「意味を共につくる」思考で地域をつくる−藤枝市未来型働き方セミナーの講演から

著者
大正大学地域構想研究所 地域支局研究員
天野浩史

昨年度、藤枝支局として参画した藤枝ICTコンソーシアム主催「藤枝市未来型人材育成プロジェクト」では、年度末に受講生・求職者と地元企業が出会い、交流する場として「未来型働き方セミナー」を開催し、セミナーにて講演・ワークショップを実施いたしました。テレワークや兼業・副業など新しい働き方が生まれ、コロナ禍によって働き方の多様性が加速した現在、首都圏を中心に「今いる場所から、好きな地域に関わる」という働き手が増加しています。具体的には、前回のレポートの後半でもお伝えしたような社会現象が静岡では生まれているのです。セミナーでは、そういった働き方の変化を模索する働き手を「意味探究ワーカー」と称して、地域の中小企業やNPOは、意味探究ワーカーとの関わり方をどのようにつくり、育めばいいのかを考える場となりました。今回のレポートでは、セミナーの内容をご紹介しながら、意味探究ワーカーと「意味を共につくる」という思考を考えてみたいと思います。

企業における中途採用やNPOでのボランティア参画など、従来のマッチングは「受入側が提示する条件を元にマッチする人を採用する」という考え方が前提にあります。この場合、多くは「条件に合うかどうか」という視点で受入側・ワーカー側も相互理解を進めていきます。設定された条件やルールに基づいて判断が進んでいくといえるでしょう。しかし、自分の人生の目的や未来の理想とする姿を模索する意味探究ワーカーは、条件よりも「この組織で自分はどんな力を発揮でき、どんな経験を得られるのか」を重視しているように思います。こういった経験の価値を、受け売りですが意味報酬と私は呼んでいます。

 

そう考えると、意味探究ワーカーに対して受入側が従来型の視点や思考(給料や労働条件に合わせて、できるかどうか)を前提にマッチングを進めようと思うと、採用がうまく進まなかったり、採用後に誤解やずれが発生した際に対応ができなかったりと、ミスマッチが生じやすいのではないでしょうか。

ここで「意味を共につくる(意味の共創)」という視点をセミナーでは提示しました。つまり、受入側は「この人の持ち味や個性はなんだろう?どうやったら私たちの会社でその持ち味は光るのだろう?」という問いを。ワーカー側は「私の持ち味や個性はなんだろう?この組織でどう活かせるのだろう?」という問いを元に、互いに互いが関わる「意味」を創造するという考え方です。こういった前提に立つと、マッチングの場は選考・採用する/されるという関係性の場ではなく、共に探究を深め、創造的な何かを生み出していく構想の場に変わるのではないかと思います。少なくとも、私が関わってきた兼業・副業プロジェクトの現場では、そういった営みが起きていたように思います。

 

 

セミナーの後半では、実際にワークショップ形式で、企業側・求職者側がペアワークで意味の共創を行うというプログラムを実施してみました。難しいワークではあったものの、参加者からは価値観が転換するワークだったというコメントをいただくことができました。

昨年度は未来型人材育成プロジェクトをきっかけに、働き手や学び手の変化を「意味」と捉え、その変化を活かして企業や地域が「共に意味をつくるパートナー」となるための手法の研究・開発に取り組んだ一年だったように思います。このセミナーの後日、意味を共につくる手法を地域づくりに拡張した「意味の共創アプローチ」として体系化し、地域づくりやケアの領域と意味の共創について、お話をする機会もいただきました(臨床における「人間の尊厳」研究プロジェクト主催「ケアの人間学」合同研究会にて講演)。雇用条件だけではなく、性別や学歴、ハンディキャップなど、社会的・歴史的に形成された観念で判定されることが、まだまだこの社会では多いと思います。働き手や学び手が多様に変化する中、意味を共につくるという立場に立った仕事や学びが生まれることで、多様性がチカラに変わる地域社会をつくれるのではないか。こういった仮説を元に、事例づくりと研究を進めていきたいと思います。

2021.04.15