コロナ危機―自治体・企業の対応と人々の意識変化

著者
大正大学地域構想研究所 教授
村木太郎

大正大学地域構想研究所のプロジェクト“つなぐ”では、2020年度の研究成果についてのオンライン報告会を「コロナ危機―自治体・企業の対応と人々の意識変化」をテーマとして実施しました。報告会は3月17日(水)の12時から13時までのお昼休みに地構研の会議室を拠点に全国の参加者とオンラインで結んで行われました。

主な内容は以下のとおりです。なお、説明資料については、ここからダウンロードすることができます。

-2020年度のプロジェクト-
(大正大学地域構想研究所 村木太郎教授:プロジェクト代表)

新型コロナ禍で「新しい生活様式」が拡がっている中で、地域社会・企業の担い手不足解消のための自治体・企業が連携した対策を探るため、地方に本社を置く全国ブランド企業5社のトップと本社所在の5自治体の首長にインタビューを行い、併せて東京在住者にコロナ禍の影響による地方移住や地方企業への関心の変化についてインターネット調査を行った。

具体的な研究テーマとしては、少子化対策、若者の人口流失を防ぎ移住を促進する方策、外国人への対策、高齢者や障害者の就労を支援する方策、の4点。

-企業ヒアリング-
(同・大沼みずほ准教授)

どの企業もコロナ危機をチャンスへと転換すべく、在宅ワークをはじめとするデジタル化を積極的に推し進めていた。自治体よりもスピーディーで徹底していた印象だ。オンラインによって全国からいい人材を採用できるようになったという話に時代の変化を感じた。食品関係が多かったこともあり、大幅な減収となっている企業は少なかったが、技能実習生が入国できないといった企業もあり、外国人労働者の今後の受け入れにも影響が出てくるのではないかと感じた。

-自治体ヒアリング-
(村木太郎教授)

人口の減少と若者の流出を防ぎ移住を促進する政策としては、①女性が働きやすく暮らしやすいまちにする、②IT環境の整備や教育訓練に加え民間企業の智恵や力を取り入れることにより最新技術を活用する、③教育に力を入れ子どもがまちに愛着を持つ、子育て世代に魅力的な町を作る、などが進められている。

外国人については、今後は多文化共生が大きなテーマとなり、教育・文化・生活面のサポートの充実が重要との指摘があった。

高齢者就労については、地域コミュニティの維持に元気な高齢者のボランティアが欠かせない、経験やノウハウを多く持つ高齢者を農業や観光業に活かしていきたいといった話があった。

-地方移住についてのインターネット調査-
(同・塚崎裕子教授)

コロナ禍の影響による地方移住や地方企業への関心の変化を把握するため、20~40代の東京都在住者を対象に昨年11月にインターネット調査を実施し、1262人から回答をいただいた。調査結果から、①約1割の人がコロナ禍前より地方移住や地方企業に対し関心を高めていること、②その割合は、女性が男性より多く、20代が30、40代より多いこと、③働き方・暮らし方を変えたいと考えるようになったことが関心が高まった主な理由であること等が明らかになった。

-ディスカッション-
「コロナ禍の下での調査研究で今後にも繋がっていくと考えたところ」

村木教授

企業調査で一番印象的だったのは、ITを活用したリモートワーク、オンライン会議等が従来では考えられないスピードで大きな混乱もなく普及したこと。これはコロナが収束しても完全には戻らず、リモートとリアルのベストミックスの模索が始まる。

インターネット調査では若年層が移住に心を動かし始めている印象。数年後に移住を実現するか、どこに移住するかという点で、自治体の魅力というか吸引力の勝負。

 

塚崎教授

ダイバーシティとして外国人の活躍も重要。各企業でも工夫しておられたが、共に気持ちよく働ける環境整備が今後さらに求められる。また、場所を問わない働き方が浸透していく中、世界的に影響力のある商品等を地方で生み出すグローカル化が進み、地方企業の存在感や可能性が大きくなるだろう。

地方移住への関心が高まる中、地方にとってはチャンス。地域とつながりが深い人に向けた移住に役立つ情報の発信、IT環境の整備、空き家や廃校の利活用によるサテライトオフィス整備等が有効となる。

近年、地方圏における住民に占める外国人の割合は増加している。市町村は、外国人住民と対話を重ね、そのニーズを把握し、共生のための良好な環境づくりを行っていく必要がある。

 

大沼准教授

自治体と企業の連携という意味では、今回ヒアリングを行った企業は食品関係ということもあり、大幅な減収となっている企業は少なかったため、壊滅的な打撃を受けている他の観光業などの雇用の受け皿を自治体と連携して創出していくこともこうした危機下においては重要ではないか。また、ライフステージに応じて、若い頃は都市部で、子育て世帯となったら自然豊かな地方で、というように企業における人材の配置と自治体による世代ごとの環境整備への支援という連携ができれば、40代半ばや50代で都市部に戻っても、老後もその自治体に戻ってこようと思うのではないか。

企業と自治体との連携を双方向で考える仕組みづくりが今後重要だと感じた。

 

オンライン報告会は初めての試みでしたが、全国から60名を超える方の参加をいただき、研究成果の発信のあり方に新しい示唆を与えるものと感じています。

2021.04.01