人がつながる「場」づくりに欠かせないものとは?

著者
地域構想研究所 主任研究員
中島 ゆき

地方創生の動きが加速する中、地域外からの関係人口を引き寄せ、結びつける取り組みが全国各地で展開されています。その核となるのが、人々が集い、交流し、ともに何かを生み出す「場」の創出です。しかし、ただ空間を提供するだけでは、持続的な交流や創造がなかなか生まれないのが実情です。それを実現するためには、特定の「役割」を担う人物が不可欠であるとされています。
本記事は、前回の長野県塩尻市への視察レポート(1)(https://chikouken.org/report/report_cat04/15312/)の続き、第二弾です。
今回は、人がつながる「場」づくりに欠かせない、ある「役割」にフォーカスし、塩尻市がどのような「場」づくりをしているのか、視察レポートとしてご紹介したいと思います。

塩尻市「スナバ」から学ぶ

前回の長野県塩尻市への視察レポート(1)でも「スナバ」のことに触れました。今回はこの「スナバ」の魅力についてさらに詳しくお伝えしたいと思います。
名前の由来はそのまま公園の砂場。行けば誰かがいて一緒につくることができる、つくったり、壊したり、何度でも挑戦できる、そんな、公園の砂場のような場所を目指して命名されました。
現在、約121名が登録メンバーであり、その年代も10代から70代までと幅広く、職種や肩書き、年代、性別もばらばらな多様な人々が集まる場所になっており、関係人口創出拠点となっています。塩尻市に訪問したら、「とりあえずスナバに行ってみたら、何かがある」。そう言われる場所にもなっています。

「スナバ」の内部

入るとすぐに見えるのがフリーアドレス形式のワークスペース。視察当日は平日昼間にもかかわらず、多くの人たちがミーティングしたり1人で仕事したり、活発な空気が溢れていました。

「おせっかいおばちゃん」みたいな、コーディネーターの存在

私たち視察チームがお邪魔すると、ある女性が元気に「こんにちは~~~、え~、今日は何の集まりですか?」と気さくに声をかけてくれました。私(筆者)の顔を見つけてくれると、「あっ、ゆきさ~~~ん!」と挨拶してくれました。「スナバ」の顔役である愛称エリーさんです。ちなみに、エリーさんと私はこの時までに3回お会いしただけ。でも、一度関わるといつもウェルカムな雰囲気で迎えてくれるので、ついウッカリ、私は旧知の間柄かと錯覚してしまうほどです。でも、それは回数や時間は関係ないらしい。塩尻に関わろうとしてくれている人は誰でもいつでもウェルカム、そんな空気感が「スナバ」全体にはあります。

スナバの看板娘?的な存在のエリーさん

せっかくなのでエリーさんから簡単に「スナバ」のことを皆さんに説明してもらいました。塩尻で何かやりたい人、何かを探している人がここに集まって、企画したり実行したり、何かが生まれる場所だそうです。特筆すべきは、会員になる時のプロセス。入会を検討中の人は、2時間以上の内観ツアー&インタビューが待っているそうです!
「内観ツアーでは、スナバがどのような場所か、設立に至る経緯や、目指していることもガッツリお話させてもらいます。その後、ご入会を検討されている方が現在何をされているのか、または、これから塩尻でしたいことやスナバに興味を持ったきっかけ、スナバでやりたい理由など、2時間以上インタビューさせてもらっています。その上で、お互いが何かいいんじゃない~となったら、じゃあ会員になってください、ってなります。」

「1人2時間以上も話すんですか?」って聞かれたら、エリーさんは「そう!きっと暑苦し~、と思う人もいると思うんですが。ずっと、なんでなんで、って質問攻めにします(笑)。」誰が、何をやりたくて、何のために、何を目指してここ塩尻に来たのか把握すれば、似た興味を持つ人や合いそうな人をどんどん紹介できちゃうから、だそうです。こうして、いろんな人が繋がって、勝手に新しい企画が動き出すのがいい、と言います。エリーさんは「要は、おせっかいおばちゃんみたいなもん!」と自分で言って、視察メンバーみんなを納得させてくれました。この瞬間、共感の輪がぐっと広がった一瞬でした。

壁には会員メンバーのプロフィールややりたいこと、メンバー募集中の告知などがびっしりと貼り出されている

「巻き込み力」という地域文化

現代では、コワーキングスペースやシェアオフィスが注目されていますが、真に交流の場として機能させるためには、物理的な空間を超えた心地よい交流と人が何かでつながる環境が必要になります。ここで重要なのは、コミュニティを形成し、人々を繋ぐコーディネーターの役割です。最近では、このような役割を果たす「管理人」や「コミュニティビルダー」と呼ばれる人を置くプロジェクトが増えてきています。

実は、塩尻市では、メンバー間の自発的な交流を促すエリーさんのようなコーディネーター的役割の人がそれぞれのプロジェクトに恒常的にいるのが印象的です。そして、塩尻市では、それが地域文化となっているように思われました。

コミュニティのコーディネーターという役割は、特に新しい形のコワーキングスペースやシェアオフィス、地域コミュニティプロジェクトにおいて、非常に重要な役割を果たします。しかし、この役割はまだ多くの地域にとって新しく、その重要性や必要性、具体的な存在が完全に理解されているとは言えません。

けれども、コーディネーター役の重要性は、人々が集う「場」を単なる空間から、生き生きとした交流の場へと変える力にあります。塩尻市の例では、この役割を地域全体で理解し、地域メンバーの全体がコーディネーターだけに任せるのではなく、支え、一緒に盛り上げている空気を感じます。地域が一緒に何かを盛り上げている空気感、それが重要なのだと感じました。そして、それが地域文化となって外から来た人を快く受け入れる雰囲気を作り出しているように感じました。

「en・to」の内部

今回の視察先、「スナバ」の他、「地域の人事部」「en・to」「CxO Lab」や、塩尻市が主幹となっているCore塩尻、塩尻市デジタルトランスフォーメーション戦略においても、同様な空気を感じました。これは、言うなれば、塩尻市の持つ「巻き込み力」があるという表現がふさわしそうです。地域が大切にしているコーディネートする役割、それらが生み出す巻き込み力、こうしたものが一体となって地域力という見えない空気になっている、そんな風に感じた視察でありました。

次回は、視察レポート第三弾、最終回となります。こうした「巻き込み力」を持つ塩尻市が向かっている副業人材戦略について。地域が探求すべき「幸せに働くこと」についてご紹介したいと思います。

2024.04.01