官民一体となって、地域を変革するためには

著者
地域構想研究所 主任研究員
中島 ゆき

本当の“官民連携”って何だろう?

地域において、本当の“官民連携”とは一体どのようなものなのでしょうか?

地方創生の中で、多くの自治体が人口減少や高齢化という喫緊の課題に直面しています。官だけでは解決できないこれらの問題に、民間の力を組み合わせることが不可欠であることは、多くの人が理解しているでしょう。

ここ数年、各地で「官民連携」が叫ばれる背景です。
連携によるお互いの信頼関係と地域がめざす方向性の一体感、そしてそこから生まれる各々の自主的な取組みにより地域が活発だなーという雰囲気が生まれる。それが「官民連携」のイメージであります。けれども、官民連携を掲げて取り組んでいるものの、地域の多様なステークホルダーを巻き込み官民が一丸となって変革している事例はそれほど多くないのが実情ではないでしょうか。

さて、先月2024年1月18日、19日に、長野県塩尻市へ視察に行きました。参加したのは、本研究所が主催する「地域戦略人材塾 https://chikouken.org/activity/activity_cat02/ 」の今年度の受講生たちです。7つの自治体から13名の自治体職員さんとご一緒しました。

塩尻市は、本質的な連携を実践し、官民が一体となって価値と変革を生み出している熱い地域です。官民連携の本質、その目に見えない地域の人たちの思いや信頼、勢いや情熱のような温度感は、実際にその場にいかなければ体験できません。そう考えて、今回は「地域戦略人材塾」の塾生の皆さんとの視察会を塩尻市様への訪問をお願いし実現しました。

この塩尻市の官民一体感は、初日の最初から参加者の皆さんへインパクトをもたらしていました。例えば、集合してすぐに乗車したAIオンデマンドバス「のるーと」のご説明に駆けつけてくれた都市計画課の日野南さん。当日、ご厚意で急遽説明に来てくれることになり、乗車まで時間がなかったため、急いで説明してくれたのですが、おかげで自己紹介が後回しに。後で職員の方だと知ると、みなさんが「えっ!」と驚くシーンも。自治体職員の方というと、ある一定のイメージを皆さん抱きますが、それとはかなり違った雰囲気だったです。「のるーと」の業者さんのような熱意であったというのが参加者さんからのコメントで聞かれました。

さらに、午後に訪問したシビック・イノベーション拠点「スナバ」でも。建物に足を踏み入れた瞬間から、その空気感に皆さんがビックリした雰囲気が私にビシビシと伝わりました。「東京みたい」と、どなたかが呟きました。地方都市の住宅街に建つ、この建物の中で、さまざまな人たちが、自由気ままにPCに向かって仕事をしていたり、立ってMTGしていたり、と。ここが関係人口創出の拠点であります。今回の視察で最も印象に残った場所として、多くの参加者から名前が挙った場所でもあります(次回、詳しくご紹介しましょう)。

それでは、塩尻市の視察についてもう少し具体的にご紹介します。
非常に革新的な取り組みを数多く実践されている地域ですので、なかなか簡潔に1回ではお伝えできそうもありません。ですので、複数回で具体的なことをご紹介しつつ、塩尻市の「官民連携」の力強さを少しでもお伝えでできればと思います。今回はその第一弾です。

(R5年度「地域戦略人材塾」受講生の7自治体13名の視察チーム)

― シビック・イノベーション拠点「スナバ」前にて ―

― 地域DXの拠点「core塩尻」にて―

「地域戦略人材塾」R5年度生の初リアル

さて、今回視察を実施した「地域戦略人材塾」は、今年、これまでに14回の講義をオンラインで実施しており、月に1~2回程度、画面上で顔を合わせてきたメンバーです。お互いリアルで会うのは初めての人ばかり。集合場所では、「あ~、〇〇市の皆さん!」と、オンラインで見慣れた顔に「初めまして」とは言いにくく、お互いに少し照れくさく挨拶を交わしました。

「地域戦略人材塾」では、これまでにナッジや自治体DX、関係人口、多様な人材活用、地域ブランディングなど、地方創生で語られる最先端の手法や事例を学んできましたが、今回の塩尻市視察では、その中の「自治体DX、関係人口、多様な人材活用」について主に見学させていただきました。

日本各地からの参加者が、塩尻駅で現地集合しました。日本の中心地 “日本の土(ど)真ん中”と言われる塩尻市ですので、北から南から遠くは四国愛媛県今治市、徳島県阿南市からも参加者が集まりました。

集合してすぐに、塩尻市の地域DXを体験です。

日本各地で広がる「のるーと」 塩尻市では

「のるーと塩尻」は利用者が乗りたい時にアプリで呼べる新しい乗合バスで、A Iシステムが乗客の状況や道路状況に応じて車両に効率的なルートを案内するのが特徴です。
塩尻市では、平成11年から地域振興バスを運行しているものの、利用者ニーズと需給のミスマッチなどがあり、利用者数が減少。また、運行側でも乗務員の高齢化、担い手不足が深刻化し、サービスの持続性が低下といった課題が挙がっています。同じような課題を抱えている自治体は多いことでしょう。

これらの課題を解決するための手段として、塩尻市では実証実験というかたちでスタートしています。
特筆すべきは、この実証実験時には地域振興バスと「のるーと」を同時に運行しながら利用者調査をしっかりと行っていること。利用者にとって既存のバスと「のるーと」のどちらが望ましいかをアンケート調査し、その意向を考慮したうえで決定している点です。そのために、地域を区分して、別々のタイミングで順番に実施しており、調査の結果、地域ごとに「のるーと」への移行地域、併用地域、地域振興バス継続地域と分けて運行開始しているとのことです。

(地区毎に分けて実証実験を行っているゆえの、きめ細かいゾーン別の交通計画が実現/塩尻市地域公共交通計画より転載)

(現在、市内中心地域は4台走行中)

(現在、実証運行中の広丘・吉田地区、全19回の説明会開催で、延べ265名の方がご参加)

この利用者調査はどこの地域も実施していそうなものですが、本当のニーズをくまなく聞き取って最適解を導き出すのは本当に難しいですよね。
アンケート回収率も80%近くというから、本当に驚きです。「官民連携」の力による、地域一体感を、視察の冒頭から垣間見ることができました。

さて、塩尻市の視察では以下の事業を視察でご案内いただきました。次回以降、ご紹介していきます。

※塩尻市の皆さまには、大勢での参加により大変なご労力をおかけしました。また、業務が非常に多忙な1月に多大なご協力をいただきましたこと、ここに改めて感謝申し上げます。

・シビック・イノベーション拠点「スナバ」
シビック・イノベーション拠点「スナバ」

・地域DXの拠点「core塩尻」(/塩尻市の地方創生プロジェクト
─産業振興事,業部 古畑部長より、1泊2日の視察先の全体像、を伺う
core塩尻(塩尻MaaS、自動運転プロジェクト)
自営型テレワーク事業 KADO

・地域の人事部、関係人口創出事業(NPO法人MEGURU代表横山氏より)
NPO法人MEGURU
地域の人事部に関する紹介記事
関係人口創出事業 塩尻CxO Lab

・塩尻市デジタルトランスフォーメーション戦略
塩尻市デジタルトランスフォーメーション戦略
自治体DXに関連する取り組み記事
(自動運転)
https://www.youtube.com/watch?v=B8HARMcHSeo

・en.to
塩尻の次世代を担う人材を輩出する滞在型交流拠点 [en.to]

・奈良井宿案内&まちづくり
奈良井ラボ
信濃毎日新聞記事

2024.02.15