著者
大正大学地域創生学部 地域創生学科 専任講師
米崎克彦
本稿では、新型コロナウイルス感染症の世界的流行をきっかけとし大きく変化した大学教育現場を、大正大学地域創生学部を例に取り上げ、また新たな取り組みついても紹介する。
2020年度は、新型コロナウイルス感染症の流行を受け、社会全体としてオンライン化に取り組まざるをえない状況となった。大正大学においても、新学期は全面オンラインでの講義スタートとなった。2020年度から本格的にオンラインでの講義を取り組む中で、その長所と短所が徐々に明らかとなり始めた。一般的な講義において、講義面ではIT技術の発展の恩恵もあり対面形式の講義とそん色ないレベルの取り組みをおこなえるように感じる一方で、学生の理解度などの把握が講義中に行うのが困難である。そのため理解度を把握するため、各講義における課題の増加がみられている。さらに、ゼミナールや実習、アクティブラーニングにおいては、従来の対面型をそのまま実行することは不可能であり、新たに作り直す必要があった。
地域創生学部では、2020年度スタートより、全面オンラインという新たな試みに教職員・学生すべてが直面することとなった。地域創生学部では、前年度からMicrosoft社のTeamsというオンライン上でのコラボレーションプラットフォームを利用しており、Teamsを中心としたオンラインでの講義を展開した。(一部Zoomなども利用している。)
図1 Teamsの画面
大人数でのオンラインでの講義となると、学生の様子をチェックするのも難しく、また通信状況の問題もあり、基本は顔を出さない状況となる。この状況は、教員と学生間の問題だけでなく、学生間でのコミュニケーションのやり取りも制限することとなっている。そのため、図1であるように、時間をとり、学生にオンライン上で意見を述べてもらい、それにコメントをするような取り組みをしている。授業アンケートなどを見ていると、同じ講義を受けた仲間がどのように考えているのか、意見が可視化されることで、それぞれの意見にコメントをしたりすることもあり、学生の内容理解に貢献していることが見て取れる。
2021年度に入り、大学の講義はハイブリッド(ハイフレックス)とよばれる、対面とオンライン講義の併用やオンディマンドコンテンツの利用など進んでいる。地域創生学部では、ハイブリットの環境の下、新たな取り組みとして『地域課題解決実践論』という講義を立ち上げた。この講義は、前年度に全面オンラインとなった地域実習や制約を受けたアクティブラーニング系の講義を補完することを目的とした講義である。コロナウイルス感染症の状況も変化することより、感染対策をおこなったうえで、地域での活動をおこなえるのか、またそもそもオンラインを基本とした研究活動の可能性と限界を探る取り組みをおこなった。
初年度となる2021年度は、3つのプロジェクトに分かれて取り組んだ。プロジェクトA/Bの2つは、コロナウイルス感染症のもと地域でどのように活動をおこなえるのかという問題に挑戦している。プロジェクトAは、大学のある巣鴨商店街での店舗経営(マーケティングの実践)であり、近年注目されているSDGsの観点を取り入れた商品を実際に企画し、学生たち自身で店舗の運営管理をおこなっている。
▷掲載記事
プロジェクトBでは、大学のある豊島区における公園の活用(コミュニティ問題)を、豊島区役所の方々とともに考え、実践をおこなった。政府の政策である「地方創生」であると、消滅可能性都市などの人口減少問題に注目が集まるが、自分の大学のある東京の街においても地域問題は存在し、現実を知るといった重要な活動になっている。
これらに対して、プロジェクトCにおいては、データサイエンスを中心として、様々な情報を取集し分析を行い自らの問題意識を深めることに挑戦をした。このプロジェクトでは、メンバーそれぞれが自分の研究課題をもち、オンラインなどで手に入れられる情報を中心に研究を進め、週1回、報告をおこない、それについて議論をおこなった。
学生の取り組みの一部分であるが、以下2点紹介する。
図2 学生の作成した報告書の一部①
1点目は、巣鴨商店街およびその人流に関して研究をおこなっている。図2においては、定点カメラから得られる情報とYahoo!が提供するDS.INSGHTというサービスを利用して人流を調査している。近年ビックデータが注目をされているが、これらのデータのもとはスマートフォンの位置情報である。ただし、すべての人が携帯しているわけでもなく、調査対象によっては正しい情報を表していない、ビックデータの弱点を指摘している。
図3 学生の作成した報告書の一部②
2点目は、道の駅の訪問者に関する分析である。コロナウイルス感染症の影響を時系列データで検討するところから始め、どのような範囲で人が動いているのか、その変化を検討している。そして図3では、DS.INSGHTで得たデータを地図ソフトにおいて可視化している。それぞれの数字の変動だけでなく、位置関係なども要因として検討するために、これらの手法は有効であり、地図の情報からも得られるものが多いことが一連の検討会からもわかった。
2021年度の地域実習もコロナウイルス感染症の影響からオンラインでの実習となった。様々な制限の中での活動を通じて、学生たちは期待以上のものを生み出してくれている。制限がなくなったとしても、データサイエンスの知見は生かしていくべきであり、また大学近辺での対策を行ったうえでの活動は、この先の実習にも生かしていけると考えている。次年度においても、新たな可能性を探るためにも新たな取り組みを行っていく予定である。
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