する。これはあくまでも机上の想定であり、この通りになる保証はないし、その数値はかなりの誤差を含んでいると言わざるを得ないが、それでも、家の耐震化が進めば死者数が減ることは、これまでの日本における大地震に伴う死者数が減少していることを考えると、かなり期待できるのではないだろうか。
自治体の多くは、家の建て替えや耐震補強を推進するために補助金を設定しているので、こうした政策を積極的に活用し、いまだに旧耐震の家に住んでいる方は一刻も早く家の耐震化を進めてほしい。家全体の建て替えには多大な経費がかかりなかなか簡単にはいかないので、現在の建物に対する耐震診断を行って必要最低限の耐震補強を行うのでもよいと思う。自宅の耐震診断は無料で簡単にできる方法もある。何とか手の届く経費によって、自らの命が助かるのであればそれに越したことはないであろう。一刻も早く、旧耐震基準で耐震性能の低い家屋がなくなる日が来ることを願っている。
最後になりましたが能登半島地震及び今夏の豪雨によって亡くなられた方々には心よりお悔やみを、また,被災された方々には心よりお見舞いを申し上げます。

文献
国土交通省,2016,平成28年(2016年):熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会報告書,91pp.
東京都防災会議,2022,首都直下地震等による東京の被害想定報告書.

2024.11.01