IT産業の東京一極集中の現状

著者
大正大学 地域構想研究所 主任研究員
中島 ゆき

「東京の人口一極集中の是正に歯止めがかかっていない」という地方創生の中間点検がまち・ひと・しごと創生会議で報告され、先月それを踏まえた2018年度の基本方針がまとまった。

起業・雇用の創出といった中心軸がラインナップされているが、その中の一つに中枢・中核都市の機能強化が挙げられている。地方中枢・中核都市の人口転出超過に歯止めがかからない中、しごと創出が人口流出を食い止め流入を促進するという、しごと創出都市としての機能強化が求められている訳である。

ここでキーファクターとなっているのがIT産業である。IT産業の生産活動が他の産業全体に及ぼす経済波及効果は、全産業の中で最大と言われており、(総務省「平成29年通信利用動向調査」より)成長産業としての期待が高い分野である。IT産業が地方で育っていくことで、地域経済の活性化に対する寄与は大きい上に、人口転出の大きな歯止めとなると言える。しかしながら、IT産業の東京一極集中度は人口の集中以上に激しいという点に注目したい。

なぜ、成長産業であるIT産業が地方で育たないのか。

地方でIT産業が創出され育つためには、何が必要なのであろうか?

IT産業の首位都市への集中は、海外でも総就業者数の集中度を上回っており、「知的集約型サービス業は集積メリットを求めて首位都市に集まりやすい」(西崎文平「東京一極集中と経済成長」2015より抜粋)ことがわかっている。ここで語られる「知的集約型サービス業」の代表格がIT産業であり、西崎(同)の調べによると、東京のIT産業の集中度は他国と比べて高い傾向が示されている。

それでは、地方でIT産業が創出され育つためには、何が必要なのであろうか。

日本のIT産業の構造上の特性や消費者のIT活用状態、地理的な環境面など、さまざまな要素が考えられる。本コーナーで数回にわたって、これらの考えられる要素を考察していこうと思う。

初回は、IT産業の東京一極集中の状態を把握してみることからはじめる。

人口の集中度よりも激しいIT産業の東京一極集中

まず、IT就業者数の多い東京および神奈川、愛知、大阪で比較した。(図1)は産業別就業者数の集中度をみたものである。これによると、東京のIT産業の集中度は51.1%と半数以上が東京に集中している。2番目に多い大阪で9.0%、次いで神奈川7.4%、愛知4.5%であり、東京の集中度がかなり突出していることがわかる。また、IT産業の次に集中度が高いの産業は金融、保険業26,7%、次いで学術研究,専門・技術サービス業25.1%程度であり、IT産業のみが突出して一極集中の状態でにある。

(図1)産業別就業者数の集中度(各産業の従業者数の総従業者数に占める割合)

出所)「平成26年経済センサス‐基礎調査 事業所に関する集計」より筆者作成

 

冒頭で、今年度の地方創生のメニューに中枢・中核都市の機能強化が挙げられていることを記したが、東京一極集中是正に向けて、地方中枢・中核都市では人口の流出の問題もさることながら、IT産業が創出されない、育成されていないといった地域機能の弱さといった課題の大きさが数値からみてとれる。

中でも「インターネット付随サービス」の集中度が高い

IT産業と言っても、その業態は多岐にわたる。集積度が高くなる傾向のIT産業であるが、それが業態種類の特性に起因している可能性も考え、IT産業をさらに細分化した分類でみ、業態で特性があるのかを確認した(図2)。

(図2)

出所)「平成26年経済センサス‐基礎調査 事業所に関する集計」より筆者作成

最も東京への集中度が高い産業はインターネット付随サービスで70.4%である。他のIT産業が50%前後であることと比べても、特に東京に集中している産業であることがわかる。

インターネット付随サービスは、「ポータルサイト・サーバー運営業」、「アプリケーション・サービス・コンテンツプロバイダ」、「インターネット利用サポート業」といった業態である。これらは対個人向け、あるいは対個人向けサービス事業者への提供であることが特徴である。一方で、その他のIT産業の多くは対法人向けサービス提供型である。

このことは、IT産業の構造上の特性であり、この特性が一極集中の傾向を生んでいると考えられる。

次回以降、これらの要因を考察した結果を紹介していく予定でいる。

2018.07.31