著者
大正大学 心理社会学部 専任講師
齋藤知明
待ち侘びた「祭り」
7月8日(金)、9日(土)、大正大学で第12回鴨台盆踊りが開催されました(3年ぶりの実地開催に至るまでの経緯とその理念については前回お伝えした通りです)。
「ハレろ、街も世界も!」のテーマの通り、この2日間は晴天。そのため非常に多くの方々からご来場いただき、過去最高だった第9回(2019年)の6,700人を大きく超えて、延べ12,000人を超える来場者を数えました。盆踊りの輪はかつてない大きさまで広がり、熱気の渦となりました。
コロナ禍での開催、さらには7月からの感染者数の増加傾向のため、来場者はコロナ前よりも多くはならないのではないかとの予想を覆す盛り上がりに、心より驚いています。3年ぶりの「祭り」の開催を、市民が待ち侘びていたことを強く感じた次第です。
第12回の特徴は、なんといっても子どもや親子連れが目立ったこと。今回は感染対策のため食事の屋台は提供せず、代わりに射的やボールすくい、科学体験など子どもが楽しめる「子ども屋台」に特化して準備しましたが、どれも長蛇の列となり、あっという間に品切れになった店もありました。そして、盆踊りの時間になると、踊りを楽しむ浴衣の子どもたちの姿で溢れました。一方で、来場者にはマスクの着用をお願いすることに。ですので、マスクをしながらの実地での盆踊りも、初めての光景となりました。
盆踊りの様子
想定外の1日目
それでは、二日間のレポートをお送りします。
1日目、直前までの周到な準備のもと、開場の16時。出だしの人数はそこまで多くありませんでした。開幕となる学生によるパフォーマンスや踊りの練習会にはポツポツと人が集まってきました。
しかし、今回初めて実施した大正大学の高大連携校である王子総合高校、東洋女子高校、文京学院大学女子高校によるPRタイムから場が一変します。高校生の元気ある挨拶に人が集まってきました。極め付けは、王子総合高校軽音部によるライブです。幹事である高校生から希望があり、急遽2週間前に日程を変更しておこなったライブの歌声で、場の温度が高くなるのを感じました。そして、次の真言宗豊山派学生会による太鼓演奏では、仏教系大学ならではの催しを見たいと集まった方々が一斉に列となりました。
その後の盆踊りには、開始時からたくさんの人が輪の中に入ってきました。例年よりも大きな輪になったことで、踊りの会場と観覧席とを即席で分ける作業をおこなったり、投光器の場所を移動したりなど、臨機応変な動きが求められました。しかしながら、曲がかかれば場には秩序が生まれ、MCの呼びかけに来場者のみなさまは協力してくれました。
一方で、射的と金魚すくいの屋台がある3号館内の出展会場は列で並ぶ人でごった返し、大変密な状態となっていました。整列の中止や屋外へ列の移動をお願いする一幕もあったほどです。そして初日だけでなんと5,000人に近づく来場者がありました。初めて実地開催を経験する実行委員やボランティアの学生だけでなく、何度も体験した筆者や学内関係者もこの状況には驚き、翌日は何かしらの対策を立てなければと感じ、一日目が終わりました。
巣鴨太鼓組「鼓友」と本学の太鼓部「鼓鴨」の共演
さらに超える2日目
盆踊りは複数日にかけて開催されることが多いですが、鴨台盆踊りも例外ではありません。二日間開催できる長所は、1日目の課題をすぐに2日目に改善できることです。一日のみ開催だった第11回を除くこれまでも、実行委員の学生たちはそのように取り組んできたし、今回も同様でした。
しかし、その改善策すらも超える状況が起きます。土曜日は金曜日よりもさらに多くの方の来場を予想していましたが、開場時点ですでに、正門前には西巣鴨の交差点まで至る長い列が生まれていました。また、予定していた駐輪場は、臨時に増設した場所も含めてすぐに埋まっていきました。
その列がさらに呼び水となったのか、2日目は開場から閉場まで継続して構内は賑わいが止みませんでした。屋台は変わらず長い列をなす一方で、元気に動き回る子どもたちも。また、学内で学会がおこなわれていた関係で、盆踊りまでのイベントは8号館内で展開され、初めて複数会場で運営したことも第12回の特徴の一つです。屋内会場である利点を活かして、過去2年間のオンライン中心の盆踊りでコラボした大阪のスターダスト河内と、今回も盆踊り交流会を実施しました。
盆踊りの時間になると、前日以上に鈴生りの状態となりました。この2年間、ここまで所狭しと踊っている景色を見ることがなかったので、とても感慨深い光景でした。
そして、第12回のハイライトは休憩後の盆踊り後半に起きました。「365日の紙飛行機」を踊っている最中に、急に音楽が止まったのです。普通であれば音がなければ踊りも止まるのですが、踊り手自らのアカペラやハミング、そして太鼓の音によって踊りが続いていったのです。その情景はとても幻想的で、かつ、「この一体感を止めたくない」「3年ぶりの盆踊りをずっと踊っていたい」という踊り手や演奏者の気持ちを強く感じました。また、そのように感じたのは周囲も同様だったようで、その様子は多くのSNSにも上げられていました(Twitter)。
最後には第8回から続くアンコールも飛び出し、マスク越しながらもみんなで喝采した「ダンシングヒーロー」で二日間の盆踊りはお開き。来場者は7,000人を超え、歴史的ともいえる第12回は、おかげさまで大きなトラブルや事故もなく無事に終了することができました。
運営による最後の挨拶
私たちの勇気
夏に入ってから感染者の増加が続き、コロナ禍がなかなか明けない状況ですが、この二日間はまさしく「ハレ間」だった気がします。子どもたちに笑顔になる場を提供したい、街の元気を取り戻したい、世界のあらゆる場所に平和が訪れてほしいという思いで準備企画を進めた第12回でした。前回も書きましたが、準備の段階では市民の方々から今回の開催は「街の勇気」になるとも伝えられました。
しかし、今回の開催で、私たちは街の方々から勇気をもらったと感じます。第10回と第11回はオンラインでも盆踊りを実施できたことに喜びを持つ一方で、状況的に街と連携できず大変もどかしい思いをもったままの2年間でした。大学での盆踊りが忘れられていないか、実地開催に疑問を持たれないだろうかと不安になる日々もありました。そのようななか、ここまで開催を待ち侘びてもらい、本番を楽しんでもらった様子を目の当たりにすることができ、本当に勇気づけられました。
実地開催することができた6月の鴨台祭、7月の鴨台盆踊りが盛り上がり、秋以降も大正大学の地域連携事業は展開されていきます。大学と地域、両者共に対話と協働を重ねつつ、時代や情況に対応しながら、常に勇気を与え合える存在として継続していきたいと思います。
第12回鴨台盆踊り実行委員会